テレビは洗脳に最適な道具
序章では、メディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などの報道メディア)とは決して中立無私の存在ではないことを確認した。
これまでの常識を覆された読者も少なからずいたかもしれない。
だが、私たちはこの事実を受け入れ、ここから思考を始めることなしには、メディアによる情報操作から逃れることはできない。
メディアによる洗脳効果は絶大である。
何しろ、多くの一般大衆は中立だと思い込んでいる上に、報道されている内容は100 %正しいと思っている。
ついでに根拠のない権威までついてしまっている。
「新聞にこう書いてあったのだから」「テレビでこう言っていたのだから」と言われるだけで、「だったら、その通りなのだろうと思い込んでしまう。
なかでもテレビの威力は絶大だ。
テレビは視覚情報に訴えかけるメディアだからである。人間には五感というものがあることはご存知だろう。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五つを五感といい、これらは外界の情報を脳内に取り込むための受容器官(受信機) の役割を果たしている。
私は人間が外界の情報を取り込むチャンネルには、この「五感」に加えて「言語」があると考えている。
例えば、私たちは新聞を読んで情報を取り入れることができるが、あれは「視覚情報」とはちょっと違う。
視覚情報としては「目の前に新聞がある」という情報を取り入れているが、新聞に書かれている内容については、視覚情報とは別の経路で入手している。
少なくとも、脳内において「視覚野」と「言語野」は別の場所にある。つまり、視覚情報と言語情報は別の経路で処理されている。
視覚を媒介としてはいるが、視覚情報そのものとは違った脳内処理が行われているのだ。
こう考えると、人間は外界から6種類の情報を取り入れ、脳内でまとめているということになる。
この脳が外部の情報を受容するチャンネルを「モーダルチャンネル」と呼んでいる。
この六つのモーダルチャンネルにはそれぞれに特徴があるが、一般的に言って、人間が最も頼りにするのが視覚情報である。
六つのモーダルチャンネルのなかで最も臨場感が高いのが視覚情報なのである。
人間は夜行性ではなく昼行性の動物なので、太古の昔から視覚情報に頼るのが最も効果的だったのだろう。
脳の中でも視覚野は他の領域と比べて、かなり大きな部分を占めている。視覚の発達という進化とともに大きくなっていったのだろう。
視覚情報の臨場感が高いというのは、感覚として理解しやすいと思う。
例えば、同じストーリーの小説(言語情報)と映画(視覚情報)があったとする。
それぞれ、ある程度の完成度のものであれば、多くの人にとっては映画の方が臨場感が高いと感じるはずだ(どちらが好みかは別問題である)。
しかも、言語の臨場感を得るには、ある程度の訓練が必要とされる。
音声と比較しても、テレビ(視覚情報)とラジオ(聴覚情報)とどちらが臨場感が高いかを考えれば、自ずと答えが出る。
味覚や嗅覚、触覚といった感覚はそれぞれが特殊な感覚なので、通常は視覚や聴覚の臨場感とは比較にならないほど低い。
つまり、人間は視覚に訴えられると強い臨場感を覚えやすいのである。
テレビCMという洗脳道具
ここで疑問として出てくるのは、「実際にテレビは洗脳道具として使われているのか」ということだ。
ある特定の視点を持って報道することと、視聴者に対して意図的に、ある主張を信じ込ませることとは似て非なるものと言える。
前者は報道の正しい姿勢だが、後者は明らかに洗脳である。
テレビ業界には「プロダクト・プレイスメント」と呼ばれる広告手法がある。
かなり昔からある手法で、例えばカーアクションが売りの刑事ドラマで刑事らが乗る車を特定のメーカーの車にし、さりげなくその車の存在をアピールし続けるといった手法だ。
主役級のかっこいい刑事が毎回同じ車に乗ることで、その車にも「かっこいい」というイメージが植え付けられる。
もちろん、メーカーからは広告費が出され、車は無償で提供される。そこまでするほど効果が高いわけだ。
最近はさらに露骨なものもある。中立なふりをした出演タレントがある特定の商品やサービスをさんざん褒めまくるというものだ。
2011年4月に起こった某焼肉チェーンが起こした集団食中毒事件では、事件の直前、テレビ番組でお笑いタレントらが通常の話題のような形でこの焼肉チェーンのサービスの良さを熱く語っていたという。
この番組が悲劇を拡大させてしまったことは明らかだろう。
証拠がないので断定的なことは言えないが、番組自体が広告番組であった可能性も否定できない。
最近のテレビで恐ろしいのは、このように広告なのか、通常の番組なのかがわかりにくくなっていることである。
CMだとわかっていれば、見ている側が防御を張ることもできる。
しかし、普通の番組で、見慣れたタレントに「これ、いいよね」などと言われると、「そうなのか」と思ってしまいがちだ。
もしそれが本心ではなく、広告費を使って言わされているとしたら。それは視聴者への裏切りであり、完全なる洗脳行為であると言わざるをえない。
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