磯貝昌寛の正食医学【第91回】慎みと動物食
文明の発展と衰退
文明の発展は人類の知能が発達したわけではなく、知識の集積によると云われています。
現人類の脳容積の平均は1450㏄といわれます。
数千年前に存在した縄文人は1500㏄、数万年前に存在したネアンデルタール人は1600㏄もあったことが考古学的にわかっています。
脳の大きさと知能の相関には様々な説があるのでここでは触れません。
しかし、現代は膨大な量の知識が過去から集積され、日々の生活はその恩恵をうけていますが、知恵や知能が縄文人よりも優れているかというと、疑わしいところが多々あります。
私は、脳の大きさは食物の硬さによるのではないかと考えています。
硬い食べ物を噛んで噛んで噛みしめた結果、脳が大きくなったと思うのなり、高次な知能を獲得し、生物の頂点に達したヒトは、盛者必衰のごとく、数万年の流れの中では、今衰亡の道を歩んでいるように思われます。
噛んで噛んで噛みしめて造られた人類の頭脳の中でもっとも尊い特徴は「慎み」ではないか、と私は思うのです。
人類は苦労の連続によって文明を創ってきましたが、発達した文明は人類を怠惰へ向かわせました。
歴史を数千年、数万年単位で見ても盛者必衰( 陰陽)はあきらかです。
その中で私たちは次の世代に永続的な生命の鎖を繋いでいくには「慎み」が大切なのではないかと思うのです。
車が発明されて人は歩くことが少なくなり、楽( ラク)になりました。
電気が発明されて暗闇がなくなり、静かなはずの夜が昼間のようににぎやかになりました。
しかし、車は体と脳を聡明にしてくれる歩行を奪い、生命力を貶めてしまいました。
電気は心身を浄化してくれる暗闇を人間から奪うことによって、様々な疾病を作り出してしまったのです。
今、私たちは生命の輝きを失って、はじめて物質に依存した文明の本質に気付いたのです。
原発問題に揺れる昨今、エネルギー政策は太陽光などの自然エネルギーにも向かおうとしています。
しかし、無公害といわれるエネルギーであっても、人間が慎みなくそれに過剰に依存するならば、必ず生命の滅亡を早めます。
一見楽そうであってもその裏にある苦の面を見通すことこそが「慎み」ではないでしょうか。
楽( ラク)を求めて生きてきましたが、その実は病気や災難などの落( ラク)が待っていたのです。
本当の「楽しみ」は「慎み」の生活の中に存在することに気づかされた私たちは、これから新しき世界を築いていかなければなりません。
真生活というマクロビオティック
マクロビオティックは「食養法・真生活法」を西欧へ紹介する言葉として、桜沢如一が18世紀のドイツでクリストフ・ヴィルヘルム・フーフェラントが使いはじめたマクロビオティック(長寿法)を当てて海外に紹介しました。
語源は古代ギリシャ語「マクロビオス」。マコトの生活は遺伝子を次世代につないでいく最も大きなものでないかと思います。
マコトの生活とは、シンプルに表現すると「慎み」といえます。マコトのココロと書いて慎み。
慎みを忘れた人類は、有難いかな、自然の摂理と自らの作り出したモノによって「慎み」の大事さを思い知らされています。
今の人類は繁栄を極めようとしてすでに苦境のただ中にいます。
放射能やその他の石油化学物質に汚染された衣食住の生活は遺伝子を破壊する代表的なものです。
破壊された遺伝子は、病という形を表出させて正常な遺伝子に戻ろうとします。
それが自然治癒力であり、免疫力です。陰陽でみると中庸力といってもよいでしょう。
私も、食べ過ぎを嫌というほど経験したからこそ、少食という慎みの大事さを知りました。
虚弱であった幼少期があったからこそ今があると、心から病弱であったことに感謝できるのです。
慎みの最初であり最大のものは動物食から離れることでしょう。動物食はそのもので「むさぼり」であるのです。
もちろん、環境と体質によっては動物食をしなければ命をつなげないこともありますから、絶対ということは言えないのですが、それでも必要以上の動物食は必ず何らかの問題を発生させるものです。
慎みと動物食
動物食ほど慎みを忘れた行動はありません。
大森英桜は陽性な人間が陽性な動物を食すことは宇宙法則違反と云いました。宇宙の秩序から観たとき、陽と陽は結ばれず反発します。
現代人の抱える多くの病気は動物食から引き起こされているものが大半です。
不安、恐怖、焦りなどの心理状態も動物食から造られた細胞と血液が招くものです。
牛肉は、食肉1㎏ を生産するのに穀物10㎏以上をエサとして消費しなければならないといわれます。
牛肉はエネルギーにおける最大の大食食品です。動物食はどれも植物食に比べてエネルギー効率の悪い大食食品といえます。
洋の東西を問わず、今ほど動物食が浸透した社会はかつて存在しませんでした。
人間の食物の歴史は植物に支えられてきました。
その証拠に、特に日本人は植物からタンパク質を生成する能力が非常に高いのです。
タンパク質がほとんど含まれていない海藻からでさえタンパク質を生成してしまうというのです。
タンパク質なき食物からタンパク質を生成してしまう能力は、私たちの腸内に住みつく腸内細菌のチカラと、オートファジーというタンパク質を自己再生させる遺伝子などの働きによります。
人間だけでなく、すべての草食動物の腸内細菌はタンパク質なき植物からタンパク質を生成する力を持っています。
陰性を陽性に変えることのできる腸内細菌を、肉食動物を除いたすべての動物が持っています。
オートファジーは飢餓状態によってその能力( 体内のタンパク質を自己再生する能力)を高めることがわかっています。
ですから、動物食は高カロリー食ですから、オートファジーのチカラを低めることはあっても高めることはないのです。
そんな有り難い能力を持っていながら、植物をそれほど食べずに動物を食べてしまったら、自らの能力を最大限発揮することができません。
腸内細菌もオートファジーも自らの力を最大限発揮できずにもがき苦しんでいます。
現代の人間も同様、力を出し切ることが出来ずにもがき苦しんでいるのではないでしょうか。
このもがき苦しむ相(スガタ)が心身に現れたのが病ではないかと思うのです。
陽と陽は結ばれず反発し、その反動力として心身に病が現れているのです。
動物食を広く多くの人に行き渡らせるためには、化石燃料の大量消費があってこそでした。
そして、化石燃料から生成された人間にとっての毒物が動物食に蓄積されていたのです。
家畜の多くが化石燃料を原料とした成長ホルモンと抗生物質漬けに遭っていたのです。
現代人の難病奇病は動物食から間接的に摂取した化石燃料を原料とした化学合成物質でないかと私は考えています。
陽と陽は結ばれず反発するという宇宙法則が、皮肉なことに今の現実世界をみるとますます確信せざるを得ないのです。
月刊マクロビオティック 2019年7月号より
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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)
1976年群馬県生まれ。
15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。
食養相談と食養講義に活躍。
「マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。