磯貝昌寛の正食医学【第72回】肝炎と肝硬変
肝臓の働き
肝臓には主に胆汁の生産、養分の貯蔵と流通、毒素の分解の3つの働きがあるといわれています。
食物中の脂肪分は膵臓から分泌される膵液によって消化分解されるのですが、脂肪分は炭水化物やタンパク質などよりも分解されにくく、その分解を補助するのが胆汁です。
膵液によって消化分解された脂肪酸を腸内でより吸収しやすい形に変えるのも胆汁の働きです。
脂肪分の摂り過ぎが肝臓に負担をかけるというのはこのためです。
脂肪には植物性脂肪と動物性脂肪がありますが、圧倒的に消化分解が難しいのが動物性脂肪です。
さらに、動物性脂肪に含まれるホルモン剤や抗生物質などの毒素が肝臓に強烈なダメージを与えます。
小腸で造られた血液と小腸から吸収された養分は、門脈を通って肝臓に送られます。肝臓はそれらの血液と養分を貯蔵したり、必要に応じて全身に巡らせます。
肝臓に余力のある時は食物から取り込まれた毒素は肝臓が分解してしまいますが、肝臓の余力が少なくなってくると毒素は肝臓に溜め込まれます。
さらに肝臓の余力がなくなると、毒素を消化分解できなくなってしまいます。
現代人の多くの肝臓が悲鳴を上げています。肝臓で毒素を消化分解できなくなってくると、肌が黒ずんだり、シミ、そばかす、吹き出物が増えてきます。
毛穴が目立つのも肝臓の悲鳴。心臓に負担がかかっていることを表しています。
常にイライラしていたり、焦燥感が強く、何かに追い立てられているような感覚で日々過ごすのも肝臓からの悲鳴です。
マクロビオティックでは玄米菜食が基本ですが、肝臓に問題のある人は玄米の食べ方を注意しなくてはなりません。
圧力鍋で炊いた玄米を1日3食食べていると、副食との組み合わせ次第ではさらに肝臓に負荷をかけます。
玄米のぬかの部分は脂肪分が豊富ですから、いくら良質な脂肪であっても「過ぎたれば及ばざるに危うし」です。
肝臓に問題のある人は、玄米に大麦を混ぜて土鍋で炊いたり、大根を入れて炊くのもよいです。
玄米100%のごはんよりも、麦や大根入りの玄米ごはんの方がおいしいと感じるようであればその方がよいでしょう。
お粥にすれば肝臓の負担はさらに減ります。
玄米そのものを「おいしく」感じない人は、分搗き米や麺類を主体に食べるのもよいでしょう。
分搗き米にも押し麦や丸麦などの大麦を入れた方がいいでしょう。麺類の粉は日本の伝統的な在来の地粉が一番です。
海外のものであれば古代小麦の麺類がよいです。
さらに肝臓が悲鳴をあげている人には穀物よりも野菜を主に食べることをすすめています。
肝臓は、細胞から出た有害なアンモニアを害の少ない尿素に作り替える働きもしています。
尿素はその後腎臓に運ばれ、ろ過されて尿として排泄されます。食べ物から送られた毒素を分解するだけでなく、身体に蓄積した毒素をも分解・浄化してくれているのです。
身体に溜まった動物性由来と化学物質由来の毒素が排毒されている時は、玄米を食べずに少量の分搗き米や麺類を主食にして大量の野菜を摂ります。
旬の野菜をサラダにしたり、蒸したり、茹でたり、煮たりと、好きな調理法で大量に食べます。
野菜スープや野菜ジュースもよいでしょう。飲み物の方が野菜をたくさん摂れるので、お茶代わりに飲むのもよいです。
三年番茶やハーブティーも、口に合うものをたくさん飲みます。肝臓の排毒時には、マクロビオティックの基本食ではなく、野菜を大量に摂る陽性向けの排毒食が合っています。
B型肝炎が消えた
マクロビオティックを10年近く続けた方で、B型肝炎のキャリアが消えたという人がいます。
一般的にはB型もC型も一度罹ると発症はしなくてもキャリアは消えないということになっています。
しかし、実際に消えた人がいるのです。
無双原理は「変わらないものはない」という原理です。変化の原理です。この世は絶対のない世界です。
常に「うつりかわる」世界です。B型肝炎ウィルスが棲めない肝臓になればいいのです。肝臓はとても活発な代謝の良い臓器です。
食養指導の経験上、肝臓の病気は治りやすいことを実感しています。肝炎も肝硬変も肝臓がんも、治った人がとても多い。肝臓の病気のほとんどが動物性食品の摂り過ぎです。
肝臓の食箋は、純正の穀物菜食が一番です。一切の動物性食品を摂らないことが大事です。
動物性食品や添加物食品から作られた細胞が肝臓から消えれば、肝炎ウィルスは肝臓に必要ありません。
肝炎ウィルスは肝臓の毒素を浄化しようとして存在してくれているのですから、有難い存在です。
自分の身体に合ったマクロビオティックを根気よく続けていれば肝炎のキャリアも消えることをその方は証明してくれたのです。
肝硬変の食養生
肝硬変が重度になると、顔色が土気色になり、急激に痩せてきます。肝臓が硬化するだけでなく、身体全体が硬くなり、ほとんど動けない状態になります。
舌も硬くなり、代謝が滞りますから、黒い舌苔が出てきたり、会話がしにくくなったりします。
陰陽五行では、肝臓に対応する五味に酸味があります。肝臓には酸味が合うことを示していますが、肝硬変に関しては酸味が合わないことがしばしばです。
酸は、ものを溶かすハタラキとともに締める働きもあります。
重症の肝硬変の人の中には酸味が食べられないという人もいるのです。
脂肪肝や肝炎には酸味が合いますから、五行が確立された時代には肝硬変に至るまでの病気は存在しなかったのではないかと想像しています。
肝硬変の食養生でもう一つ重要なのが「塩」です。
肝硬変の人は主に塩分はあまり必要としないのですが、もし使うのであれば岩塩をおすすめします。
海塩に比べて岩塩はマグネシウム(にがり)が少ないのです。マグネシウムは私たちの身体には必要不可欠なものですが、肝硬変に関しては塩から摂るマグネシウムは極力少なくします。
にがり(マグネシウム)がないと豆腐ができないように、マグネシウムにはタンパク質を固めるハタラキがあります。
肝硬変は肝臓だけでなく身体全体が硬化してくる病気なので、一時的にマグネシウム(にがり)を断つのです。
肝硬変も、肝臓のタンパク質がどんな食品由来で硬化してしまったのかで合う食べ物が大きく変わってきます。
チーズやバターなどの乳製品由来で肝硬変になっているのか? 牛肉なのか?豚肉なのか? 鶏肉なのか? または、鰹節や魚の煮干しなのか?
これらの判断が望診であり、味覚なのです。
私たちの五感は環境と調和をするためのセンサーですから、身体に合っているものは「おいしい」のです。
「良薬口に苦し」といいますが、「良薬口に不味し」とは言いません。
「良薬口に苦し」という言葉が生まれた時代は、苦いという陽性を好む陰性な病が多かったのでしょう。
動物食と添加物食の増えた現代にあっては、それらの毒素を消すような食物が非常に大事になってきます。
ニンニク、ニラ、ネギ、タマネギ、ラッキョウのことを五葷といいます。
強いニオイがあるため仏教では嫌っていますが、動物性食品の毒消しに当たるものなので肉食をしていると五葷を好むようになるのです。
逆に考えると、肝硬変の人は五葷を積極的に摂った方がいいのです。
私の経験でも、肝硬変の人でニンニクを毎食摂り続けて治ったという人がいます。肝臓がキレイになれば五葷も必要なくなり、「葷酒山門に入るを許さず」の意味がよくわかります。
月刊マクロビオティック 2017年12月号より
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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)
1976年群馬県生まれ。
15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。
食養相談と食養講義に活躍。
「マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。