四季の摘み菜12ヵ月 健康野草の楽しみ方と料理法 平谷 けいこ (著)

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四季の摘み菜12ヵ月 健康野草の楽しみ方と料理法 摘んだ草がたちまちごちそうになる。身近な72種を紹介 (ヤマケイ文庫)

摘み菜って、な~に

摘み菜とは、珍しいものや特別なことではなく、街の中でも、野山でも、身近に生えている食べられる草や木の「菜」を摘んでいただくという、誰でもできる楽しみです。

四季おりおり、ページを繰るごとに、ちょっとおいしい摘み菜たちがあなたと遊びます。

「平谷さんが野原に出ると、もう戻って来えへん」と、いつも仲間たちはこぼします。

そう、見知っている摘み菜に出会うと、まるで幼なじみに出会ったように嬉しくて、「あんた、こんなとこにいてたん?あんたもいてたん」と時を忘れて遊びます。

摘み菜は身近な宝物

「えっ、ネギ坊主のバターライス?」「まぁきれい、サザンカの花ゼリー!」。

野に摘んでいると、草たちだけでなく、サザンカの木も浜辺のホンダワラも顔なじみになり、「遊ぼうよ」って、呼ぶんです。

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薄紅色のサザンカの花を眺めながら、「お茶の木の白い花と同じ仲間だから食べられるかな」と、有用植物事典で調べたり、薬草園や博物館にたずねてみたら、昔はツバキのように種から食用油を絞っていたとわかりました。

「実が食用なら、花も食べられるね」。

地球上の約30万種の植物のうち、現在、食べられている植物は約1万種。そして、野菜として利用されているのはたったの1000種ほどです。

まだまだ天然の菜が私たちを待っています。

ナズナやハコベ、キクイモやマツなど、古来から食されていた、たくさんの摘み菜たち。そして、今でも地方や外国では、野菜として活躍中のものもたくさんあります。

「野生の菜」はビタミン、ミネラルも豊富、おまけに無農薬で無料とあっては、利用しない手はありません。

いつでも摘み菜したいから

いくらタダと言っても、好き放題に採っては、翌年に同じところでその恵みに出会うことはできなくなります。

「たくさん生えている摘み菜だけを」「家族でちょっと楽しむ分だけ、指先で摘む」。これが原則です。

決して全部の芽を摘んだり、スコップで根こそぎ抜かないようにしています。もちろん、私有地に入るのもいけません。

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山菜や山野草のブームで、各地の自然がレジャー客や業者に荒らされ、地元の人たちを困らせています。

「山菜を採らないで!」といった立て札を立てざるをえないのはさびしいことです。

また、幻の希少種になってしまったものや数が減ってきている在来種は、どんなにおいしそうでも、見るだけで我慢です。

でも大丈夫、そのすぐそばに外来種で、意外とおいしい摘み菜が元気に育っていますから。どんどん摘んでいただきます。

今夜はセンダングサの天ぷらです。

野生のナデシコが種をつけているのを見つけたら、その土地と様子のよく似た野山に播いてきます。摘み菜人、あるときは「花咲かおばさん」です。

四つ葉怪談

ちょっとコワイ話があります。ある市街地に行ったときのこと、セイタカアワダチソウの繁殖を抑えるために、クローバーを植えているところがありました。

いつもの習いで幸せの四つ葉探しを始めました。すると、ここにもあそこにもと、たくさんあるのです。

「幸せがこんなにたくさん!」と喜んだのはつかの間、ふと横を見ると、舗装の残りを捨てたらしいコールタールの固まりがありました。

四つ葉は奇形の―つで、排水口の近くや日陰などのジメジメした、クローバーにとっては環境のあまりよくないところにも多く見られます。

「こんなゆがんだ幸せは要らない」と思い、摘まずに帰りました。

もう一っ、松葉から出る精油は防腐剤の成分でもあります。

ところが松葉サイダーを作るとき、自然水で作るとうまくできるのに、水道水で作ると腐ってしまうのです。

防腐剤である松葉を腐らせてしまうほど、私たちは水を汚してしまったのですね。

農薬を使って育てられた作物は、今すぐには結果が出なくても、子供や孫の世代にアトピーやガンのような病気が増えるなど、見えにくい形で影響が出てきます。

今の科学、技術をすべて否定するわけではありませんが、追求すると、自然や命を脅かしてしまいます。

摘み菜をしていると、水辺の菜も安心して摘みたいから、と、自然に思うようになりました。

便利さや合理性ばかりを合成洗剤はやめておこう摘み分ける知恵をつなぐ去年、ツクシを摘みに行ったところが、今年行ってみたらアスファルトで固められていたりすると、「また一っ、宝箱が消えてしまった」と悲しい思いをします。

都会の暮らしの中で自然との付き合いが消えていくスピードは、すさまじいものがあります。

個人が摘み菜の知恵を伝えていくだけでは、その勢いに追いつきません。

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ワラビを製品として買うだけで、アク抜きの方法を知らない世代が続けば、将来には「ワラビには発ガン性物質が含まれている」という情報だけが残って、ワラビは毒草ということにもなりかねません。

私たちは「摘み菜ごころ」を次の世代につなぐために、1995年に「摘み菜を伝える会」を発足させました。

「庭の雑草がごちそうに見えてきました」と笑う方、「クズの葉を見て、父母がクズの根を掘ってさらしていた子供のころを思い出したわ」と懐かしがる方など、仲間はもう200人を超えました。

今まで見過ごしていた、すぐそばの草木たちが命の糧だと気づくたびに、ほっと嬉しくなります。

そんな摘み菜の楽しさと知恵を、より多くの方に手渡せたらと、摘み菜の出会いと手軽な料理法を一冊にまとめました。

多くの人たちに野や街の草木たちと楽しく遊び、味わい、心のぬくもりを感じていただけたら幸いです。

あしたから、道で出会った摘み菜たちが、きっと、あなたに「遊ぼうよ」って、ほほえむでしょう。

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