●学術的にがん検診の有効性を完全否定した、初めての本
「妻に勧められ検診を受けたら、早期のがんが見つかり手術・完治した」……今年伝えられた有名芸能人のニュースをはじめ、「がん検診は受けたほうがいい」は国民の共通認識になっています。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
著者は、「がん検診が寿命を延ばす」というデータは世界中のどこにもないことを明らかにします。
そればかりか、たとえば肺がん検診の場合、信頼性のおける4つの世界的学術調査のすべてで、「がん検診は、受けた人のほうが受けない人よりも早死にする」というデータが出ているのです。
間違いだらけのガイドライン
日本の胃がん検診で根拠とされているのが、「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版」(国立がん研究センター)なるものである。
いったい何が書いてあるのだろうか。
中心になっているのは、胃がん検診を評価した国内外の論文5つを取り上げて、結果をまとめたという記述である。
すべて症例対照研究によるもので、そのうちの4編のデータがグラフとして提示されていた。
そのうちのひとつは、両グループで受診率に差がなかったことを示していた。
またガイドラインで取り上げられた論文をすべて読んでみたところ、なぜかグラフから外された論文も、やはり差がないと結論したものだった。
さらに、差があったとする論文のひとつは、「さらに男女に分けたら」とか、「過去1年以内の受診歴を除外すると」等など、統計学的な差が見つかるまで、あの手この手で、思いつきの条件を定めて比較を繰り返していた。
つまり、都合の良い結果が得られるまで分析を続け、適当に終わりにしていたのである。
たとえば、会社の上司が、部下と徹夜でマージャンをしている場面を想像してほしい。負けが続いたあと自分が勝ったところでお開きにし、「やっぱり俺は強かった!」と言っているのと同じではないだろうか。
これは、統計学の専門家であれば必ず知っているはずの「多重比較」という問題で、特別な計算処理が必要となるのであるが、その論文では行なわれていなかった。
結局、ガイドラインが科学的根拠として取り上げた5つの論文のうち、3つまでが胃がん死亡を減少させる効果を証明できていないものだったのである。
念のために繰り返すが、効果が証明できたとする残り2つの論文も症例対照研究でしかない。
胃カメラ検診登場
レントゲン検査には放射線の害があるのではないか、とは多くの人が感じているところであろう。
またレントゲン線で透かして見るよりも、ファイバースコープで直接、見たほうが小さな変化まで見つけ出すことができる、などの発想から、胃カメラによる胃がん検診が急速に普及している。
ひとつだけ確かなことは、胃カメラによる胃がん検診の有効性を証明したデータがひとつも存在しないということだ。
前述のガイドラインにも、そのことが明記されている。
厚生労働省も、これまで科学的根拠が不十分であるとして「胃カメラによる検診は推奨しない」としてきた。
ところが2015年になって態度が変わり、全国の市町村に対し導入を検討するように指針を改めた。理由は、前述した国立がん研究センターが科学的根拠を確認したと発表したためとしている。
たしかに同センターのホームページにはそのような記述がある。
しかし根拠としている同ガイドラインには、「まだ根拠が十分でない」と書いてある。同時に、ガイドラインを改定したとも書いてあり、そこには新たな論文が参考文献として確かにあげられていた。
念のため、それらの論文にもすべて目を通してみたが、やはりランダム化比較試験はまったく行なわれておらず、わずか13人しか調べていないものや、統計学の基本を無視したものも目立った。
日本のガイドラインの多くは、このようなずさんさが目立ち、信頼感を著しく損ねている。
お憐の韓国では、日本よりひと足先に胃カメラ検診が普及し、論文も発表されているが、やはり正しい検証がなされてしるとは言いがたい。
胃がん検診は、胃カメラの登場で見かけは新しくなったが、依然として根拠がないまま惰性で行なわれている。
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