奇跡の杉―「金のなる木」を作った男 船瀬 俊介 (著)

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奇跡の杉―「金のなる木」を作った男

杉の学名「クリプトメリア・ジャポニカ」は、“隠された日本の財産”という意味。すなわち「杉は宝」だ。

いつの世も偉大な変革をなすのは偉大なアマチュアである――。

「山の草」と揶揄されるほど役に立たない”杉”を「日本の宝」に変身させた、ある素人の偉大なる発明に迫る!

杉から広がる日本の明るい未来像に迫った、環境派ノンフィクション。

現在、世界での主流は100℃近い「高温蒸気乾燥」。これでは木の価値はすべて失われる。

それは木の「酵素」を熱破壊し、生命「エキス」を嘔吐させ、〝木を殺して〟いるのだ。

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◉「愛工房」、地球を救う究極の発明

天然資源の木材は、「超低温乾燥」の「愛工房」を経てのみ最高級の天然素材としての輝きを放つ。

だから、私は本書の筆をとったのだ。

一人でも多くの人々に、この〝奇跡〟の存在を知ってもらうために、活かしてもらうために――。

木材が最高の価値をもてば、世界中でコンクリート文明に代わって、木造文明が復活するだろう。

木造都市の曙が、近未来の地球の姿を示すだろう。木材は大気中のCO2を吸収固定する。

木造都市の建設は、都市を〝CO2貯蔵庫〟とすることだ。

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つまり、街に〝第二の森〟を築く。山の伐採した跡地には樹木の苗を植える。

それは成長の過程でCO2を吸収しつづける。木を活用することは森を活かし、森を育てることだ。

さらには地球温暖化を防ぐ。それは地球をも救う。

未来を拓く偉大なるアマチュア

◉「私にはわかりません」
前章で「愛工房」九つの衝撃を挙げた。
まず45℃という低温なのに、

「なぜ、自然乾燥の一〇~二〇倍もの速さで乾くのか?」

「なぜ、非常に乾きにくい木である杉が乾くのか?」

「なぜ、ほとんど『反らない』『割れない』『よじれない』のか?」

「なぜ、『色』『艶』『香り』が際立つのか?」

「なぜ、…………?」 わからないことばかりである。

ただはっきりしているのは、この「愛工房」という天然木でできた〝乾燥箱〟から人類が体験したことのない〝スーパーウッド〟が産まれた、という事実である。

なにしろ発明した産みの親の伊藤好則さんが、「私にはわかりません。みなさんで考えてください」と微笑むだけなのだ。

◉木の劣等生が優等生に!

加藤論文によれば、日本国土の森林面積は66%の2510万ha。そのうち人工林が1120万ha。

森林の約半分が人工林だ。その人工林の44%が杉である。

「乱暴に言いますと、『国土の森林のうち四本に一本以上は杉』ということになります」(加藤さん)

彼がこの論文を通じて訴えていることは、杉の活用、すなわち杉を伐らせてもらうことだ。

杉への深い愛情は論文の隅々までにあふれている。

それまで木材プロとして加藤さんの認識は、杉は「乾かない」「狂う」「動く」「内部割れする」……などなど。杉にいいイメージはほとんどなかった。

「それでも杉は好きだった。なにかやってくれそうな気がしていた。でも業界の評判は悪い。使いこなせないからね」

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それに比べてヒノキは優等生だ。

「ほっておいても乾く。ムシ、ダニ、ネズミも嫌う」

もっと杉を有用に活かしたい──。その思いだけが募るばかり。

「日本書紀にも杉は書かれている。『赤身』は舟材に使われた。米びつ、味噌樽、命の次に大事な食べ物を杉に入れてきたんだ。登呂遺跡にすら杉が残されている。ただ、杉を年単位乾燥させるという、本来の自然乾燥がビジネスでできなくなってしまった……」

スピード時代の経済原則が杉を滅ぼしてしまったともいえる。

「とくに杉の『赤身』は乾かない。それも材木屋しか知らない。杉を活かせないのは、乾燥
方法がないからなんです」

そんな彼の絶望感は「愛工房」との出合いで覆くつがえった。「乾かない」はずの杉が見事に乾いている……! それも「絶乾状態の含水率」にまで。

「杉のすばらしいポテンシャルに気づかせてくれた『愛工房』との出合いに感謝して」

彼はこの論考の筆をとった。

◉「奇跡の杉」未来を変える

この「木の箱」の乾燥装置は、発明者・伊藤さんの思いを超えて、大きく成長していくだろう。

アメリカのオバマ新大統領は温暖化対策に「緑のニューディル政策」を掲げ、民主党新政権の鳩山首相はCO225%削減を国連演説で国際公約とした。

マニフェストにこうある。

「森林整備を実施するために、必要な費用を森林所有者に公布する『森林管理・環境保全』直接支払い精度を導入する」

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「愛工房」が大きく成長するレールは敷かれた。全国の山々で見捨てられていた杉が「愛工房」で〝奇跡の杉〟として復活する。

全国に二〇〇年、三〇〇年寿命の超省エネ住宅が建てられるだろう。

杉の温もり、肌あい、香りの癒し効果は、幼稚園、学校、老人ホーム、オフィス、さらに木造ビル、木造都市に住む人々の心身を癒してくれることだろう。

日本の林業も建築業も、目を見張る復活を遂げるだろう。

全国各地の「川上」の限界集落に「愛工房」の木工・天然家具工房が次々に生まれるだろう。

若者たちは、そこに希望を得る。それは、まさに内需拡大。地域活性化の道筋だ。 

世界に誇る「奇跡の杉」の誕生は、そのはるか道筋を拓いていく。

「乾燥機がすばらしいのではない。杉がすばらしいのです」(伊藤さん)

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