植物に触れて育てることで心身の回復を図る「園芸療法」【五感を刺激し機能回復、認知症も予防】

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植物に触れて、育てることで、心身の回復を図る「園芸療法」は、医療機関や養護老人施設、学校などでセラピーの一つとして取り入れられています。

その手法は、押し花やフラワーアレンジメント、種まき、クッキングなど多岐に渡ります。

クラアイントの五感に働きかける園芸療法は、さまざまなセラピーと融合しやすいため、セラピストであれば知っておきたい療法です。第一特集では、園芸療法の基礎から実際の活用事例までを取材し、紹介します。

写真◎山口結子

園芸療法をはじめる前にーーー

特集のはじめに、園芸療法の定義や歴史、対象となるクライアントやそのプログラムを紹介します。

取材・文◎小澤由美子

1 園芸療法の定義と歴史とは?

園芸療法とは、園芸と医療・福祉に関する専門的な知識を持ち、訓練を受けた園芸療法士が、心身に何らかの支障を持つクライアントに対し、医療・福祉的な関わりとともに園芸を行うことを言います。   

園芸療法士は、植物を一緒に育てることでクライアントが喜び、自信を持ち、思いやりの心を育めるように、心身が健やかでいられるように、さまざまな配慮をします。

また、今後の活動のために記録を取ったり、効果の確認をしたりもします。

そのため園芸療法士は、園芸や福祉・医療に関わる幅広い知識や理解が必要であると言えるでしょう。

園芸療法の歴史を振り返ってみましょう。

ガーデニングが盛んなイギリスでは、1973年に英国園芸療法協会(現THRIVE)が設立されました。

しかしこの国のガーデニングに対する考え方は、もともと療法的というより園芸を楽しむ傾向がありました。

一方アメリカでは、臨床や研究を基に、園芸をセラピーとして用いるようになり、1978年にアメリカ園芸療法協会(AHTA)が設立されます。

園芸療法に関心の高い日本人は、アメリカに留学して学び、資格を取得し、帰国後に日本で園芸療法士として活躍するようになりました。

日本で最初に園芸を療法として推奨したのは、園芸学者である塚本洋太郎氏が著した『園芸の時代』(1978年)と言われています。

現在はさまざまな協会や学会が設立され、日本の園芸療法士の育成・研究・実践に力を入れています。

2 園芸療法は、誰のためのセラピー?

園芸療法士は、どのようなクライアントが対象になるのでしょうか。

まず考えられるのが、養老介護や有料老人ホーム、デイサービスなど、さまざまな施設を利用する高齢者です。

たとえば認知症患者は、園芸療法をすることで土に触れる、苗を植える、花を眺めるなど、普段の施設の暮らしでは行わない活動で体力をつけたり、記憶力の維持などが期待できます。

また、施設に通う障がい者が、自然に触れて喜んだり、人と関わることで、心身のケアができるでしょう。

子どもへの園芸療法も今後は注目が高まりそうです。

植物に興味を持つ、自分に自信がつく、友達とペースを合わせるなど、園芸療法によりさまざまなことが習得できます。

また、アルコールや薬物中毒患者の社会復帰や心のケアに役立てることも可能です。

3 心と身体のどこにアプローチするの?

園芸療法はどのような効果が期待できるのでしょうか。

高齢者への効果は、主に「精神」「知能」「社会性」「身体機能」の4つに分類できます(表1参照)。

まず「精神」への効果は、楽しみを待つ、情緒が安定する、物事への関心・意欲を持つなど、病気や障害により失われてしまった心の豊かさを取り戻すというものです。

デイサービスに通う70代のある女性は園芸への関心が高く、何でも手際よく完成させ、出来上がりにもこだわりを見せていました。

共同作業でフラワーアレンジメントをしたときは、迷っている方に「ここに挿したらどう?」とアドバイスをするなど、自身の役割を心得えていました。

「デイサービスに来て、花に触れるなんて考えてもいなかった」と嬉しそうに語り、植物に触れ、育てることが生活の活力になったそうです。

他にも、

「徘徊の傾向があった男性が、園芸療法を継続して行うことで落ち着いて作業できるようになり、表情が豊かになった」

「歩行に不安があり、怒るなど感情の起伏が激しかった方が落ち着き、穏やかになった」

「園芸を一緒に行う仲間ができて、不得意な作業にも前向きに取り組むようになった」などの事例が報告されています。

二つ目の「知能」への効果は、記憶力の維持・回復・増進、五感の刺激による知覚・認知機能の維持・回復・増進など、知能的な回復力を維持し、かつ高めることがあります。

左手に麻痺があり、車椅子を使った生活をしているある方は、手が不自由ながら一生懸命園芸に取り組んでいました。

ある日、フラワーアレンジメントのプログラムで「この花は何ですか」という問いかけに、大きな声で「リンドウ!」と得意そうに回答。

それからは、一度聞いた花の名前を繰り返し復唱して覚えようとする様子が見られ、花の名前を聞かれると皆の前で答えて自信を深めていき、表情も豊かになったそうです。

そして三つ目の「社会性」への効果とは、園芸を通して仲間とコミュニケーションを取るようになり、協調性や思いやりの心を育むことです。

花を上手に育てることで自分に自信を持ち、植物を育てることの責任感と、それによる自立心の回復、また協同作業による仲間への労わり、思いやりの気持ちを取り戻すことができます。

「軽度の認知症の方が、園芸療法で作ったこけ玉の鉢の管理を続けたところ、立派に育ち、とても喜んでいた」

「当初は表情の硬かった認知症の方が、次第にグループに溶け込めるようになった。相手の意思を確認せずに無理やり手伝ってしまう傾向がなくなり、園芸の時間をゆったりと過ごせるようになった」といった報告があります。

最後の「身体機能」への効果は、種をまく、苗を植え替える、療法を行うために部屋から移動するなど、園芸によるさまざまな運動により、筋肉を使うことで体力がつき、新陳代謝を上げることができます。

これらの効果に対して、有料老人ホームを経営する企業によっては〝作業中の様子〟や、〝作業記録〟を報告する「効果表」の提出を定めるケースがあります(表2)。

この点数が上がらないと、園芸療法の効果があったと判断されないため、費用対効果の面から、施設との契約が終わってしまうこともあります。

こうした厳しい一面もありますが、日々クライアントと接する園芸療法士だからこそ、日々の記録を通して、クライアントの良い変化を見逃さないことも大切だと言えるでしょう。

(後略)

セラピスト 2018年8月号より

隔月刊『セラピスト』は、アロマテラピー、ロミロミ、整体などのボディセラピーから、カウンセリングをはじめとする心理療法、スピリチュアルワークまで、さまざまなジャンルを扱っている専門誌です。

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