腸をダマせば身体はよくなる 辨野 義己 (著)

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腸をダマせば身体はよくなる (SB新書)

今や腸脳相関の時代!腸は脳並みに賢いのでダマされる

最近は腸ブームで、腸内環境の良し悪しが健康や病気だけでなく、若さや寿命をも決定づける、として注目されています。

腸内細菌に関する研究論文の数を見ても、1990年代は世界で年間100報前後だったのが、ここ2、3年は年間l200報以上です。

ところが昔、腸は臓器としても、まったく重要視されていませんでした。

雑誌『文藝春秋』(2013年5月号)の「腸内細菌が寿命を決める」という企画で、がん研有明病院の名誉院長、武藤徹一郎先生とお話しする機会があったのですが、

「大腸なんて臓器として重要でないし、単なるクダということで、昔は大腸を専門にしていると不思議がられたものですから、時代が変わったものですね」とおっしゃっていました。

昔はまさに医者までも、腸にダマされていた時代だったのです。

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ところが、1980年代になると、身体のあらゆる器官をコントロールしている脳と同じ機能が腸にもあることがわかり、「腸は第二の脳」といわれるようになりました。

単に食べ物を消化・吸収し、ウンチを送り出すだけの臓器ではなく、脳に次いで多くの神経細胞が腸にある「脳腸相関」についてのことがわかったのです。

さらに最近では、腸内細菌が脳の機能を左右していることがわかり、実は「腸は第一の脳」といわれるようになりました。

腸内細菌のつくる物質と脳が相関し合う「腸脳相関」について、明らかになってきたのです。

このようなことを書くと、いくらなんでも腸が脳よりも先に来るっていうのは……と思う人も多いかもしれません。

ところが、『主治医が見つかる診療所』(テレビ東京系列)というテレビ番組の「腸と脳を元気にするSP」という回に出演したとき、私をはじめ多くの先生方が腸は第一の脳、腸脳相関という考え方を支持したのです。

少なくとも、腸が脳と同じくらい重要な臓器であることに間違いはありません。

みなさんが想像している以上に、腸は脳と同じように、神経細胞のネットワークを駆使して機能しているのです。


腸は考える (岩波新書)

「腸は神経の網タイツをはいている」(藤田恒夫著『腸は考える』岩波新書)といわれるほど、腸壁の神経細胞はたくさんあり、その数は脊髄と同じくらいなのです。

ですから、人間は死んでも、脳の命令なしにしばらくの間、まるでとかげのシッポのように、腸だけは動いています。

つまり、腸独自の神経細胞が働いているのです。このように腸は脳並みに賢いため、私たちはダマされてしまうのです。

脳のルーツは「腸」! 実験によっても認められた腸脳相関

腸脳相関が実験によって注目されたのは2013年4月、協同乳業と理化学研究所、東海大学医学部などの研究チームが、スイスの神経科学誌『Frontiersin Systems Neuroscience』に発表した論文「腸内常在菌の影響を受ける大脳中の低分子代謝副産物」によってです。

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この論文で、世界ではじめて腸脳相関に関する脳内物質が網羅的に確かめられたのです。

実験では、遺伝的な偏りをなくすために、無菌マウス(体内微生物がいないマウス)、1匹のオスと2匹のメスで交配させて誕生したオスの仔マウス12匹を使いました。

無菌状態で育てた6匹と、生後4週目に腸内細菌を常在させるために正常マウスの糞便カクテルを食べさせた6匹の2群に分け、滅菌水や滅菌飼料などを与えて同じ条件で育てたのです。

そして、生後7週目に両群のマウスから脳と大腸の内容物を取り出し、細胞や代謝物(生活活動を行うことで、元の物質から化学変化した物質)を網羅的に測定するため、最新の測定装置を用いてメタボロミクス解析(網羅的な代謝物測定法)をしたのです。

両群のマウスの違いは、腸内細菌の有無だけです。

つまり、無菌マウスと通常マウスの違いです。腸内細菌が脳の代謝に関係していないのなら、両群の代謝物に変化はないことになります。

逆に、代謝物に変化があれば、腸内細菌の働きによるものと考えられるのです。

実験の結果、大脳皮質から代謝物が196成分検出されました。

また、両群の代謝物にも変化が見られたのです。そのうち無菌マウスのほうが通常マウスよりも23成分で高濃度、15成分で低濃度でした。

無菌マウスで高濃度だった23成分には、大脳皮質のエネルギー代謝に関する成分も含まれていました。

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これは無菌マウスのほうが通常マウスよりも大脳のエネルギー消費が多いことを意味しています。

言い換えるのなら、腸内細菌が通常マウスの大脳活動を制限している、とも考えられるのです

ただ、この実験だけでは、腸と脳の双方向のネットワークを形成している神経伝達物質と腸内細菌の関係を詳細に分析することはできません。

しかし、今後も腸脳相関に関する研究を続けるために、この研究は大きな意義があった、といえます。

どの腸内細菌を増やせば、どの神経伝達物質が増えるのか、ということがわかってくれば、健康の増進や病気の治療なとに役立つのはいうまでもありません。

つまり、腸をどうダマせば、身体がよくなるのかがわかるようになるのです。

腸をダマせば身体はよくなる (SB新書)
辨野 義己 SBクリエイティブ 2014-01-17
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