船瀬俊介連載コラム
マスコミのタブー200連発〈123〉(月刊『ザ・フナイ』)
『シンガポールにノックアウト!』 ――ここでも負けてる日本――
ライオンを守護神とする都市国家誕生
この2月中旬、シンガポールを旅した。初めての訪問であった。
この国は極めて特異な小国である。
面積は720平方キロメートル。広さは淡路島より少し広め。日本国土の約500分の1以下の極小地に561万人もの国民が暮らしている。
人口密度はマカオについで世界2位。ちなみに3位、香港を1・2倍もしのぐ。早くいえば、シンガポールは、超狭小国家なのだ。
歴史的にも数奇な運命をたどっている。
マレー半島の南端に位置するため、交通の要衝の地でもあった。
14世紀には、サンスクリット語で「ライオンの町」を意味する〝シンガポーラ〟という名称が定着している。
「マーライオン」といえばシンガポールの有名なシンボル像だ。
各地にその勇姿が聳え立っている。国名の由来なら当然だ。まさに、ライオンこそ、同国の守護神なのだ(写真1)。
大航海時代、ジャワ海を航行する帆船は、眠っていてもシンガポールに着いた、という。
南からの追い風に恵まれた島であった。だから、侵略してきた西欧列強の格好の標的地となった。
1824年、イギリスが同地を植民地として支配した。
しかし、太平洋戦争勃発により山下奉文将軍率いる日本陸軍が進撃、シンガポールは陥落。
さらに、1945年8月、日本の敗戦により第二次大戦は終結。すると、撤退していた英軍が復帰し、またもや植民地支配が復活した。
しかし、長年マレー半島で搾取を強行してきたイギリスに対する現地の反発は強く、独立運動が燃え上がった。
こうして1958年、外交と国防を除く自治権を獲得。同国はマレーシア連邦に所属していたが、統一マレー国民会議とシンガポール人民行動党(PAP)との間で軋轢、対立が表面化した。
1965年、PAP党首リー・クアンユー指揮の下、シンガポールは都市国家として独立を果たした。
独立を国民に宣言したリーは、テレビ演説で涙を流した、という。2015年、死去。91歳。以来リーは、「国父」として国民の尊敬を集め続けている。
シンガポールに日本食を広めた〝和食王〟
今回、シンガポールへの旅は総勢9人。学生時代からの親友Sの呼び掛けで実現した。
彼は製粉会社社長で、オーストラリアのタスマニアで、蕎麦栽培を成功させるなど冒険精神の持ち主である。
その彼が最高の取引先として尊敬、私淑するのがシンガポールのT氏だ。
T氏は若い頃から同国で粉骨砕身の苦労を重ねて実業家として大成された。
まさに、立志伝中の方。成功を収めた事業こそ、現地での和食ビジネスの展開だ。同国における和食ブームは、彼の働きに負うところが大きい。
彼こそ、〝シンガポール和食王〟の尊称がふさわしいだろう。
この旅は、一時病に倒れたSの復帰祝いをかねていた。
そして、T氏は、われわれ一同を、心より歓待してくださった。
その厚情には、ただ感謝、感服しかない。この地は、彼にとって若き頃より活躍した、まさに〝第二の故郷〟――。
そして、案内いただいた4日間は、ただただ感心、驚嘆の連続であった。
彼の所有、経営する店舗は膨大な数にのぼる。
彼は、シンガポール人のヘルシー志向に合わせて、蕎麦(SOBA)導入にも力を入れている。
われわれもいただいたが、日本の一流店にもひけをとらない美味さであった。和食料理「厨」は、週に3回は新鮮な食材を日本から空輸しているという。
さらに、最上腕前の板長も控えている。
その料理には、ただ唸うなるしかない(写2)。
食材の鮮度と風味を最高に活かしている。ここが赤道直下の南国とは、思えない。地元の料理評論家の間でも、常に最上位にランクされている、という。
まさに、どの皿も納得の仕上がりだ。
Tさんがかつてオープンした〝日本食通り〟も案内してもらった。
日本ムード満載の演出が実に楽しい。
通りの上には、なんと〝忍者〟が……。
日本情緒を楽しんでもらう……という、コンセプトが伝わってくる(写真3)。
目を楽しませる演出だけでなく、料理も丹精こめて、どれも実に美味いしそう。寿司なども丁寧に作っており、思わず買いたくなる。
「今は、和食への理解もさらに深まっています。だから、和モダンな店造りにしています」(Tさん)
なるほど、店内インテリアも、実にお洒落で軽快だ(写真4)。
今の日本の若者に欠けているのはTさんのようなチャレンジ精神だ。それは、まちがいない。
相続税ゼロ! 世界の富を呼び込む
シンガポールの住宅街は、林立する高層マンションで埋め尽くされている。
世界2位の人口密度だから当然だ。食料自給率も1・5%という低さ!
猫の額ほどの狭さだから、食料はほとんどをマレー半島などに依存している。
狭小国家が生き残る道は限られている。金融、貿易……そして、観光だ。
そのため、国策として多くの外国資本誘致に注力してきた。すなわち、金融国家として生き残る道だ。
この努力が報われ、1990年代から力強い成長を遂げている。
友人Sは、感にたえたように言う。
「シンガポールの相続税はゼロだぜ!」
「そりゃあスゴイ。金が貯まるなあ」
「だから、こう言われてるんだ。『シンガポールじゃ金持ちが貧乏になるのは、逆立ちしても無理だ』ってよ」
……ナルホド。世界中から資本(金持ち)を呼び込むには、優遇措置が不可欠だ。
こうして、世界の富を呼び込み、金融国家として成功したのだ。
世界の富裕層にとって、税金対策は悩みのタネであろう。だから、脱税のため、世界中の〝タックス・ヘブン(Tax Heaven 税金天国)〟ならぬ〝タックス・ヘイブン(Tax Haven 税金回避地)〟を求めてさまよっているのだ。
しかし、シンガポールでは、合法的に租税回避できる……。
なるほど金持ちが貧乏になるのは難しいわけだ。
だから、同国の国策は「リッチ層を呼び込め」!
その典型がカジノであろう。同国のカジノは、高級ショッピング・モールを眼下に従えている。このモール自体が、目の眩む豪華さだ(写真5)。
「グッチ」「カルチェ」「ルイ・ヴィトン」……など、超高級ブランド以外は、まったく見当たらない。そして、いよいよカジノへ……(写真6)。
エレベーターで上がる前に、Tさんから注意「撮影禁止です。気を付けてください」。
そして、見下ろしたカジノ全景に、息が止まった。
この世の物とは思えない。被写体として、見逃せない。決死の隠し撮りをした。「カジノ誘致」を口にしている日本人も腰を抜かすだろう(写真7)。
これが金満国の賭博場なのだ。日本での経営は、まったく無理だろう。
これだけのスペースに、今の日本で世界のリッチ層を誘致できるか? 逆立ちしても不可能。
しかし、シンガポールは、やってのけている。その経済力の勢いはハンパではない。
ただし、私はカジノ誘致には、絶対反対だ。
この国のカジノは、この国が生き残る戦略、手段なのだ。日本が真似したら大火傷する。
ノックアウト!ここでも日本は負けている
これまで、シンガポールといえば、マレー半島南端の都市国家といった知識しかなかった。
しかし、この狭小な島国は、比類のない強烈パワーを秘めていた。
わたしの感想を一言でいえば――シンガポールにノックアウト!――である。
わたしは、溜め息とともに、こう思った。
「……ここでも、日本は負けてるな」
友人のSは続ける。
「……この国の1人当たりGDPは、日本よりはるかに多いよ」
調べてみると、シンガポール(634万円)、日本(425万円)と、1・5倍の差をつけられている(2017年度)。
さらに、日本は国力が右肩下がりで低落している。国際競争力は2019年には25位から30位に転落している。
シンガポールは、凋落一途の日本とは真逆だ。
この年、シンガポールの国際競争力は、なんと1位! 前年3位からトップに躍り出た(表8)。
順位は、シンガポール、香港、米国、スイス、UAE、オランダ、アイルランド、デンマーク、スウェーデン、カタール……。
これら、あまたの先進国を押さえてのトップである。見事というしかない。
それにくらべて、日本は14位の中国、28位の韓国にすら抜かれて、後塵を拝している。
(グラフ9)は、「イノベーション(革新力)の国際競争力」だ。
シンガポールは、常に上位に位置している。2009年以降はトップ3を維持している。
それに対して、日本は、わずか5年で4位から25位へのブザマな転落ぶりだ。
とにかく、日本は経済でもボロ負けが続いている。
その理由の一つが、日本人のヤル気のなさだ。
(グラフ10)は、仕事に取り組む「意識」調査だ。
「会社で出世したいか?」を尋ねている(5段階尺度)。タイ、フィリピンなど東南アジア諸国は、上位を占めてる。まさに「ヤル気」まんまん。
シンガポール(4・1)は上から七番目。競争力トップの余裕か。
問題は、わが日本だ。なんと最下位(2・9)。目をおおうとは、このことだ。
これでは、国際競争に勝ち残れるわけがない。
世界無比「マリーナベイ・サンズ」の絶景・・・
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ザ・フナイ 2020年6月号 マスコミのタブー200連発〈123〉 より
月刊『ザ・フナイ』は、船井幸雄が「世の中を変える意識と行動力を持つ人に向けて発信する」と決意し、(株)船井メディアより2007年10月号から創刊した雑誌です。
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船瀬俊介 (ふなせ しゅんすけ)地球環境問題評論家
著作 『買ってはいけない!』シリーズ200万部ベストセラー 九州大学理学部を経て、早稲田大学社会学科を卒業後、日本消費者連盟に参加。
『消費者レポート』 などの編集等を担当する。また日米学生会議の日本代表として訪米、米消費者連盟(CU)と交流。
独立後は、医、食、住、環境、消費者問題を中心に執筆、講演活動を展開。
船瀬俊介公式ホームページ= http://funase.net/
船瀬俊介公式facebook= https://www.facebook.com/funaseshun
船瀬俊介が塾長をつとめる勉強会「船瀬塾」= https://www.facebook.com/funase.juku
著書に「やってみました!1日1食」「抗がん剤で殺される」「三日食べなきゃ7割治る」「 ワクチンの罠」他、140冊以上。