あなたの街のあちこちに知らないうちに突然設置される携帯電話基地局。
頭痛、耳鳴り、肩こり、不眠、鼻血―。複合電磁波汚染の恐怖を追う。多発する住民とのトラブル、あまい総務省の設置基準、自然界にも異変が…続出する健康被害。ユビキタス社会の病理を追った迫真のルポ。
原告は、30人の住民。
これを26人の弁護士がサポートする。この中には水俣病やじん肺訴訟、薬害スモン、薬害HIV訴訟などの公害や薬害関連の裁判にかかわってきた著名な弁護士たちの名もある。
一方、被告はKDDI。財界の重鎮・稲盛和夫が創立した企業である。稲盛氏は鳩山内閣の下で、特別顧問を務めた経歴もある。
新世代の公害といわれる携帯電話基地局の撤去を求める訴訟は、九州を中心に全国で起きている。わたしが取材したものは全部で五件あるが、このうち2009年1月に起こされた延岡大貫訴訟はある著しい特徴をそなえている。
それは電磁波による健康被害を理由として、基地局撤去を求める全国で初めての訴訟である点だ。
これまでに起こされた訴訟は、将来的に基地局周辺の住民が健康被害を受けるリスクがあることを理由に提訴されたものである。
ところが延岡のケースでは、撤去を求める理由として、住民が実質的に受けている健康被害が前面に押し出されたのである。
弁護団長を務める徳田靖之弁護士は、意見陳述で裁判の性質について次のように述べている。
本件訴訟において原告らが訴えているのは、本件中継基地から放出される電磁波によって現に深刻な被害を生じているという事実であり、この点において、従来の各地における同種訴訟と決定的にその前提を異にしています。
その意味で本件訴訟は、わが国において、電磁波による健康被害の発生の有無を争うはじめての訴訟ということになります。
ちなみに延岡市は、旭化成の地元である。
旭化成はもともと水俣病を発生させたチッソの延岡工場として出発した。そのことを知ったとき、わたしは前世紀の公害と新世代の電磁波公害の不思議な結びつきを感じた。
水俣病が公式に確認されたのは一九五六年である。チッソ付属水俣病院の細川一院長が、原因不明の病状を示した患者を保健所ヘ報告したのが最初だった。
しかし、1963年にこの病気の原因がメチル水銀化合物であることが特定されるまで、7年もの歳月を要したのである。その問、汚染された工場排水を流し続けたために、人的な被詩が拡大した苦い体験があった。
不知火海沿岸で体の異常を訴える住民が多発している事実を軽視して、医学的に公替の原因が究明されるまで対策を怠った結果、だった。
ただ、不幸中の幸いと言おうか、チッソ水俣工場からでる工場排水は肉眼で確認することができた。海が汚染されてくると、海からの糧を得て生きてきた住民たちはそれに気づいた。
これに対して新世代の公害である基地局から発せられる電磁波は、肉眼ではみえない。電磁波に被曝しても、大半の人はただちに痛みなどの症状を感じるわけではない。
一定の期間を経て頭痛や耳鳴りなどの症状が現れても、電磁波とは別のことが要因になっていることもありうるので、ほとんどの人々は体の不調と基地局の電磁波を結びつけて考えない。
それゆえに電磁波という新世代の公害は、水面下で広がっていく危険性が大きい。
しかし、幸いに熊本の住民たちの多くは、脳裏のどこかに水俣病の苦い記憶をとどめているのかも知れない。そのためか基地局の撤去を求める裁判も熊本から全国ヘ広がった。
延岡大貫訴訟はこのような歴史の上に成り立っているのである。
延岡・携帯基地局問題
耳鳴りなど45人健康相談で訴え
延岡市大貫町5丁目にある携帯電話基地局のアンテナが原因として、住民が健康被害を訴えている問題で、先月末に実施した健康相談の結果を公表した。
45人が耳鳴りや頭痛を訴えており、大半は基地局が設置された昨年11月以降に自覚症状が出たという。
健康相談は11月29日から3日間、現地で行い60人が訪れた。耳鳴りが31人で最も多く、肩こりが16人、不眠が14人と続いた(複数回答)。
胃腸不良や胸の痛みを訴える人もいた。自覚症状を感じ始めた時期は、基地局が設置された昨年10~12月が22人で半数を占めた。
市健康管理課は「結果的に時期が重なった人が多かったが、これが電磁波の影響かは分からない」としている。
延岡市のケースに見るように、自覚症状が耳鳴りや頭痛、肩こり、それに不眠という程度であれば不幸中の幸いだが、海外で行われた疫学調査では、携帯電話基地局から放射される電磁波とガンの関係も指摘されている。
たとえば有名な例として、2004年にイスラエルで行われた調査によれば、基地局周辺におけるガンの発生率は、通常の4.15倍だった。女性に限れば10.5倍という驚異的な結果が発表されている。
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