音楽療法で五感を通して脳を刺激し認知症を予防、症状を緩和

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隔月刊『セラピスト』より

〝いつの間にか〟楽しんでいる。それが音楽療法のメリット

第3次予防のケアとして音楽療法を取り入れている、音楽療法士の栗田京子さん。

栗田さんが行う取り組みは、単に〝歌う、鳴らす〟だけでなく、五感すべてを使い脳を刺激する独自のプログラムが特徴です。

取材・文◎中澤小百合 写真◎漆戸美保

五感を通して脳を刺激し認知症を予防、症状を緩和

「歌謡曲を使うと、昔のことを思い出して話がはずんだり、皆知らないうちにテンションがあがるんですよ」と話すのは、日本音楽療法学会認定の音楽療法士として、長年、認知症ケアを行っている栗田京子さん。

この日、取材に伺ったのは大田区のくどうちあき脳神経外科に併設されたデイケア「元気だ脳!」での音楽療法プログラムです。

「こちらは脳神経外科併設のデイケアということで、脳疾患の後遺症による高次脳機能障害、うつ病が原因で認知症のような症状を発症する仮性認知症の方もいらっしゃいます。

五感を通して脳への刺激をすることで、QOLの向上、リハビリ効果、認知症改善を目指しています」と栗田さん。

血圧測定をしたら、ウォーミングアップとなる「脳刺激ストレッチ体操(Brain Stimulation Stretching) = 通称BSS」からスタートです。

「これは、ゆったりとしたBGMで気持ちをリラックスさせながら、身体をほぐして血行を促進し、脳を活性化させる体操。

副交感神経を優位にして、ニュートラルな状態に整えることで、脳を動かす準備をします」。

続く、「ゆび体操」は、歌いながら指を動かして脳を刺激するもの。

曲は『めだかのがっこう』。ホワイトボードに書いた歌詞を見ながら、「今度は、『て』を抜かして歌ってみましょう」と、一定の文字を抜かして歌うといったことも。

歌うのを途中でやめることで、口腔、頬筋の刺激になり、高齢者には有効だと栗
田さんはいいます。

ハンドベルを参加者同士で会話するように鳴らし合うセッションも。

「認知症になると個性がより強く出て、感情がコントロールできないことも。時には言葉で傷つけ合うこともあるので、お互いの目を見てハンドベルを鳴らし合うことで、コミュニケーションがとれたらいいなと考えました」

さまざまな楽器を使ったリズムセッションの後、後半の歌唱に使われた曲は、この世代なら誰もが知る歌謡曲『真っ赤な太陽』と『瀬戸の花嫁』。

「美空ひばりのファンだった!」という人もいて、皆さんとても楽しそう。

「高揚した後は、ゆったりした曲で落ち着かせることも大切。懐かしい歌は認知機能が低下していても歌え、最後まで歌いきることで自信を持てます」

最後に行われたのは、栗田さんが考案した「風船飛ばし」というもの。

「ボールとは違い、風船だとちょうどいい滞空時間でリズムを感じながら行えます。

目で追って手を動かすことで、目と手の協調性を高めます。落とさないように、割らないように適度な力を加える感覚も必要。

達成感を与えることも大事なので、数を数えながら落とさないで回し続けたりもします」

できなかったことができたら褒める言葉をかける

認知症のケアには、「デュアルタスク=2つの作業を同時に行うこと」が非常に重要だと栗田さんはいいます。

「複数の作業を『頑張って!』とやらせるのではなく、音楽に合わせていつのまにかやっている。それが音楽療法のよさです。

あと大事なのは、褒めること。意識的に褒めることもありますが、前回できなかったことができるようになっているとうれしくなって、自然と褒める言葉が出てきます」

参加者の変化を目の当たりにし、音楽療法は認知症の予防と症状の緩和、それぞれの段階に有効だといいます。

「ご家族からは『音楽療法の後は穏やかになる』『その日は徘徊がない』という声も聞かれます。

音楽はスピーディーに五感に伝わり、五感を通して脳を刺激します。その力に感動して感極まることも。

音楽療法を始めて間もない頃、重い認知症で気難しい方がいました。

『モーツァルトの子守歌を歌いますね』と私が歌うと、『それは、モーツァルトの子守歌じゃない』と言うんです。確かに正式には『フリースの子守歌』。

その方はピアノの先生だったのです。次第に私が歌うとその後に続いて歌うようになってくれて。音楽の力を感じた忘れられない出来事です」

将来的には、在宅医療の方に向けた訪問の音楽療法プログラムも実施していきたいという栗田さん。

「日本ではレクリエーションの範疇として捉えられることも多い音楽療法ですが、何を目的に実際にどういう効果があるのかをきちんと示していくのが音楽療法士の役目でもあると考え、学会への研究発表なども行っています。

音楽療法士としての自分の資質を磨き続けながら、そういう意識を持った方を育てていけたらとも思っています」

セラピスト 2019年10月号より

隔月刊『セラピスト』は、アロマテラピー、ロミロミ、整体などのボディセラピーから、カウンセリングをはじめとする心理療法、スピリチュアルワークまで、さまざまなジャンルを扱っている専門誌です。

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