『暮しの手帖』をつくった男 船瀬俊介 (著)

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『暮しの手帖』をつくった男

NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で話題!

主人公・常子の「魂のパートナー」、花山伊佐次のモデルとなった天才編集者、花森安治の人生を、反骨のジャーナリスト・船瀬俊介が描いた本格評伝。

40年以上前に収録された著者秘蔵のインタビューから、その謎に包まれた素顔に迫る。

私たち庶民の「いのち」と「暮し」を守るため、巨悪と闘いつづけた花森安治の生き様から、いま私たちは何を学ぶべきか?

焼野原で呆然

インタビューは、ロバートが口火を切った。

「どういうきっかけで『暮しの手帖』を始められたわけですか?」

花森さんは、ソファで大きく息を吸って、遠くを思い出す目つきで、ゆっくり語りはじめた。

花森 非常に個人的なことから始まっていますが……。戦争が終わった日にね、東京が焼野原になって、そいで、私は毎日ね、一週間ほど……いまの銀座四丁目、服部時計店…… あそこの焼跡のコンクリートのかけらのうえに毎日、腰かけてね、呆然としていたわけです。

そのとき、これから日本がどうなるかということは、おそらく、日本人、だれも判らなかったでしょうけれども、ぼくとしては、こういう不幸な状態が、二度とおこってはならんと思ったんですね。

だれでも……日本人でも、おそらく日本へ来られたアメリカ人でも、みんな考えたことでしょうけれども、どうすれば、こうした悲劇をなくすことができるか、ということですね。

そのときに、いろんな人が、いろんなふうに考えたでしょう。

けれども、ぼくは「国民が かんたんに、動かされてしまう」ということを考えたんですね。

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政府が「右向け!」と言えば「右を向く」。「銃を担げ!」と言えば「銃を担ぐ」。「戦場に 出ろ!」と言えば「戦場に出る」。

そういうふうには、「かんたんに動かない」人間を、つくらなければいけないんじゃないだろうか?

そうすると、どうすれば、かんたんに動かない人間、権力によって、かんたんに動かされない人間ができるだろうか?

●「暮し」をケイベツせよという教育

かたわらで耳を傾けていたわたしは、花森さんの「かんたんに動かない人間」という言葉に、強くひかれた。

それは「かんたんに動かない庶民」と言い換えてもよいだろう。

あの戦争は、政府の言うまま、命ずるまま動く庶民が起こしてしまった。だから、戦争の不幸 をくり返さないためにも「動かない庶民」をつくる。

その必要性を花森さんは痛感したのだ。

花森  そこで、僕が考えたのは、精神の講義、修身の講義……精神をこうするとか、モラルがどうとか、「平和が大切である」とか、そういうレクチャーを、いくらしたって、ダメだッ。

精神的レクチャーとか、インスパイアとかだけで、人はつくられていかない。

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それが、僕の体験と信念ですよ。 そうすると、なにか、もっと形のあるものでなくちゃいかん。

そこで、考えたのが「暮し」ですね。 それまで、日本人は、「暮し」というものを「ケイベツせよ」と教えられてきた。

「暮し」は、「着る」「食べる」「住む」「子どもを育てる」……その他、小さいことが、いろいろた くさんあります。

それらは「すべて二義的なことだ」「決して大切なことではない」という教育が、おそらく徳川時代の前から、主として侍の階級を通じてあった。

そして、明治時代になると、それが全国民に広がった。

たとえば、「衣は暑さ、寒さを防げ れば、それで十分である」。それ以上の「美しい」とか「快適である」とかは、考える必要はない。

それは、贅沢である。まちがっている。そして「食べ物」は「飢えを満たせばいいんだ」。それ以上の「美味しい」とか、考えるのはいけない。

「住まい」も、雨を防げれば、 風を防げればいい。「楽に暮そう」なんてのはいけないんだ、という考えですね……。

インタビューは三時間ほども続いた。花森さんは時に笑い、時に怒り、時間はまたたくまに過ぎていった。

感謝と別れを告げるわれわれ三人に、花森さんは著書『一銭五厘の旗』(暮しの手帖社)を、プレゼントしてくださった。

これは、まさに花森安治の代表作である。 初版は一九七一年。以来、ながらく版を重ね、現在11刷となっている。

──わたしは、いまだにこの文章を読むと、たましいがふるえるおもいがする。

こんどは、後へひかない

わたしは、著書『日本の真相!』(成甲書房)の「まえがき」にこう綴っている。

「──このひとの熱情を受け継いでいこうと思った」

さらにこう続く。

「今日もメディアは、皮層の情報しか流さない。深層は永遠に闇の奥にされる。 それどころか虚報が“真実”の衣をまとって、垂れ流される。

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テレビも新聞も、教育ですら、マインドコントロール装置と化してしまった。 しかし、おそらく九九%の人々は、この戦慄の事実に気づいてすらいない。

だから、わたしは決意した。メディアのタブーひとつひとつを、掘り起こし、伝えていく作業にとりかかることを─」

わたしの心の奥には、魂の師、花森安治の言葉が刻まれている。

「……こんどは、後へひかない」

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by ヨメレバ

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