物語で知る日本酒と酒蔵  友清 哲 (著)

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物語で知る日本酒と酒蔵 (イースト新書Q)

酒蔵は楽しい。

なにしろ創業から数百年もの時を経た老舗ばかりだから、まず、その行まいだけでも趣を感じさせるし、さらに「江戸時代の建物をそのまま使っています」なんて言われようものなら、なにやらお宝に出会えそうな期待に胸がふくらむ。

そして、いざ造りの現場に足を踏み入れてみれば、およそ我々の日常とはかけ離れた暴空間が広がり、高揚感がMAXに達すること請け合い。

ほのかに漂う麹の香りは、酒好きにとって極上のアロマテラピーといえるだろう。

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日本酒ブームといわれるようになって久しい昨今。

繁華街を歩けば、小洒落た飲み屋が希少なラインナップを主張し、書店やコンビニには和酒を特集する雑誌がずらりと並ぶ。

実際、日本酒に関心を寄せる若い女性が増えていることは、飲んべえなら誰しも肌身で感じているところだろう。

そうしたニーズの高まりとともに、「酒蔵を訪ねる」という文化も少しずつ浸透している
ようで、蔵のホームページを見ればたいてい詳しい案内が載っている。

有志を経った見学ツアーも多数催されているようだし、観光バスの受け入れ体制をばっちり整えた蔵だって珍しくない。

酒蔵は意外と開かれた場所であり、酒蔵見学は今や、その土地の重要な観光コンテンツのひとつといっていい。

かくいう僕自身も、これまで公私あわせて相当数の蔵をめぐってきた。

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たいていの蔵は水と空気のきれいな地域にあり、旅の立ち寄りポイントとして満足度は非常に高い。

おまけにその場でフレッシュな地酒が手に入るのだから、下手な土産店をまわるより、よほど有意義だろう。

ときにはちょっと昔気質な杜氏から、「日本酒がブーム?その辺の酒と一緒にするな。日本酒は古くから根付いた文化なんだ」と凄まれてしまうこともあるけれど、それすら旅のいい思い出になるはず。

思うに、日本酒は気持よく酔っ払うために手を伸ばすよりも、造り手や背景を踏まえて味わったほうが、はるかに美味い。

最近は海外でも日本酒がよく飲まれているようで、欧米の醸造家がわざわざ日本の酒蔵を見学に来ることが珍しくないと聞く。

以前、ある酒蔵の杜氏が、僕にこう語ってくれたことがある。

「彼らにしてみれば、日本酒は不思謡な酒なのだそうです。

ワインだって同じようにクンクのなかに原料と酵母を発酵させているのに、どうしても日本酒ほどのアルコール度数が出せないという。

そこで、『日本の杜氏はいったいどんな脱法を使っているのか?』と聞きに来るんです」

醸造酒というジャンル自体は、昔から世界各地に根付いている。

しかし、緻密に行なわれている温度管理ひとつをとっても、日本酒の世界にあるのは紛れもなく匠の技だ。海外の醸造家は皆、これほど手間暇をかけて造っているなんて!」と驚いて帰るのだという。

なんだか、日本人として誇らしいエピソードではないだろうか?

折しも政府のクールジャパン戦略が話題だが、日本酒は長い伝統と経験則に裏打ちされた、日本人が地追に育んできた技術の結晶なのだ。

さあ、酒蔵見学に出かけよう

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米と麹で仕込まれた、自然の手仕事の産物ともいうべき日本酒は、いつ誰の手によって考え出されたものなのか。

日本酒の起源をさかのぼることは、じつは容易ではない。

紀元前、大陸で稲作が始まった頃には、何らかのかたちで酒が造られていたと見る研究者もいるようだが、根拠にはまだ乏しい様子。

しかし、少なくとも西暦1世紀前後に記された中国の文献には、日本に酒が存在することが明記されている。

それが日本酒のルーツとなるものかは定かではないが、酒とはかくも長きにわたって日本人と共に歩んできたものなのかと、ロマンをかきたてる十分な材料といえるだろう。

考えれば考えるほど、「化学」という概念のなかった時代に酒造りのプロセスを確信犯的に行なっていた事実は、驚哄に値する。

今日も各地で行なわれている酒造りは、古来より脈々と引き継がれてきた伝統芸能のようなもの。

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酒蔵を訪ね、酒造りの現場にふれる前に、そうイマジネーションをふくらませておくと、見学の過程はいっそう興味深いものになるはずだ。

意外に思われるかもしれないが、日本酒というのは、47都道府県すべての地域で造られている。

つまり、本書を手にした皆さんが国内在住であるかぎり、必ず同じ県内に造り酒屋が存在していることになる。

酒蔵は必ずしも一般公開されているわけではないが、自社製品の試飲ブースや販売窓口を設置している蔵は少なくない。

晩酌用の1本を渉猟しに出かけるだけでも、さまざまな発見が得られるに違いない。

物語で知る日本酒と酒蔵 (イースト新書Q)
友清 哲 イースト・プレス 2016-03-10
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by ヨメレバ

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