老人病棟―高齢化! こうしてあなたは“殺される” 船瀬俊介 (著)

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老人病棟―高齢化! こうしてあなたは“殺される”

高齢化! こうしてあなたは“殺される”。―10人に9人は病院のベッドで、あの世いき―

● 一〇人中九人…自宅で死にたい

「人生の最期は、自宅で旅立ちたい……」

あなたも、そう思うだろう。日本人の一〇人のうち九人は、そう願っている。

愛する家族、子どもたちや可愛い孫たちに囲まれて、その温かい、柔らかい手を握りながら静かに眠るように、新しい次元へと向かいたいものだ。

「畳の上で死にたい」

昔の人は、よくぞ言ったもの。これぞ、まさしく大往生である。

しかし、その願いとは裏腹に、現実の日本では、一〇人に九人は、病院のベッドで最期を迎えているのだ。本人が望もうと望むまいと、選択の余地はない。

想像してみてほしい。

冷たい金属製の手摺のベッド。天井には蛍光灯が、煌々と灯っている。壁は無機質に真っ白。

まわりを見回すと、何人もの看護師たちが気忙しそうに出入りしている。そして、全員、マスク姿。

のぞき込む顔は、誰が誰やら、わからない。その看護師たちの肩越しに、心配そうな息子のまなざし。

よう、来たか……と声をかけようとしたが、声が出ない。

● 病院で〝スパゲッティ〟療法

気がついたら喉の奥まで、何か管が突っ込まれている。これが、人工呼吸器か……! 鼻にも何やらチューブ。喉の奥から食道まで押し込まれているようだ。

さらに、気管には啖を吸い出すチューブ。右手には点滴針が刺されている。さらに、首の動脈にも点滴針が、絆創膏で張り付けられている。

ダブルで点滴か……いつの間に……。さらに、尿道にまで細い管が突っ込まれているようだ。これが尿道管か? 

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小便くらい自分でさせろ!と心の中で叫ぶ。まだ、寝たきりにされる覚えはないぞ。

起き上がろうとしたら、な、なんだ。体がベッドにベルトで縛り付けられている。これでは、まるで拷問だ。まさか、俺が〝スパゲッティ〟療法にあうとは……。

フザケルナ!と怒りが込み上げたら、いきなり苦しくなってきた。

●苦しい、痛い…やめてくれ

看護師が叫ぶ。「先生、バイタルサインが!」。医師が矢継ぎ早に指示する。

「昇圧剤、強心剤、急げ! アドレナリン静注……」

腕に太い注射を打たれる。痛い。たちまち息苦しくなる。く、苦しい。それは、やめてくれ……。

いったい、どれだけ薬を打てば気が済む。ナルホド、これが香典医療か。おまえら、最後の荒稼ぎじゃないか! 

起き上がろうとする。「押さえて!」と看護師長が叫ぶ。

呼吸が苦しい。変な薬はやめろ! 叫ぼうにも声が出ない。

痛い、苦しい、助けて……こんなに苦しいのは、初めてだ……。

息子に、孫たちに会いたい。しかし、さっきまでいた息子たちは、病室の外に追い出されたようだ。

注射のせいか、冗談ではなく、呼吸が苦しくなってきた。

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さらに、医師が何か薬の名前を叫んでいる。体中に恐ろしい〝毒〟が急激に入ってくるのを感じる。

やめてくれ……、やめて……く、苦しい、息ができない。目の前が暗くなる、意識が遠のく。

息子よ、娘よ、会いたかったのに……悔しいよ。暗い、暗い……真っ暗だ。

●大量点滴で〝溺死体〟に

気付いたら、あなたは病室の天井近くの高さから見下ろしている。

なんと、ベッドにはチューブとコードまみれの自分が横たわっている。

「ご臨終です」。右側の主治医が、厳かに言う。その後ろに、ドアから入ってきた息子、娘らが立ち尽くす。しかし、あれが俺かい。顔がむくんで面相が変わっちまってる。

ナルホド……最後の荒稼ぎと高速点滴で、輸液と薬を大量注入しやがったナ……。 

年寄りの最期は、大量点滴と薬で稼ぐと聞いたことがあるが、まさに、その通りじゃねえか。

しかしまぁ、水膨れの酷い面だねえ。医者は、それを〝溺死体〟と呼ぶそうだが、早く言えば〝土左衛門〟かい。

ちょっと待て、あそこで死んでいる俺が俺なら、ここで見ている俺はいったい誰なんでい?

つまり、あなたは幽体離脱している。そうして点滴漬け、薬漬けで息を引き取った自分を、見下ろしているわけだ。

●明日は我が身とならぬため

――あなたは、こんな最期は迎えたくないはず。しかし、その意に反して、日本人一〇人中九人が、病院のベッドの上で、チューブまみれ、薬漬けで、苦悶まみれ、苦痛まみれで、体を痙攣させながら、息を引き取ることになる。

高齢者が死を迎える「老人病棟」ベッドは、かくも悲惨である。その衝撃事実を知っていただきたい。他人事ではない。それは、明日は我が身となる。

人間、生きている限り、誰でも、〝そのとき〟は来る。

平和な、安らぎとともに、愛する人々に看取られつつ旅立つ……。

それが、あなたの願いのはずだ。しかし、現実は、それとは真逆だ。無残で、悲惨で、苦悶に満ちている。それが、現代医療の悪魔的現実なのだ。

あなたは、そんな病院のベッドで最期を迎えたくないはずだ。

なら、まずは、目の前の現実を、目を背けずに直視してほしい。

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