生活習慣病の根本に体の冷え【体温と免疫力は相関関係にある】

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磯貝昌寛の正食医学【第76回】症状の陰陽(後半)

冷えの陰陽

ある調査では、1950年に36・8度だった日本人の平均体温が2011年には36・1度まで低下していたといいます。

この60年の間に0・7度も低くなったわけです。

体温と免疫力は相関関係にあるといいます。冷えは万病の元です。がんをはじめとする生活習慣病の根本に体の冷えがあります。

冷えを陰陽でみると、一見陰性に見えます。寒暑と冷熱は陰陽の関係ですから、身体も冷えると陰性に捉えられるのは無理もありません。

しかし、実際の症例を数多く見ると、陽性過多から冷えを招いている人が少なくないのです。

身体が冷えているといって、食養の陽性食ばかりを食べ続けている人がひどい冷えを抱えていることが珍しくありません。

一般的な食生活をして自分の消化力以上に動物食をしてきた人は、身体の硬直とともに冷えがあります。

これらの人たちは、陽性過多になって血液循環が悪くなり、冷えを来たしています。

食べ物だけで身体を陽性にしようとするあまり、身体の細胞や組織の活力と弾力が失われ、身体が硬くなって血液がうまく循環しなくなります。

これが陽性の冷えです。

一方、日本やヨーロッパで熱帯の食べ物を食べると、熱を下げる働きが強す過ぎて身体の中の熱が奪われてしまいます。

砂糖や南国の果物(バナナ、マンゴー、パイナップルなど)は熱帯の地で身体の熱を放散するのに最適な食べ物ですが、冬の寒さのある日本で食べると熱の蓄積が少ない人は熱が奪われ過ぎて冷えてしまいます。

これが陰性の冷えです。

冷えと半断食

左の図は和道の半断食プログラムに参加された人の体温の推移です。

平均1日目の体温は35・98度ですが、その後徐々に上がり、4日目には36・23度、5日目に36・32度、6日目には36・51度になっています。

身体に適した半断食を行うと、体温が上昇することがわかります。

和道で行う半断食の特徴は「噛む」「動く」「温める」です。

「噛む」は玄米粥を徹底して噛みます。玄米ご飯ではなく、あえてお粥にしています。

お粥は本来、それほど噛む必要はありません。

噛む行為は脳を通じて胃腸に硬いものが流れていくよ、というサインになり、胃腸は消化液をたくさん分泌します。

唾液も驚くほどたくさん出ますが、胃腸に送られるのはごく少量の玄米粥です。

たくさん分泌された消化液は、消化されるべき食べ物がないので胃腸の古い粘膜を洗い流すように下に送ります。

半断食を行うと、便の色が変わったり宿便が出てくるのはそのためです。

噛んで消化液がたくさん出るほど副交感神経が優位になります。副交感神経が高まるために体温が有意に上がってくるのです。

「動く」は激しいスポーツのような動きではなく、生活の中の動きをより活性化させていきます。

掃除や体操、深呼吸、ウォーキングなど、誰でも簡単にできる動きです。

ただし、代謝を活性化させるためには意識的に行うことが大切です。

「温める」は、生姜シップで腹部と腰部を温めることを中心に、生姜湯の足湯、生姜風呂など生姜を活用します。

和道の半断食で体温が上がる決め手になっているのが、この生姜による温浴です。

左の図にあるEさん(50代女性)は10年前にリウマチを患い、治療を兼ねて半断食に参加されました。

以前は35度台だった体温が半断食3日目には前日より体温が1度高くなり、この10数年の中ではじめて36度台になったといいます。

35・7度だった体温が急に36・7度まで上昇したので最初は軽い風邪のような感覚だったようですが、翌日には36・3度に落ち着き、心身ともに爽快になったといいます。

Eさんは半断食以来、36度台の体温を維持しているそうです。

体温を維持する食と生活のコツをたった6日間でつかんだのです。

もちろん、すべての人が6日間で体調維持のコツをつかむわけではありません。しかし、素直な心で身体に向き合うと驚くほどの効果を実感する人が少なくないのです。

陰性の冷えの食養生

陰性の冷えは南国の食べ物の食べ過ぎから来ているので、まずは砂糖や南国の果物を食べないことです。

その上で旬の穀物と野菜、海藻を食べて、太陽の下でよく身体を動かしていれば陰性の冷えはすぐに治ります。

陰性は遠心力が強いので、身体をよく動かして陽性にするだけでも、身体の中の陰性成分はその遠心力でどこかへ飛んでいってしまいます。

陰性の冷えには日本の伝統的な食品が大きな力を発揮します。

日本には味噌、醤油、梅干しなど、身体を陽性化させてくれる素晴らしい食品があります。

日本の伝統的な食品でも冷えが改善しない極陰性の冷えには、牡蛎、雲丹に、魚など動物性食品を薦めることもありますが、現代人の動物性食品の摂取量は戦前と比べて何十倍にも跳ね上がっているので、動物性食品が食箋(食事指導箋)に出ることは少なくなっています。

陽性の冷えの食養生

改善が難しいのは陽性の冷えです。

求心性が強いのが陽性の特徴で、身体から抜けにくい性質を持っています。

過去に食べた動物性食品で造られた細胞は、性質が陽性のため身体の中に留まろうとします。

時間が経てば経つほど凝り固まるので、過去に造られたものほど分解するのは困難です。

陽性の冷えの食養生で最近活用しているのが「塩断ち」です。

断食は食を断つ行法ですが、塩断ちは塩だけを断ちます。

塩、醤油、味噌などの塩分を一切断つと血液の塩分濃度は薄くなりますが、人間の恒常性( ホメオスタシス)は血液を一定の状態に保とうとします。

この時、細胞に抱えていたナトリウムを血液に放出して血液の塩分濃度を保ちます。

ナトリウムには多くの物質を保持しようとする働きがあります。陽性の冷えは細胞レベルでも抱え込み過ぎて細胞が正常な働きができない状況です。

そんな時に一時的に塩断ちをすることで身体の陽性さを抜き、中庸な状態にすることで冷えを改善します。

陰陽どちらかに偏った状態が「冷え」です。心身ともに「温かい」生命力が充実した状態が中庸です。

月刊マクロビオティック 2018年4月号より

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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)

1976年群馬県生まれ。

15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。

食養相談と食養講義に活躍。

マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。