いつしか途絶えた手作りの味、もう一度見直そう!漬け物ワールド

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船瀬俊介連載コラム

いま漬物が見直されている。「古くて、新しい」食品としての復活である。

なにしろ塩と食材だけでできてしまう。そのシンプルさはすごい。思えば、昔は、九州の田舎の故郷でも、必ず食卓の真ん中には白菜、キュウリなどの漬物があった。

それが、いつの間にか姿を消していった。その代わりにトーストやサラダ、コーヒーがテーブルの上にあたりまえのように収まっている。

しかし、何かが物足りない。奥武蔵、渓流沿いの我が家の近く。老夫婦が経営する小さな村のお店がある。

そこの気のいいお婆さんが「持ってってウチで漬けたものだから……」とキュウリの糠漬けを手渡してくれる。その味わいは、まさに絶妙。

それから九州の郷里に帰ったときも、母が食卓に出してくれるキュウリ糠漬けは絶品だ。

いつしか途絶えた手作りの味

今は亡き祖母タツミは、納屋の漬物蔵で身の丈ほどの漬物樽に白菜などの漬物をそれこそ一冬分も漬け込んでいたものだ。

その漬物蔵に入ると甘酸っぱい匂いが充満していたのをハッキリと今でも覚えている。

「糠味噌臭い」とは”できた女房“のたとえだった。それも、いまや死語…

日本人が戦後なくしたものは多い。漬物も、そのひとつかもしれない。「スーパーで買っているわよ」。若い奥さんたちの声も聞こえる。

しかし、その包装をよく見てほしい。「添加物」のところに「アミノ酸等」とあるだろう。これはグルタミン酸ソーダ……つまり化学調味料味の素のこと。

さらにナニャラカニャラの添加物が加わり、あの祖母や母たちが手づから漬けた漬物の風味とは、どんどん遠ざかっている。

いわば漬物もどき。もっと自然な郷愁の味わいを復活させてみようではないか。

さて「漬物」とは……?読んで字のごとく、これは野菜などを漬けた物。

そこで塩に漬けることは、だれでも知っている。では、なぜ塩に漬けるのか?野菜が塩に触れると浸透圧のちがいで細胞のなかの水分が引き出される。

同時に、固い細胞膜の繊維状の組織が柔らかくなる。「青菜に塩」のたとえあり。これを「塩ごろし」という。水分はとられても細胞内の栄養素はそのまま。

おまけに食塩の浸透圧によって腐敗菌の繁殖も抑えられる。いわゆる防腐作用だ。こうして生にくらべてはるかに長いあいだ日持ちがよくなる。

浸透圧とは「半透膜の両側に、各々溶液と溶媒を置いたとき、両側に現れる圧力の差」のこと(『広辞苑』)。

普通は「水」に対する圧力差をいう。さて食塩の浸透圧は、想像をはるかにこえてスゴイ。ふつう細胞液の浸透圧は四~七気圧。

それが、わずか二%の食塩水で一四気圧に達する。一0%では、おどろくなかれ約七0気圧だ(図表A)。

その圧力差で、野菜の細胞内に食塩は浸透し、そして野菜の水分を抜き取っていく。

つまり「塩ごろし」には①脱水、②軟化、③栄養、④防腐の四効果がある。

サラダ好きに多い”マヨネーズ肥満“

人間は、その歯ならびを見てわかるように穀菜食動物である。穀物をすり潰す臼歯が八分の五、野菜を噛み切る門歯が八分の二、そして動物食の名残の犬歯が八分の一。

しかし、これほど歯が退化した動物は、自然界にはきわめて珍しい。これぞ霊長類の”文明”とやらのおかげである。

馬や鹿など野生動物がバリバリ木の葉を食っているのを見るたびに感心する。人間様の退化した歯では、木の葉を喰うなどかなわぬ望み。

人間の野菜の食べ方には、A 生食、B 加熱、C 漬物の三とおりがある。

A は、いわゆるサラダ。生なのでビタミンなど栄養素は、そのままとることができる。しかし、必要な野菜を食べているうちにアゴのほうがくたびれる。

また野菜がすべて生で食べられるわけでもない。さらにサラダには、思わぬ落とし穴が潜んでいる。それは、サラダ・ドレッシングの罠。これは”野菜にドレスを着せる”の意。

生野菜は切った瞬間から酸化が始まるその酸化による劣化を防ぐためドレッシングには油が含まれている。

サラダをたくさん食べると油もたくさん食べてしまうことになりかねない。典型はマヨネーズであろう。

セロリにたっぷりつけてバリバリ食べていると、生野菜を食べているのか、油を食べているのか、分からなくなる。

「野菜を食べているのに太る」と嘆く女性に、あんがいこの“マヨネーズ肥満“が多い。

B 加熱した煮野菜は、量は多くとれるがビタミンなど一部栄養素は熱で破壊される。ところが、

C 漬物は、風味や栄養はあまり失われない。

さらに、野菜のアクや青臭さも抜ける。わずか一晩漬けるだけでも固い繊維質が柔らかくなり、楽に食べられるようになる。

そして、ダイエットブームの昨今、漬物は”ノン・オイル“の野菜料理法として、若い人たちからも脚光を浴び始めている。

ひところ戦後の一時期「漬物?ダッセー。古臭せー。田舎臭せー」と若者たちに敬遠されたときもある。

しかし、第二次ベビーブーマー世代には、ぎゃくに新鮮に映るようだ。キムチブームなども、そのトレンドの一翼かもしれない。

つまり、C 漬物は、野菜料理の輝かしい”第三の選択“なのだ。

恐るべき日本人の野菜ばなれ

「ウチの子は野菜ぎらいでねぇ……」

いまや、どこの母親も日にするぼやきだ。それどころか、亭主も当の母親自身も、野菜をあまり食べていない。

本来草食動物の人間が、野菜を食べなくなる。現代人が体調がおかしくなり、さまざまな病気に襲われているのも当然だろう。

「薬」とは「草」で「楽」になる……の意味だ。サラダだけでは食いきれない。煮野菜だけでは栄養ロスに難あり。第三の道を取り入れるべき……と本気で思う。

その理由は、日本人の野菜ばなれが恐ろしい勢いで進んでいるからだ。

図表Bは、日本人とアメリカ人の野菜消費量をくらべたもの。

肉ばかり食っていると思われがちのアメリカ人は一九八五年の時点では、一人あたり年間95.9kgと日本人110kgに約14kgも差をつけられていた。

それが九五年をさかいに逆転。いまや日本人が13kgも引き離されてしまった。近年のアメリカ人の健康志向の高まりが野菜消費量の伸びに反映されている。

一方、日本人の不養生ぶりもクッキリ。日本人の健康維持のためにも野菜を食べる量を増やす。

それが、本当に差し迫った問題となっている。

続きはこちらから→日本ほど多彩な漬物文化を発展させた国はない。糠、粕、味噌、お酢、麹……の漬物王国

月刊マクロビオティック 2004年1月号より

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船瀬俊介 (ふなせ しゅんすけ)地球環境問題評論家

著作 『買ってはいけない!』シリーズ200万部ベストセラー 九州大学理学部を経て、早稲田大学社会学科を卒業後、日本消費者連盟に参加。

『消費者レポート』 などの編集等を担当する。また日米学生会議の日本代表として訪米、米消費者連盟(CU)と交流。

独立後は、医、食、住、環境、消費者問題を中心に執筆、講演活動を展開。

著書に「やってみました!1日1食」「抗がん剤で殺される」「三日食べなきゃ7割治る」「 ワクチンの罠」他、140冊以上。

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