飲んではいけない認知症の薬   浜 六郎 (著)

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飲んではいけない認知症の薬 (SB新書)

はじめに――不要な薬で「認知症」にさせられる より

●認知症1300万人時代の到来!

厚生労働省(厚労省)の2013~2014年の発表によると、2012年現在で、65歳以上の人口約3100万人中、認知症患者は15%と推定され462万人、正常とは言えない認知症予備群の人は13%で400万人とのことでした。

これを受けて、NHKでは、「認知症800万人時代」と称して、何回にもわたって大々的に報道しました。

また、さらに高齢化が進み、糖尿病などの合併も増えれば、2025年には認知症患者は65歳以上人口の20%を超え、700万人に増えるとの予測も発表されました。

その割合で推計すると、認知症予備群は600万人。

合計すると、認知症1300万人時代ということのようです。

2025年の65歳以上人口は3657万人と予想されていますので、認知症は、高齢者の3人に1人の時代に突入することが目前に迫っている、というのが厚労省の発表です。

認知症の薬が医師と患者にもたらした「誤解」

認知症には、主に、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症、レビー小体型認知症があります。

その他のタイプもありますが、本書では割愛します。

現在、日本では、アルツハイマー型認知症に対して4種類、レビー小体型認知症に対して1種類の薬剤が承認・販売されています。

脳血管性認知症に対しては、以前から脳代謝改善剤や脳循環改善剤と称するものがありますが、基本的には効果はありません。

アルツハイマー型認知症に承認されている薬剤は、1999年に販売が開始されたドネペジル(商品名アリセプト及びジェネリック薬剤多数)が2010年までは唯一でした。

その後、ガランタミン(レミニール)が2011年3月に、リバスチグミン(リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ)が2011年7月に、メマンチン(メマリー)が2011年6月に販売が開始されました。

ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンの3種類は、脳内のアセチルコリンという脳活動を活発にする物質を増やすように働き、メマンチンは、ドーパミンという脳活動を話発にする物質を増やす働きの薬剤です。

認知症サミット日本後継イベント(2013年11月6日)において安倍総理は「そこで、私は本日ここで、我が国の認知症施策を加速するための新たな戦略を策定するよう、厚生労働大臣に指示をいたします。

我が国では、2012年に認知症施策推進5か年計画を策定し、医療・介護等の基盤整備を進めてきましたが、新たな戦略は、厚生労働省だけでなく、政府一丸となって生活全体を支えるよう取り組むものとします」と述べました。

そして、塩崎厚生労働大臣(当時)は、「新たな戦略の策定に当たっての基本的な考え方」として、

①早期診断・早期対応とともに、医療・介護サービスが有機的に連携し、認知症の容態に応じて切れ目なく提供できる循環型のシステムを構築すること

②認知症高齢者等にやさしい地域作りに向けて、省庁横断的な総合的な戦略とすること

③認知症の方ご本人やそのご家族の視点に立った施策を推進すること

と述べています。

平たくいうと、早期発見して診断し、早く医療(治療)に入る、ということでしょう。

介護は別にして、その医療が本当によい結果をもたらすのであればいいのですが……。

と言うと、身も蓋もないのですが、認知症用の薬剤が4種類揃ったことで、医師も、行政も、介護関係者も、家族までもが、「認知症だ」と早く気づいて診察を受けさえすれば、すぐにでも治療ができて、改善ないしは回復する、と誤解しているようです。

多くの医師は、これら4種類の薬剤を添付文書の用法・用量通りに処方すれば、「認知症患者の症状はよくなる」あるいは「よくならなければならない」と、信じ込んでいるふしがあります。

そして、医師以外の人は、「薬さえもらえば、認知症患者の症状はよくなる、よくならなければならない」と信じ込んでしまっているのです。

しかしこれが、とんでもない誤解なのです。

「えーッ」という声が聞こえてきそうですが、これが、現在の問題、あるいは今後も続くであろう、最も重大な問題の本質的な部分です。

●認知症に似た「せん妄」を起こす薬は多い

認知症に似た一時的に起こる症状を「せん妄」といいます。

詳しくは後ほど触れますが、正常な精神状態を保ち、目的にそった行動ができるのは神経に作用する様々な化学物質が絶妙なバランスを保って、私たちの身体の中で慟いているからです。

そして、身体を動かしている様々な化学物質は、主に神経系に働く(ノル)アドレナリンやドパミン、アセチルコリンなどの神経伝達物質はもちろん、多くのホルモンも、神経に作用します。

例えば、くしゃみや鼻水、かゆみやジンマシンの原因になるヒスタミンという化学物質は、脳内で精神の安定に非常に重要な役割を持っています。

ヒスタミンの作用を抑える抗ヒスタミン剤は、ジンマシンなどの症状を和らげる作用がありますが、一方では神経に作用してせん妄を起こし、ひどくなるとけいれんを起こします。

副腎皮質ホルモン(コルチコステロイド剤。以下、単にステロイド剤)は、慢性の炎症や、リウマチ、ネフローゼなど自己免疫による炎症を和らげるためには必須の薬剤ですが、精神に働きかけますので、あらゆるタイプの精神症状を起こします。

もちろん、せん妄も含まれます。

●本物の「認知症」を起こす薬

せん妄は一時的な認知の障害なので、その原因となっている薬剤の中止や、原因となっている病気が治癒することで、消失するものです。

認知症は、原因が特定できず、認知の障害はずっと続き、多少の変動はあるものの、徐々に進行していきます。

原因が薬剤であり、それが徐々に働いて認知症の症状が悪化した場合、認知症の症状は徐々に徐々に進行するために、薬剤だと気づかずに、あたかも認知症が生じたと診断されることがあります。

また、薬剤を中止しても、すぐには回復しないこともあるために、せん妄との区別もつきません。

さらに厄介なことに、薬剤を中止した場合、認知症の症状が多少は改善しても、完全には元に戻らない場合もあります。

この場合には、薬剤が本物の認知症を起こしたともいえるわけです。

このように、本物の「認知症」を起こすことのある薬剤の代表が、コレステロール低下剤(スタチン剤、注射剤など)、胃酸を抑制するプロトンポンプ阻害剤(PPI)、骨粗しょう症用の薬剤、そして、睡眠剤や安定剤です。

例えば、高齢者、特に女性は閉経後にコレステロールが高くなりやすいため、脂質異常症(高コレステロール血症)と病名がついて、コレステロール低下剤が処方されることがしばしばあります。

また、膝や腰、関節の痛みなどのために、鎮痛剤、特に非ステロイド抗炎症剤がよく処方されます。

そして、これら鎮痛剤で胃を荒らさないようにとプロトンポンプ阻害剤が併用されます。

最近は、H2ブロッカーよりも、PPIを併用されることのほうが多いようです。

さらに、骨粗しょう症用の薬剤が処方され、ちょっとでも不安や不眠を訴えると、安定剤や睡眠剤が気軽に処方されます。

これらの薬剤が1人の人に処方されると、認知症を起こさないことのほうが珍しいとさえいえそうです。

●「害のある薬」がさらに出される悪循環

そして、認知症用の薬剤が処方されると、害反応(副作用症状)がなく、よい効果だけが現れる人は少ないのです。

まったく効かないか、かえっていろんな害が現れます。

アリセプトやメマリーなどを服用すると吐き気がよく起こるため、吐き気止めの薬剤として、メトクロプラミド(プリンペラン)やドンペリドン(ナウゼリンなど)が処方されます。

これらの薬剤は、しばしば、パーキンソン症状を起こし、気分がうつ状態になったりします。

興奮し、せん妄状態になることも少なくありません。すると、認知症用の薬剤が増量されたり、抗精神病剤が処方されたりします。

というように、ある症状に対して投薬がなされ、それが別の症状を引き起こし、またまた薬剤が処方されて害反応、という悪循環ができます。

これを私は、害反応カスケードと呼んでいます。


いまや65歳以上の5人に1人が発症すると言われる認知症。

一方で「高齢者は入院するとボケる」と言われるが、その多くは実は認知症ではなく、処方された薬が原因で一時的な「せん妄」に陥っているだけのことが多い。

それでも「認知症になった」と医者は判断し、本来不要な薬が処方され、本物の認知症にさせられる構図がある。

こういう悲劇を防ぐためには、診察や処方を疑うリテラシーが求められる。大事な家族が取り返しのつかない事態に陥る前に読んでおきたい1冊。

<目次>

第1章 認知機能を支える神経の大事な働き
第2章 認知機能を支える神経を守る食習慣
第3章 神経のバランスを壊すあぶない薬
第4章 タイプ別に見た認知症の原因
第5章 認知症の薬で認知症は改善できない
第6章 認知症の周辺症状に使われる薬
第7章 薬が認知症を発症・悪化させる悲劇
第8章 大事な家族を”認知症”にさせないために

飲んではいけない認知症の薬 (SB新書)
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