古武術で毎日がラクラク! 疲れない、ケガをしない「体の使い方」 (祥伝社黄金文庫)
体育「2」の荻野アンナも即、使えた「古武術」の“秘伝”。
スーパーのレジ袋の持ち方
甲野流重たい荷物を持つ法は、道場から街ヘ一歩出たとたん、手ごわいテキに出くわす。スーパーで、コンビニで、必ず渡されるレジ袋。2リットルのペットボトルにじゃがいもで、意外なほど指に食い込む。
あんなぺラぺラの、天使の屁みたいな袋で、スイカだって漬物石だって運べるのは大したものだ。最近の子どもと違い、ちょっとのことではキレない。切れるのはこちらの手の皮だ。
全重量がかかった持ち手が細いヒモになり、絞まるんだよね。「軸の小指が痛いです。何とかなりませんか」師匠、その場でレジ袋にペットボトルと一升瓶を入れた。むむむ、と捻りつつ、何度か持ち替えた。
あっという間にネオ甲野流、完成。
全体の重さを「散らして」持つのがポイントだ。具体的には、持ち手をぐるりと手首に巻きつける。それだけでは手首に食い込むから、親指と小指をフックにして、袋に引っ掛ける。
とたんに「どんなもんだい?」と軽い顔ができます
疲れない立ち方
電車でつり革につかまっているのに、やたらとよろける。
「なんかバランス、悪いんですよね」
師匠、さっそく座布団を出してきた。私、上に立つ。師匠、座布団をサッと引く。ちょっとよろけたが、倒れなかった。
「そんなにバランス、悪くないけど」と師匠、首を傾げる。このとき道場には、姉弟子のアユチさんがいた。アユチ説では、女性にはひざをつつばらせて立つ人が多い。ひざを脱力し、ゆるみを持たせると安定感が出る。
電車じゃなくても、立ちつ放しは意外と難しい。だんだん姿勢が悪くなり、慌てて背中を反らす繰り返しで、背中と腰がバリバリに張る。
甲野師匠に初めて取材したとき、武道の達人に向かって、こともあろうに、聞いちゃつた。「立ち方を、教えてください」。「吉兆の板長に、箸の持ち方を聞くようなものだ。」
師匠によると、胸を張り、背中を反らせるのは間違い。
軽く胸を落とし、背中からお尻まで、自然な丸みを帯びたひとつの線にする。
ひざは突っ張らずに、ゆるみを持たせる。重心は足の裏の中心、いわゆる土踏まずに置く。イメージとしては、体が浮いている。
師匠の原点は、剣道以前の剣術だ。現在の剣道はぐっと胸を張らせるが、師匠によれば、
「あれは明治時代からのこと」。
ドイツ式の直立不動の「気をつけ」が、いろんな分野に導入されたらしい。空手も古流は師匠がすすめるような胸を張らない姿勢だったらしい。芸能だと日舞は反らず、能と仕舞が反る。
能も昔の基本姿勢は別だったかも、と師匠は考えている。
甲野流の原点を見せてもらった。師匠、分厚い本を広げる。
「昔の日本人は、こういう姿勢だったんですよ」
坂本龍馬、高杉晋作、近藤勇。写真の中で、幕末の志士たちは腕を組み、迫力はあるが、肩をいからせていない。スーツと胸を落とした自然体だ。新陰流の剣聖の絵姿も同様だった。
宮本武蔵の「五輪」』にも「尻を出さず」とある。今の剣道なら注意される姿勢が、実は伝統を受け継いでいる。
「腕力」に頼ると、「全身の力」が使えなくなる
この章には必須のポーズがひとつある。「キツネコンコンの手」だ。名前はヘンだが、動作としては超簡単。手を「キツネコンコン」の決めポーズにするだけで、人やモノを、ラクに運べるようになる。
腕力を増すためかというと、その逆で、手や腕に頼らないで、全身を生かすためのポーズなのだ。
モノを持ったり、動かしたり、にはつい手が出る。「脳は器用な手や腕をエコヒイキし、手は脳にゴマをする出たがり屋」と甲野師匠。
エコヒイキは「キツネコンコンの手」にすることで封じることができる。そうすれば全身、とくに有効利用が難しい背や胸などの筋肉が、うまく使えるようになる。
甲野流の正式名称は「折れ紅葉」 楳図かずおのマンガ「まことちゃん」を知っている世代には、話が早い。
まことちゃんの決めポーズの「グワシッ」、アレですがな。「まことちゃん」より上、または下の世代のために、説明させていただく。
①お手手をパーにする。
②中指・薬指を下に折る。
③残りの指をピンと伸ばすべし。
親指に対して人さし指が直角、人さし指に対して小指が直角に近付くが理想だ。
古武術で毎日がラクラク! 疲れない、ケガをしない「体の使い方」 (祥伝社黄金文庫) | ||||
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