江戸の食卓に学ぶ 車 浮代 (著)

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江戸の食卓に学ぶ – 江戸庶民の“美味しすぎる”知恵 – (ワニブックスPLUS新書)

世界無形文化遺産にも登録された「和食」のルーツは江戸時代にあった!

庶民のおかずとして発展した、粋でエコでヘルシーな「江戸料理」について、『蔦重の教え』ほかで人気の時代小説家が語り尽くす。

江戸料理の発祥、江戸っ子たちの食生活、蕎麦、うなぎ、鮨、天ぷらなど、当時世界一発達していた外食産業、グルメガイドやレシピ本の隆盛ぶりなど、江戸の「食」の魅力をあますところなく伝える一冊。

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今はなき幻の調味料『煎酒』

さて、江戸時代の調味の基本となったのは塩と味噌でしたが、実はそれ以外の調味料として『煎酒』というものがありました。

これは室町時代の終わりから、江戸時代に濃口醤油が発明され、世間に浸透するまでの約200年の問、食卓に欠かせない調味料のひとつだったのです。

日本酒に梅干しと削り鰹を入れて煮つめる、上品な味わいの調味料なのですが、醤油に押されて廃れてしまった一番の原因は、日持ちしなかったことと考えられます。

冷蔵庫のなかった時代、特に夏場などはせっかく作っても1日ぐらいしか持たないため、その都度作るのは実に手間がかかることだったのです。

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その点、醤油は劣化が遅く、腐る心配もありませんから(味も香りも抜けてゆき、ただの茶色い塩水に近づくだけて安心でお手軽。

現代のようにマヨネーズやケチャップ、ソースなどもありませんから、使用頻度も高く、酸化が進んで味が変わる前に、使い切ってしまったことだろうと思います。

また、江戸の町は力仕事に就く人が多く、江戸生まれの醤油の濃い味が好まれたことも、煎酒が衰退した理由のひとつと考えられます。

ところが今、ヘルシーフードとして江戸料理が見直されるに伴って、『煎酒』も復活の兆しを見せています。

煎酒の作り方は、日本酒カップ1に、昔ながらの塩だけで漬けた梅干しを1個入れ、弱火で半分になるまで煮詰めたら、削り鰹をひとつまみ加えて5~6分煮て温冷めたら密封容器に入れて冷蔵しておけば、約1週間は日持ちします。

和食に見る発酵文化

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和食は『発酵文化』を抜きに語ることができません。

なにしろ日本は気温や湿度の面から見ても、発酵に適した気候に恵まれた、世界でも有数の発酵大国だからです。

『発酵』と『腐敗』は微生物の働きによって起こるという点では共通していますが、微生物が付着した食べ物から栄養分を摂って、新しい成分を生み出したとき、人体に有益な物質を生むと『発酵』となり、有害な物質を生むと『腐敗』に転じます。

そして冷蔵庫のない江戸時代、発酵によって得られるメリットの中で、もっとも大きなものは保存性の向上でした。

食品を長く保存でき、さらには食材の旨味が増して、香りがよくなったり、酸味が生まれたりすることを先人達は経験的に知っていたのです。

日本の発酵食品は麹を用いていることが大きな特徴で、麹は米や麦、大豆などの穀物じ火を入れ、種麹をふりかけ、麹菌を繁殖させたものです。

麹菌はカビの一種で、乾燥地帯には発生しにくく、日本同様に湿気の多い東南アジアや東アジアでもカビが存在し、発酵食品も作られていますが、その麹を作るカビはクモノスカビ属や毛カビ属です。

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世界中を探しても麹菌(アスペルギルス属)で麹を作ることができるのは日本だけです。

味噌、醤油、酒、酢、味琳なども、すべてこの麹がなければ生まれることはなかったでしょう。

ちなみに麹菌は2006年、日本醸造学会で「国菌」として認定されています。

また、わが国には、麹菌を介在させないものを含めて、さまざまな伝統的発酵食品がたくさんあります。

日本各地に伝わる『熟れ鰭』もそうですし、江戸っ子の朝食に欠かせない納豆や沢庵、江戸時代から続く日本橋の『べったら市』で有名なべったら漬け、ぬか漬け、鰹節、昨今大ブームを呼んだ『塩麹』も、日本ならではの発酵食品です。

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