磯貝昌寛の正食医学【第89回】マクロビオティックとは何か
和道で庭いじりをしていると「マクロビオティックって、一体何ですか?」と、通りがかりの人に尋ねられることがあります。
道場の玄関には人の背丈以上のある大きなタモの木に「マクロビオティック和道」と大きく彫られた看板があるのでとても目立ちます。
都会と違って田舎ではまだまだマクロビオティックという言葉が広がっていませんから、知らない人は実に多いのです。
知ってはいても、多くの場合が玄米菜食と考えられていますから、玄米と野菜以外は食べない一風変わった人たちと思っている人も実際は少なくないようです。
もちろん、マクロビオティックを玄米菜食と言って間違いはないのですが、それだけかというと違います。
マクロというのは「大きな」、ビオは「生命」という意味ですから、大きな生命観に立った上での食であり生活であり、生き方です。
その中には玄米菜食も含まれますが、玄米が合わない人には違った食が合っていることもあり、菜食が合わない人がいるのも実際です。
食養の指導と料理技術の鍛錬によって、玄米菜食を無理なく、おいしく、楽しく実践できるかどうかなのですが、マクロビオティックは人それぞれ、スタートしやすいところから始めたらいいのです。
病気を治したいから、自己変革を促したいからと、それほどおいしく感じることなく、無理に玄米菜食をしていても、大きな病気になればなるほど、病気は治るべくもなく、自己の変革もいいように変化せず、間違ったマクロビオティックの実践が健康と幸せから遠ざかるのを後押ししてしまっているという人も少なく
ないのです。
かく言う私も、玄米菜食を無理矢理に実践することによって妻の父( 義理の父)と妻と結婚する際に大喧嘩となり、その後4年も絶縁状態になるという大失態をしてしまったのです。
この世は一人きりでは生きていけません。自然の中で生かされ、人々の中で生かされています。
20年前の私は、マクロビオティックを標榜しながらミクロな食べ方に固執していたことを大いに反省するのです。
とはいえ、マクロビオティックが世間と過去に迎合してしまっては意味がありません。
マクロビオティックは自然の中で生かされていることを体感する生き方です。世界を大きく見渡すと、社会は自然との調和を、模索状態にありながらもすでに歩みを始めています。
ヴィーガンやベジタリアンが世界的に増えているのは、自然との調和が進んでいることの証です。半世紀以上も前にマクロビオティックを提唱した桜沢如一が蒔いた種が少しずつ、世界的に芽を出してきています。
マクロビオティックの大きな目的のひとつに世界平和があります。マクロビオティックという言葉が残らずとも平和になればよいのですが、絶対的な平和というものはありませんから、いつかまた平和から遠ざかった時代にマクロビオティック的な思考法と生活法を継承していかなくてはなりません。
桜沢は、世界の伝統的な宗教からの学びを元に、現代にもわかりやすい形の陰陽という思考法をマクロビオティックの基礎におきました。
マクロビオティックの特徴は、陰陽という思考法と世界に息づく伝統的な食と生活法をベースにしています。
ですから、本来はダレでもドコでも簡単に実践できるものでなくてはなりません。
そういう点において、現代のマクロビオティック運動ではダレでもドコでも自然な食を楽しめる環境を整備することが大切だと思うのです。
マクロビオティックと正食医学
マクロビオティックは大きな生命観を元にした生き方ですから、その中には必然的に医学も入ってきます。
生老病死、人はダレでも、生まれたら老いて、病んで、死んでいきます。いかに健康的に生きたとしても、病まずに旅立っていくことは、なかなかできることではありません。
正食医学は私の師である大森英桜が生涯をかけて研究したマクロビオティックの医学です。
身近な食物で病を癒す術であるのですが、その根本に陰陽があります。症状を陰陽で見分け、その対処を陰陽それぞれの食物を使って対応します。
陰性の症状には陽性な対応、陽性な症状には陰性な対応。とてもシンプルです。
桜沢如一は陰陽を「実用弁証法」といい、誰でも簡単に活用できるものを目指しました。
病気を自分で治すことができなければ、人はいつまでたっても自立することができません。
むしろ病というものは、その治る働きとして症状を呈しているわけですから、治ることが自然なのです。
治る力は自然治癒力以外にありません。自然治癒力を最大限引き出し、導くのが陰陽なのです。
体の五感( 味覚、嗅覚、聴覚、視覚、皮膚感覚)は本来、陰陽を調和させうるものです。ですから、病が進行してしまっている状態では、この五感が鈍ったり狂ったりしてしまっているのですから、まず大事なことは本来の五感を取り戻すことです。
そして何より、病は心を不安定にします。心配と不安は自然治癒力を阻害する最たるものと言ってもいいでしょう。
大森英桜は、病人の不安を取り除くことが正食医学における最初でかつ最も大事なことだと云いました。
不安が取り除かれれば、治療は7割がた進むとも云うのです。
私の経験からも、不安と心配が払拭されれば治ったといっても過言ではありません。
病と向き合いつつ、霧が晴れていくように、心配と不安が取り除かれていくというのが実際です。
心は体であり、体が心であることを教えてくれているのが病気なのです。病気とは何と有難いことでしょう。
病を経験せずに本当の健康の有難さはわかりません。
正食医学の根本に大きな生命観に立ったマクロビオティックがなければ、本当の意味での治癒には至らないように感じています。
マクロビオティックはダレでも簡単に実践できます。陰陽の基礎は一日でわかります。陰陽の目で、ただ自然に生きることがマクロビオティックです。しかし、陰陽両極端、様々なものが入り込んでしまった現代にあっては、この簡素な陰陽が逆に難しい。
妄信せず、よく咀嚼し、一日一日を過ごしていけば、いつの日かマクロビオティックな生き方になり、自然と病も癒えているものです。
心身一如、からだが自然な食で満たされれば、心は晴れて、陰陽ほどやさしいものはないと感じるようになります。
月刊マクロビオティック 2019年4月号より
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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)
1976年群馬県生まれ。
15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。
食養相談と食養講義に活躍。
「マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。