五感と香害

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磯貝昌寛の正食医学【第113回】香害によるアナフィラキシーショック

アナフィラキシーショックの食養手当て

もう10年近く前のことです。食養相談に、香水と洗剤( 柔軟剤)のニオイが強烈な女性が相談に来られました。その人はマクロビオティックに初めて触れる方で、自然な生活をこれから始める、という人でした。

閉口ならぬ閉鼻したくなるような強烈なニオイでした。

その人の食養相談をしている時、次に予約をされていた女性が来られてパーテーションを挟んだ場所で待っていました。

10分ほど経った時でしょうか、隣でドサッと人が倒れたような音がしたのです。ビックリしてすぐに駆けつけると、その女性が手を痙攣させながら倒れていました。

そう、香水と洗剤( 柔軟剤)のニオイでアナフィラキシーショックを起こしてしまったのです。

一般的にはすぐに救急車を呼ぶののでしょうが、私は過去にも何度もニオイや食物からのアナフィラキシーショックの症状を食養手当てによって処置してきた経験があったので、電話をかけるよりも早くに手当てをしたのです。

もちろん、アナフィラキシーの原因になっている香水と洗剤( 柔軟剤)の強烈な女性には一旦お引き取り願いました。

換気をして空気を入れ替えると同時にスタッフ総出でペットボトルに60度くらいのお湯を入れて、倒れた女性に当てて毛布で体を包みました( 湯たんぽがたくさんあれば、湯たんぽで体全体を温めるのもいいでしょう)。

往々にしてアナフィラキシーショックを起こしている時は体全体がものすごく冷えてしまっているのです。

そんな時は、特にお腹( 腸)を温めると血液がよく温まって、体全体が早く温まります。手の空いているスタッフも、倒れた女性の手足をさすって必死で温めていました。

みんなで協力して温め続けたのがよかったと思うのですが、倒れてから20分ほどして意識を取り戻しました。意識が戻ってきたら、今度は口からその人にあった飲み物を摂ってもらいました。

ほとんどの場合、温かいものを欲します。その人の場合は何が欲しいか自分ではわからないということだったので、私の経験と勘から温めたトマトジュースを飲んでもらったところ、「おいしい」と言って200cc以上飲みました。

その後彼女は普通に戻り、無事に食養指導を受けて帰ることができました。

この人には温めたトマトジュースが合いましたが、人によっては梅醤番茶、椎茸スープ、大根湯などが合う人もいるでしょう。何が合うか、合わないかは、その人の体調や体質の陰陽によるところが大きいです。

体を温め、血液循環を良くして自分に合った飲み物( 場合によっては食べ物)を摂れば、アナフィラキシーショックであってもたいていの場合は改善されることを私は経験しています。

現代では石油系の界面活性剤や香料が含まれた洗剤や柔軟剤がほとんどです。我が家には上は高校生から下は幼稚園児まで6人の子どもがいて、それぞれに学校や幼稚園に通っています。

界面活性剤不使用の自然素材由来の洗剤を使っているのですが、子どもたちが学校から帰ってくると衣服に石油系の洗剤や柔軟剤のニオイがついているので、相当量の石油化学物質が空中を飛散浮遊しているのだと思います。

これらを鼻や口から吸いこみ、さらには皮膚からの経皮吸収によっても体内に取り込まれたら、状況によってはアナフィラキシーショックを引き起こすことは想像に難しくないでしょう。

五感と香害

アナフィラキシーショックを起こす人たちを見ていると、大きく分けて2つの問題を強く感じます。体外環境と体内環境の問題です。

石油化学物質を主とした洗剤や柔軟剤、あるいは香水などのニオイ物質は、鼻粘膜や皮膚を通して体に入り込みます。

体内に侵入した石油化学物質は、私たちの臓器では分解解毒が非常に難しいのです。石油は何百万年も前の動物の死骸が原料です。

何百万年も大地の中で分解しきれなかったものが私たちの体内で分解解毒できるはずがないのです。

しかし、私たちの体はこれらの石油化学物質を体内にずっと留めておくほどバカではありません。

分解解毒はできなくても排泄することができるのです。この排泄力が強い人は香害を香害と感じるのですが、アナフィラキシーショックを起こすほどまではいかないのです。

アナフィラキシーショックを起こすというのは、体の臓器に余裕がなく、鼻粘膜や皮膚から入り込んだ石油化学物質によって引き金が引かれて、体の中の毒素が溢れ出てしまった状態と考えられます。

先に食養手当て法を紹介したように、体を徹底して温めて、排泄を促すような飲み物を摂れば、臓器に余力が出て回復するのです。

社会に広く深くはびこる環境問題は、私たちの体は地球環境と切っても切れない、深く広くつながった存在だということを気づかせてくれます。

環境問題は私たちの体外と体内の問題点に警鐘を鳴らしているのです。

現在、一般的な洗剤や柔軟剤のニオイを特別嫌な香りと感じていなくても、5年、10年もすると、その悪影響が体と心に出てくるだろうことは安易に想像できます。

それより何より、不定愁訴を含め、心身の調子が良くないと感じているひとつの原因が( 自分では気づいていなくても)ニオイである可能性はものすごく高いと思います。

一万人近い人の食養指導を通しても感じますが、自分の心身の調子だけでなく、子どもの発達障害においてもこのニオイも大きな引き金の一つになっていると思うのです。

食においてもそうですが、ニオイにおいても、急激な変化ではなく、真綿で首を締められるように徐々に進行していくものなので、私たちは命の灯の減少を感じません。

しかし、私たちの社会は有史における歴史上はじめて人口減少社会に突入しています。これは今のままの生き方では生命力は維持できないということを示しているのです。

石油化学物質を原料としたニオイ物質は、私たちの五感を鈍らせます。一方、自然な食と環境は私たちの五感を研ぎ澄ませてくれます。

目、耳、鼻、口、皮膚は、体外環境と体内環境を繋ぐパイプの役割です。

この5つの器官は私たちの臓器と密接につながっています。五感を鍛えることで臓器も活性化し、臓器を鍛えることで五感も研ぎ澄ますことができるのです。

食養は臓器を鍛えてくれるものですから、その結果として五感も活性化させます。ニオイ物質を遠ざける生活をすることで五感の自然性が回復してきます。

五感が正常になると臓器も活性化しますから、自然と食が調ってくるのです。

体内と体外はひとつです。私たちの体は地球そのものです。香害はそのことを教えてくれています。

石油化学物質を原料とした洗剤や柔軟剤、香水を使用しないということと、自然な食をいただくことは、切っても切れないものではないかと思うのです。

月刊マクロビオティック 2021年5月号より

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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)

1976年群馬県生まれ。

15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。

食養相談と食養講義に活躍。

マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。