日本ほど多彩な漬物文化を発展させた国はない。糠、粕、味噌、お酢、麹……の漬物王国

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いつしか途絶えた手作りの味、もう一度見直そう!漬け物ワールド

伝統食品を狙った?”減塩運動”。

戦後、漬物が敬遠された原因のひとつがこれだ。

つまり「塩分のとり過ぎ」問題。日本人に脳卒中等が多いのは塩分のとりすぎが原因と指摘され、全国に“減塩運動“がまき起こった。

槍玉にあがったのが、味噌、醤油、梅干し……そして、漬物だった。

日本の伝統的な食品は、すべて“戦犯“とされた。そして、パン、牛乳、肉、チーズ、マヨネーズ、サラダなどの“カタカナ食品“が「健康によい」と盛んに推奨された。

わたしは、この全国にまき起こった”減塩運動“なるものは、あの戦後アメリカに熱病のごとくまき起こったマッカーシズムの赤狩りのごときものと思う。

たとえば、戦後市販されていたのは専売制による公社塩。

ほとんど純粋の塩化ナトリウムで、ミネラル豊富な自然塩とは、まったく似て非なる。その差はおかまいなしに「塩はよくない」と繰り広げられたのが”減塩運動“だった。

これは「米を食ったら馬鹿になる」と恐ろしげなデマで展開されたアメリカによる対日小麦戦略と非常に似ている。

というより日本の伝統食品を滅ぼすため軌を一にした”餌付け作戦“ではなかったか。

いまや漬物の塩分は五%以下

塩分(ナトリウム分)をとっても、カリウム分を一緒にとれば、塩分過剰摂取は緩和される。

つまり味噌汁にカリウム豊富なワカメや野菜を入れれば塩分過剰にならないのだ。

まあ、それでも機械化などで肉体労働から解放された日本人が、従来どおりの塩分摂取を続ければ過剰気味になるのは避けられない……というのも一理ある。

市販漬物メーカーは、塩のかわりにアルコールや塩化カリウム、糖分などを加えることで減塩効果があることを発見。

一九六0年代には10%以上あった漬物の塩分割合も、年々低下して、いまや五%を切るまでに減少。

いまや市販漬物はほとんどが塩分五%以下となっている(図表C)

糠漬けは漬物の王様とでもいえよう。米を精白するときに出た糠に食塩、水を混ぜてつくった糠床に、野菜を漬け込む。

すると糠に豊かにふくまれるビタミンB1、B2などB群が、野菜のなかに入り込む(図表D)。

たとえば大根のばあい、ビタミンB1は生のときにくらべて一七倍にも増えている。B2も四倍。キュウリもB1は九倍に増える。

また、野菜や糠自体に乳酸菌が付着しているが、それが糠床で繁殖する。乳酸菌の増殖により漬物も酸性となり、雑菌の繁殖も抑えられる。

このように乳酸菌は食塩とともに、漬物の保存性に大きなはたらきをする。さらに、漬物を食べると、これら乳酸菌は腸に達して整腸作用や腸内細菌のバランスを保つ大切な働きをしてくれる。

ヤクルトなど乳酸菌飲料やカスピ海ヨーグルトなどが腸内善玉菌の乳酸菌を増やすと宣伝され、盛んに飲まれているが、実は糠漬けなど伝統的な漬物を毎日いただけばヤクルトやヨーグルトなどを飲む必要はまったくないのだ。

さて先述の「糠味噌臭い女房」の由来だが、糠味噌は毎日かきまぜないと表面に白カビが生じる。

また、漬物に独特の風味をあたえる酵母菌が好気性なので糠床に空気を入れてやることが肝要なのだ。

糠床に鉄釘などを入れるのは漬物を色鮮やかにするためという。

その他、さまざまな”裏技”が各地に伝承されている。

糠、粕、味噌、お酢、麹……の漬物王国

日本ほど多彩な漬物文化を発展させた国はない。わが国は世界に誇る漬物王国なのだ。その奥深い恵みの世界を忘れることは、貴重な文化遺産を無にすることに他ならない。

まず、製法、風味を学ことからはじめよう。

漬物の原点は塩と野菜だが、それに糠、酒粕、味噌、お酢……などなどを組み合わせて多彩絶妙の漬物ワールドが広がる。

■海水漬け:野菜を海水につけて干す。漬物のルーツおそらく縄文時代からの知恵だろう。鹿児島に伝わる「壺漬け」は、まさにこの海水漬けで今も作られている。

■すんき漬:常識に反して塩をまったく使わない。赤カブの茎や葉をお湯には浸したあと、積け種を加えて発酵させたもの。

漬種は乾燥したすんき漬をもどして作る。なぜ、塩を加えないのに保存可能なのか。それは漬種にふくまれる乳酸菌の働きによる。長野県、玉竜村などに伝わる。

■いぶりがっこ:莉の煙でいぶした大根の糠漬け秋田名物のひとつ。”がっこ”とは方言で”漬物“のこと。

■おみ漬け:高菜の一種、青菜の塩漬け

近江商人が漬け始めたことから訛って、おみ漬となった。

■山海漬け:山の珍味、海の珍味の粕漬物

漬物の材料は、野菜だけではない。山菜に数の子、クラゲなどを一緒に粕漬けにしたことで、この名がついた。

■かぶら鮨:塩漬け青カブに魚をはさみ麹漬け

塩漬物にした青カブを輪切りにし、ブリなどの魚をはさむ。それを赤唐辛子、昆布などと一緒に麹漬にする。乳酸菌で保存性も増す。

■こんか漬け:いわし、サバ、ニシンの糠漬け

塩で下漬したいわし、サバ、ニシンなどの魚を糠床で漬けたもの。糠をかる<落として焼いて食べると風味絶妙。

■松浦漬け:鯨の軟骨を刻んだ粕漬の珍味!かつて捕鯨で栄えた東松浦郡呼子町に伝わる伝統の漬物。

■がん潰け:カニ、しおまねきを殻ごとすりつぶす

有明海の干潟のカニ、しおまねき等を殻ごとすりつぶし、塩と唐辛子を加えて、長期熟成さ
せた。

■壺潰け:干した大根を海水で洗い、壺で塩漬け

大根は杵でついて柔らかくする。豊臣秀吉が朝鮮侵略したときの保存食とか。

■豆腐味噌潰け:固めの豆腐を長期間味噌に漬けて

これは酒の肴に絶品。平家の落人が保存食にしたのが始まりという。

■松前漬け:昆布、干しするめの醤油・味醂漬け

北海道の松前藩に伝わる。昆布、干しするめを細く刻んで醤油と味醂に漬け込んだもの。いやはや、あげているとキリがない。これほど広いか漬物ワールド。

奥深い世界の漬物カルチャー

むろん漬物カルチャーはわが国だけではない。代表格はキムチ。一九八0年の国内生産は三万トン余りだった。

それがいまや三九万トンと爆発的に消費を伸ばしている。ここにも漬物の復権がある。キムチはリンゴ、ナシなどの果物、オキアミやイワシ塩辛、さらに貝のカキまで混ぜるというから凄い。

魚介類のたんぱく質が発酵課程でアミノ酸に分解され複雑玄妙な味わいの世界が広がる。

西洋にも漬物はある。ピクルスは有名。”酸っぱいキャベツ”という意味のザワークラウト。

中国は「搾菜」。フィリッピンには「アチャラ」と呼ばれるパパイアの酢漬けがある。ミャンマーに伝わる「ラペソー」は蒸した茶葉を地中の壺で半年から二年間、発酵させたもの。

なんともはや、世界には凄い漬物があるものだ。彼らは煮物、炒め物、スープなど料理の材料としても漬物を広く活しているのは見習いたい。

これらは冷蔵庫や冷凍庫の普及で一時、消滅しかかった食文化だ。

その風味、栄養、智慧のダイナミズムを、もういちどシ力と味わいたい。(東京新聞『大図解』二00三年一一月二日他参照図・表共)

月刊マクロビオティック 2004年1月号より

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船瀬俊介 (ふなせ しゅんすけ)地球環境問題評論家

著作 『買ってはいけない!』シリーズ200万部ベストセラー 九州大学理学部を経て、早稲田大学社会学科を卒業後、日本消費者連盟に参加。

『消費者レポート』 などの編集等を担当する。また日米学生会議の日本代表として訪米、米消費者連盟(CU)と交流。

独立後は、医、食、住、環境、消費者問題を中心に執筆、講演活動を展開。

船瀬俊介公式ホームページ= http://funase.net/

船瀬俊介公式facebook=  https://www.facebook.com/funaseshun

船瀬俊介が塾長をつとめる勉強会「船瀬塾」=  https://www.facebook.com/funase.juku

著書に「やってみました!1日1食」「抗がん剤で殺される」「三日食べなきゃ7割治る」「 ワクチンの罠」他、140冊以上。

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