いのちのために、いのちをかけよ  吉村 正 (著)

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いのちのために、いのちをかけよ

自然なお産を通して人間の生き方を老産科医が熱く語る。

クスリも医療機器も使わないお産

「まるで鎮守の森に抱かれた産宿のようですね」 吉村医院を訪れた人がそう言ったことがありました。

愛知県岡崎市のJR岡崎駅から歩いて五分ほどの住宅街に、緑がこんもり生い茂った一角が見えたら、そこが吉村医院です。

医院に生えとる木は、手入れというものをほとんどせんもんで、のびのびと大らかに枝を伸ばしております。

樹齢七十年以上の大木が医院を守るように包みこんで葉をゆらしている光景が、厳かに見えたんでしょうな。わしはすごく嬉しくなりました。

七十八歳の今日まで、自然なお産というものにいのちをかけてきた、それと通じるものを感じました。

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吉村医院のお産は、ほとんどまったく自然です。

今は一般的に、帝王切開率が五、六人に一人だそうです。うちはこのまえ勘定したら、210人続けて自然なお産でした。

どうしてこういうことが起こるのか。

うちのお産は、陣痛誘発剤や促進剤、麻酔などのクスリは使いません。 というより、使う必要がほとんどないもんでね。

多くの産婦人科は、頻繁に不必要なクスリや医療機器を使う傾向にあるけれども、うちではそういうものは使わないようにしております。

医院ちゅう看板が出てるのにおかしいよね。

でも、わしがクスリを使わんもんで、クスリ屋が来なくなっちゃった。

うちには帝王切開の設備もありません。「それで開業しているんですか」とたいていの人は驚くけど、本当です。

昔はね、最新の医療設備を整えた産科医院を目指したこともありました。

でも、自然なお産に目覚めてからは、見せかけの不必要な医療機器は処分しおかげでわしは変人だって評判になりました。

クスリも医療設備もほとんど必要ないもんで、お産は自然にまかせております。 出産予定日が過ぎても、ゆったりとその日がくるのを待つ。

これまで最長で一か月待ったことがあるけど、すごく元気な赤ちゃんがつるんと生まれましたよ。

今の産科医療は金儲け

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はっきり言って、今の産科の医者たちは金儲けのためにやっとる連中が多すぎる。

病院を経営せにゃいかんもんで。すぐにお腹切って赤ちゃんを出したり、鉗子で引っぱったり、吸引したり、クスリで出したらね、そりゃ楽ですわ。

おまけにお金も入ってくる。

そんな今の医学システムはおかしいです。医者のためのシステムですよ。分娩をするお母さん、赤ちゃんのためのシステムじゃありません。

それなのにお母さんたちは「お医者様はわたしたちを助けるために慈悲の心でやってくれる」と思いこんどります。

そんなのみーんな嘘です。

今の社会保険システムはそんなことにお金をどんどん使ってね、今の状態をどんどん進めていこうなんていう、そんなのは女の人や赤ちゃんを、社会を、どんどんだめにする一番基本ですよ。

それをニコニコした顔をしてやっとる今の政治家や有識者と言われる連中は、ほんっとうにばかばっか。一番責任をとらにゃいかん。

自然なお産なんて本当に儲かりません。時間もかかるし、いつお産があるかわからない。

いのちの保証もありません。神がやっとるもんでね。

でも「ごろごろ、ぱくぱく、びくびくしない」という、毎日バンバンに動いて、日本の伝統的な食べ物営少量食べて、神が与えた女の産む力を信じてのーんびりした心でおったら、ほとんどがつーるつるに生まれます。

これは確信をもって言えます。

うちで一人目を産んで、あんまり楽でいいお産だったもんで、「次は自宅で産みます」なんて言う人がたまにおるけど、うちは分娩費ももらえなくなっちゃう。

困っちゃうよね。金銭的には苦しくなるけど、でも心は気持ちがいいね。

わしは「世界一気持ちのいい産科医」だね。自分でやってて本当に幸せですよ。

びくびくして腹を切るなんて、まっぴらごめんだよ。


吉村/正
1932年愛知県岡崎市生まれ。名古屋大学医学部卒。医学博士。28歳から吉村医院院長。以来、二万例以上のお産をとりあげる。

自然なお産を行う伝統的な日本家屋「お産の家」を建築し、医院の裏庭に江戸時代中期の古民家、通称「古屋」を移築。

妊婦たちが薪割り、板戸ふき、井戸の水くみ、畑仕事などを行ないがら、体と心づくりに励む場となっている。

全国を講演会で回るなど精力的に活動している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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