磯貝昌寛の正食医学【第120回】食養指導録 日本人の穀物
穀物と思考法
穀物( 種)が現代の人間と社会の基礎になっているのですが、この穀物は地域によって種類が違います。
大きなくくりの中では、東洋は米を中心に食べますが、西洋では麦を中心に食べます。
米は粒のまま炊いて食べることができますが、麦は多くの場合粉にして、さらにそこから麵やパンなどに加工してから食べるのが一般的です。
西洋では主食と副食の概念が薄いといわれますが、時代を大きく見れば、西洋は麦を主食としていたのではないかと私は考えています。
西洋思考の特徴は、物事を細分化する分析的思考ではないかと思います。
顕微鏡を開発し、細菌などの微生物を発見したり、物の最小単位である元素を発見したのも西洋人です。
体内や食物中の微量要素であるビタミン、ミネラルなども西洋人の発見です。
これらの分析的手法を極めてきたのは、西洋人が麦を加工して食してきたことと大きく関係しているのではないかと考えています。
「人は食べ物のお化け」とは桜沢如一の言葉ですが、麦の粒を細分化して粉にして食べてきたことが、物事を細分化して考える分析的思考を醸成したのではないかと思うのです。
社会システムにおいても、麦を収穫し、製粉、加工するといういくつもの過程が社会を細分化します。
その社会の中で生きてきた人々の中から、分析的思考が優れた人がでてくることも安易に想像できるのです。
一方の東洋は、お米は粒のまま食べることができます。麦のように製粉、製麺( あるいは製パン)などの加工の経路を通ることは一般的にはありません。
主食においての調理はとてもシンプルなのが東洋です。
そんな東洋からは分析よりも統合的思考が育まれたと思うのです。
細分化して考えるよりも統合的に考えますから、分析的なことよりも大きな視点での思考が発達します。
個人よりも全体として発達したのが東洋の特徴です。
全ての命はたった一つの命から分かれてきたという宗教観を生んだのも東洋の特徴です。
東洋と西洋はその思考法からしても、本来は補完的関係にあったのではないかと思います。
統合的思考と分析的思考は物事を上から見るか下から見るか、その違いではないでしょうか。
両方からの思考が大事なのです。この思考を生み出したのが、穀物を噛むという行為であったのではないかと思います。
日本においては、日本人の基礎になってきた主食であるお米の消費量が戦後、急激に減っています。
1950年頃からみると、現代は約1/3ほどしかお米を食べていないのです。
人間は穀物( 種)を噛むことで脳を発達させ、社会を作ってきました。それと同時に「複雑な人間関係」も生み出すことになったのです。特に
西洋では細分化した思考が拍車をかけて、その複雑性は東洋よりもずっと深いものになったと思うのです。
西洋の分析思考を借りると、私たちは腸内細菌を何百兆個と有しているようですが、その腸内細菌のエサの多くがその地域の主たる穀物であるといえます。
日本人の腸内細菌はお米を食べていないと本来の働きをしないというのです。
お米の消費量が1/3に減ってしまったということは、もしかしたら私たちの腸内細菌は本来の働きの1/3くらいしか活性化していないのかもしれません。
また、分析的思考から腸内環境と脳内環境は相関関係にあることがわかっています。
腸内環境が安定していると脳内環境も安定し、腸内環境が不安定になると脳内環境も不安定になり、精神的にも不安定になるというのです。
うつ病や様々な精神疾患とコメ消費量の減少は上から見ても下から見ても大いに関係していると思います。
コメと日本人
穀物のある所に人が集まり、人が集まるところに文明が発生しています。
人類の歴史を見渡してみると、穀物と人間、穀物と文明は切っても切れない関係性にあるようです。
この穀物の消費量が、世界全体では増えているのですが、日本においては減っているのです。
お米の消費量はこの70年間で約1/3ほどにまで減りました。
少子高齢化により食べ盛りの子どもの数が激減していますから、お米だけでなく、その他の食も減ってきています。
穀物を浪費して作り出される食肉( 家畜肉)の消費量も減り出しましたから、穀物の消費量は減少の一途です。
肉食が減るのはいろいろな面でよいことですが、日本人においてはお米そのものの消費量が減ることで様々な問題が出てきます。
日本人の腸内環境はお米を食べることで安定してきました。
腸内細菌の主たるエサとなるお米を食べないと本来の腸内細菌の働きをしないのです。
日本人の便秘の原因の主たるものもお米不足です。
さらには日本人だけでなく、人間の遺伝情報の重要なところにお米が大きく関わっています。
動物の遺伝情報と植物の遺伝情報は多くの部分で共通性があるようですが、その中でも特に、人間の遺伝情報はお米の遺伝情報と重なるところが人間と植物間では一番多いといわれます。
昨今日本の衰退があらわになってきましたが、これは元をたどれば米を食べなくなったことに端を発していると私は考えています。
食養の祖・石塚左玄は、人間は穀食動物といいましたが、文明という点からしてもまさにその通りなのです。
お米は炭水化物だから太るなどといわれていますが、和食を食べてきた伝統的な日本人に肥満の人はいませんでした。
和食の基本であるご飯、味噌汁、漬物を中心に食べていたら、肥満体になることはまずないのです。
日本人の肥満の原因は、身土不二でみて日本の環境に合わない肉食や砂糖食( 現代は人工甘味料食)、脂肪食から来るものです。
そして何より、和食を基本にしていると体と心が軽くなりますから、運動習慣がつくのです。
キビキビと動くことが心地よくなってくるのです。
ご飯、みそ汁、漬物を中心に食していると、この三種から日々のエネルギーを得ようとしますから、白米では必須な栄養素が不足してくるので物足らなくなり、お米は白米よりも玄米に近いものを欲するようになります。
食養をこれから始める人は、お米は食べやすいものから始めたらいいのです。
白米が玄米よりもおいしく感じるなら白米から食養を始めたらいいのです。
そのうちに白米では物足らなくなってきて、白米に雑穀を入れたものや分搗き米がおいしくなったりしてきます。
さら年月を経ていくと、玄米ごはんがおいしくなってくるのです。
もちろん季節、体調、年齢、男女、いろいろな条件次第で主食は微妙に変わってきます。
それでもこれらを中心にしていけば大きく間違うことはないのです。マクロビオティックはその土地の伝統的な食と生活を基本にして、陰と陽という見方を生活・生き方に応用したものです。
伝統を活かすという保守的生き方であるのと同時に、陰陽思考という変化を恐れない考え方を持ち合わせた革新的思考でもあると私は考えています。
保守と革新も陰陽の関係だと思いますが、保守と革新、陰陽を併せ持っているのがマクロビオティックではないかと思うのです。
日本人が本来の生命力をもって生きていくその基礎となるところに、お米を中心とする生き方が欠かせないと食養指導を通して確信しました。
月刊マクロビオティック 2022年9月号より
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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)
1976年群馬県生まれ。
15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。
食養相談と食養講義に活躍。
「マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。