私たちの腸の中にはたくさんの細菌が住み着いています。
その数は、なんと1OO兆以上。いま地球上に住んでいる人間の数はおよそ70億ですから、その1万倍以上もの細菌たちが、私たち一人ひとりのお腹の中で暮らしていることになります。
また、人間が持っている遺伝子の数は2万数千個と言われますが、腸内の細菌たちが持っている遺伝子の総数は、その1OO倍にもなることがわかっています。
こうした腸内細菌たちは、人間が食べたものをエサにして、互いに競い合い、助け合いながら生きる生態系を作っています。
その細菌たちの生態系のことを「腸内フローラ」と呼びます。
「フローラ」は、お花畑に近い意味を持つ言葉です。個性豊かな細菌たちが、腸の中で花のように咲き乱れている、その全体を指すときに「腸内フローラ」といいます。
腸内フローラの細菌たちが、便通をよくし、お腹の調子を整えることは古くから知られていました。
ヨーグルトや乳酸菌飲料のCM でもおなじみですし、善玉菌・悪玉菌といった言葉も、どこかで聞いたことがあるでしょう。
ところが最近、そんな一般常識をはるかに超えたレベルで、腸内フローラは全身の健康と容、日々の暮らしに深く関わっていることがわかってきました。
彼ら(腸内細菌たち)はいわば、私たちが人生を楽しく快調に生きるために欠かせない、もっとも重要なパートナー。
家族や親友と同じくらい大切にするべき、自分の体の中にいるもうひとりの私でもあるのです。
私たち取材班が制作し、2O15年2月に放送したNHKスペシャル「腸内フローラ 解明!驚異の細菌パワー」は、放送後にたいへん多くの反響をいただきました。
腸内フローラという言葉は、その後、さまざまな雑誌やテレビなどで盛んに取り上げられ、番組をご覧になっていない方々にも、腸内フローラの世界を知っていただくことができました。
それ自体はとてもうれしいことですし、ありがたいことなのですが、そうした情報のなかには腸内フローラの真実が必ずしも正しく伝えられていないものがあったのも事実です。
腸内フローラの最新研究でわかってきた事実は、従来の人間観をくつがえしてしまうような、本質的で革命的な話です。
一時すごく話題になって、すぐに忘れ去られてしまうような中身の薄い健康情報ではないのです。
「そんな、大げさだな……」なんて思ったあなたに、ぜひ本当のことをお伝えしたい。
放送ではお伝えしきれなかったことを含め、私たちがこのテーマを追いかけてわかった最先端の情報をしっかりお届けしたい。
そう思って本書の執筆を進めました。
昨今、巷でかなり話題となっている「腸内フローラ」ですが、じつは毎日のように、身近に感じられる場所があります。それはトイレです。
水分を除いた「うんち」の3分の1は、腸内細菌でできています(ちなみに残りの3分の2は、食べかすと、腸の壁がはがれ落ちたもの)。
腸内細菌はお腹の中につねに1~2キログラムも住んでいて、毎日増殖しています。そして、増えた分はうんちとして出ていきます。
つまり、うんちは腸内フローラの一部なのです。
取材の過程でさまざまな研究所に行きましたが、高名な科学者たちが必死に調べている対象がうんちというのは、ちょっと面白い光景でした。
腸内フローラのパワーを探っていく本書の道程は、"うんちのパワーを知る旅"とも言えるのかもしれません。
いま、世界中が腸内フローラの研究に取り組み始めています。
アメリカ、ヨーロッパ、中国などでは数百億円規模の国家プロジェクトも進んでいます。
腸内フローラがさまざまな病気と関係していることが次々と報告され、その勢いはさらに加速しています。
こうした腸内フローラ研究の潮流は、遺伝子解析技術の進歩によってもたらされました。
最新の分析法を使って調べてみると、人間の腸の中には、これまで存在すら知られていなかった菌が大量にいることがわかったのです。
しかも、それらの菌たちは、私たちの健康と深く関わっていました。
今後研究が進めば、腸内細菌との付き合い方を変えるだけで、今まで治らなかった病気が治せたり、気分よく毎日が過ごせたりするようになるかもしれません。
あまりにも奥深すぎて、まだまだわからないことも多い腸内フローラの世界ですが、現時点でわかっていること、予測できることを、本書ではできるだけわかりやすく、面白く、みなさんにお伝えしたいと思っています。
やせる! 若返る! 病気を防ぐ! 腸内フローラ10の真実 | ||||
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