菌美女の酒井美保子連載コラム
バイオ・ファブリケーションという言葉をご存知ですか?
菌というと、今では日本の食文化で欠かせない存在、健康の鍵というイメージで扱われることが多くなったかと思うのですが、一昔前は、「ばい菌」というように菌は汚いもの、人に害をもたらすものという代名詞だったのではないかと思います。(もちろん、今でも人に悪さをする菌はたくさんです…)
そして、その考えは日本よりも海外の方がまだ根強く、世間一般的には、“菌の恩恵”と言えば、ビール、ワイン、チーズぐらいかもしれません。
しかし、世界中では菌の研究もどんどん進み、私たちがびっくりするような菌の活躍を目の当たりにすることができます。
「バイオテクノロジー」と「ファブリケーション」の融合であるバイオファブリケーション(Biofabrication)が注目され2010年には国際ファブリケーション協会が発足、2011年では世界大会が富山でも開催されました。
http://biofabricationsociety.org/
今回は、バイオファブリケーションの中でも菌が関連しているものをいくつか紹介したいと思います。
<納豆菌の性質を活かした衣服>
納豆菌の水分保有力や温度による形状の変化を生かし、それをバイオフィルムに転写して衣類を作るというもの。
MITメディア ラボの石井裕教授のチームがニューバランスとRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)とで共同開発し、服はまるで息をしているかのようということで「セカンドスキン」と名付けられました。
納豆菌が砂漠での水不足解消に一役かっているという話は聞いたことがありますが、皮膚のように環境に反応する布になるとは、今後夏の暑い時期にヒートテックとは逆のナットテックなる物ができても可笑しくありませんね(笑)
さて、続いては
<菌を利用した焼かないレンガ>
世界では地球温暖化や環境保護の観点から二酸化炭素をを出さず、エコフレンドリーな素材へのニーズが増加しています。
メソポタミア文明以来、使用されてきた通常のレンガは粘土を高温で処理するため、アジアの地域だけでも1年間に8億トンもの二酸化炭素を排出していると言われています。
そこで、米ノースカロライナ州を拠点として2012年に創設された「bioMASON」は、サンゴ礁の形成プロセスからヒントを得て「焼かずに栽培するレンガ」の生成に成功しました。
サンゴの内部に存在する微生物のもたらすpH(水素イオン濃度)の変化により結晶化する仕組みを利用して、砂を型に入れ、その中に微生物とその餌となるカルシウムイオンを含んだ水とを混ぜます。
そうすることで硬化(結晶化)が進み、5日ほどで強度のあるレンガができるのです。
水、砂、微生物、少しの栄養素で場所を選ばずに作れるレンガは高く評価され、2013年の「Cradle to Cradle Product Innovation Challenge (持続可能な優れた建築材料)」で表彰されました。
出典:http://biomason.com/visual-proof/
今現在は、エサや水分を断つと微生物は死んで、レンガだけが残るようですが、いずれは、サンゴ礁のように生きたレンガとして光合成をし、建物の内側の環境も新鮮な空気とほどよい温度が保たれ、コーラル(Coral)がもたらすような影響もあるかもしれません。
<キノコを使った家具>
キノコも言わずと知れた「菌」そのもの。世界で一番大きな生物としてはキノコがあげられています。
キノコの本体は地中に埋まっている幹や根(菌糸)の集合体になるため、その大きさはなんと東京ドーム600個以上の大きさのキノコも存在するほどです。(キノコのお話また別の機会に)。
そんなキノコの根の部分(菌糸体)を培養し、それに有機材料を一緒にして詰めます。
その結果、数日後、白い菌糸体が木屑などを吸収分解し、結合性の強い物質を作り出します。作り出されたかたまりをさらにプレスさせ梱包材やボード、椅子などに成型します。
そのように「菌糸体」に注目したのが米バイオ系ベンチャー「エコヴェーティブデザイン」です。
発砲スチロール、木材・プラスティック複合材に使用されているホルムアルデヒドを含まないエコ素材としても注目を集め、既に販売も行っています。
出典:http://www.ecovativedesign.com/
最後に
<最強人口クモの糸>
こちらは国内でもかなり話題にもなったのでご存知の方も多いかもしれません。
日本の山形にあるスパイバー(株)というベンチャー企業が、微生物を使って人工的にクモの糸を作ることに成功しました。
鋼鉄より強いというクモの糸は環境性と機能性にも優れていることから米軍で研究されている素材でした。
糸の成分となるたんぱく質を作るプロセスは複雑で90年代からデュポンや東レなど繊維メーカーも含めて多くの研究者が挑戦していましたが、生産性が悪くてほとんどが頓挫していたそうです。
しかし、バイオと情報科学が進み、時代の後押しと地道な研究のおかげで人口クモの糸が生産できるレベルまでになりました。
方法としては、世界のクモの遺伝子を解読し、共通と思われる似た塩基(DNAの構成要素)の並び方を微生物に組み込み、糸の成分になるたんぱく質をつくり糸にします。
クモの糸で作られたジャケットは、強度があるため山などで転落した際にも服が破けず身を守ることができるというもの、また今は自動車や飛行機の素材としても研究を行っているようです。
微生物が他のものに代わり、作成するという発想も今後研究が進むかもしれません。
世界の菌テクノロジーいかがでしたか。
世界でも更なる「菌の恩恵」に授かる時代に突入しました。
【前回のコラム】
酒井美保子プロフィール http://youandsoil.com/profile/
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