プリベンティブ・メンテナンス
この本は「プリベンティブ・メンテナンス」、すなわち病気の予防と健康の維持のための完全なガイドブックであるとともに、多くの症状や病気にたいして、安全で自然で効果的で、しかも病院で行なう標準的な治療よりも安価に、読者が自分自身で治す方法を紹介するガイドブックでもある。
「プリベソティブ・メンテナンス」ということばになじみのない人のために、その意味を簡単に要約しておこう。
それは、「自分の健康と幸福のために適切なェネルギーをタイムリーに投資しておけば、将来、莫大な悩みや痛みやお金が節約できる」ということだ。
たいがいの人は自分のクルマにたいしてはプリベソティプ・メンテナンスの大切さを心得ている。
定期的にオイル交換を行ない、チューンアップをし、ウォーニングランプが点灯すれば用心して点検する。
同じ心得を、クルマとは比較にならないほど大切な自分自身のからだに応用しない人が多いのは腑に落ちないことだ。
その理由は「では、どうすればいいのか」という情報をもっていないためである。
わたしはいつも考えているのだが、医師の第一の仕事は人々が自分で自分の健康を維持するために必要な情報を提供すること、つまり教育でなければならない。
病気の予防が先であり、治療はそのあとなのだ。
この本を書こうと思い立った動機のひとつには、読者にふだんから治療の必要がないような状態にしておいていただきたいという、わたしの願いがあったのである。
わたしは長年、アリゾナ大学で医学生を教育するかたわら、同州のトゥーソソ市で自然医学、および予防医学の診療を行ない、健康な人たちにきてもらって予防診断や食事、運動、ストレスリダクショソ(ストレス緩和法)の指導をしてきた。
こんな診療をする医師はまだ少数派だが、将来はきっとふえていくことだろう。
専門家への盲信は不健康
いまの医学の主流である現代西洋医学は、しかし、依然として変わらないどころか、ますます高価になり、テクノロジーヘの依存度を高め、精神性や霊性を排除して物質としての身体にのみ研究努力を注いでいる。
近年の傾向としてあげられるのは、医療費の先払いをすすめるさまざまな「健康維持団体」(HMO)の登場である。
利潤追求を目的とする企業であるHMOは、かぎられた診療時間にできるだけ多くの患者を診る契約医師を必要としている。
その結果、ひとりの患者を診る時間がますます少なくなる。細かい病歴もとれないし、治療すべき相手の人間像もわからない。
一方、患者側は、あらかじめ治療費を払ってあるのだからモトはとろうという気持ちで、ちょっとした頭痛、のどの腫れ、痛みなどで医師の治療を受けるようになり、自分の健康にたいする責任感がますます失われていく。
HMOの本部に20代、30代の男女のカルテが山積されているのを見ると暗然たる気分になってくる。
その患者の大部分は「自分自身の健康」という考えも、「病気になるのも健康になるのも自分自身のこころがけ」という考えもない。
自分で治せたらどんなに楽かということを知らないのだ。
医療の専門家への盲信は不健康である。わたしは本書の理論編にあたる『人はなぜ治るのか』(日本教文社)という著書で、現代医学(アロパシー医学)の限界と危険性を説き、それにかわるさまざまな代替医学、および現代医学を補う他の体系の諸治療法に検討を加えた。
それらの医学や治療法の長所と短所を知り、本書の思想基盤をなしている健康観・治療観を理解するために、ぜひお読みくださるようおすすめしたい。
ひとことでいえば、現代医学は外傷、急性細菌感染症、強力な薬剤や外科手術を必要とする緊急時の対処には非常にすぐれている。
しかし、ウイルス性感染症、慢性変性疾患、アレルギー、自己免疫疾患、多くのタイプのがん、精神疾患、「機能性」疾患(目立った物理化学的変化を伴わない機能障害)にはほとんど無力である。
そして、それらの疾患や障害はすべて、その発病にこころが大きな役割を演じている。
現代医学では治せない病気を現代医学の医師に診てもらうのは賢明とはいえない。
現代医学が得意とする病気を現代医学以外の治療家に診てもらうのも賢明ではない。その点についての詳細を知りたい方は、どうか『人はなぜ治るのか』をお読みいただきたい。
人はなぜ治るのか―現代医学と代替医学にみる治癒と健康のメカニズム
何よりもまず知っていただきたいのは、わたしが読者であるあなた自身の決意に多大な期待を寄せているということだ。
わたしはあなたが自分自身の健康と幸福に責任をもちたいと思うようになり、専門家に頼らずにすむ方法を知りたいと思うようになることを期待している。
すすんで自分のからだを使って実験し、ライフスタイルを変える気になってくださることを期待している。
また、症状の改善が自分の能力の限界をこえ、医師の手にゆだねるべきときであるかどうかを、正しい判断と常識を使って決定してくださることを期待している。
たとえば熱が高く、寝汗をかき、リンパ節が腫れているのに放置しておくとか、代替療法の治療家を探して時間の浪費をするなどは愚かなことである。
迷わずに現代医学の医師のところに行き、全身の検査や血液検査をしてもらうべきだ。
感染症や悪性腫瘍、重要臓器の機能不全などにつながりかねない、激変する症状か頑固な症状のある人にも同じ忠告をしたい。
自分が自分の主治医になろうとするときや自然療法に頼ろうとするときに、もっとも犯しやすい過ちは、現代医学の標準的な治療法で簡単に完治するような症状を見逃してしまうことなのだ。
最新の栄養学と民間伝承の知恵、精神神経免疫学にもとづく病気予防法と瞑想テクニックなど、現代医学と伝統医学を絶妙のバランスで統合した、自然医学の決定版。
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