甲野善紀 甲野陽紀 驚くほど日常生活を楽にする 武術&身体術 「カラダの技の活かし方」 (DVDブック)
痛めやすい腰の負担はこうすれば軽くてきる!
プロと呼ばれる人は、その守備範囲では実に強力な力を発揮します。たとえば宅配便のプロ。重くて大きな段ボールをもって階段をすいすいのぼるその姿は、さすがのプロ。
それだけに腰に負担がかかるのだろうなあ、と素人は想像するのですが…
意外なことに、こうしたプロが腰を痛めるのは荷物を運んでいるときより、床に落としてしまったペンをさっと拾おうとした瞬間だったりするーーという話をよく聞きます。
どうしてだろう?と、観察をしているうちに気がついたことが二つ。
ひとつは、「ものを拾う」とき、「腰から動く」人が多いということ。
「腰から動く」と上半身の重さがそのまま腰にかかるので、たしかにこれは負担が大きくなるのです。
もうひとつは、「ものを拾う」動作は急なタイミングで起こることがよくある、ということ。
何かを落としてしまい、それをすぐに拾おうとするということはふだんよくありますね。
そんなときに、急に腰から動いてしまったら腰にどれほどの負担がかかるのか・・腰の悲鳴がなんとなく聞こえるような気がします。
どんな動作にも共通する大切なポイントは、「カラダ全体の力を引き出す」ことです。
「ものを拾う」場合も同じ。腰にだけ負担をかけないようにするには、膝や足首のやわらかさを活かすのがポイントですが‘膝がカタい状態にあると、すっと動き出せないときがあります。
そんなときは、「かかと先の力」に応援を頼んでください。
ものを拾う動作をする前に「かかと先からの足踏み」を二、三回。これだけで、膝の強ばりがとれ、すっと動いてくれるようになります。
ふだんから腰痛が気になる方は、しゃがみ込む動作をする前には、「かかと先からの足踏み」をする習慣をつけておくといいですね。
手足の指先・かかと先…身体の司令塔は実はここにある、のかもしれない
「指先」。末端中の末端、「指先」が動作の最前線にいるということがわかります。
そんな「指先」をさらによくよく見ると、いくつかの部分に分かれていることがわかります。一般的には指先と聞くと、「爪の先」あたりをイメージするのではないでしょうか。
実は、わたしの言うところの「指先」はちょっと違って、爪の先と指の腹の間の「斜めになっているところ」。
あまり意識をせずに、両手の指を合わせてみてください。そのとき、自然に指が合わさるところ、そこが「指先」です。
壁に指でサラサラと文字を書くようなマネをするときに常に触れているところであり、携帯電話のボタンやパソコンのキーボードを押すときに触れているところ、そこがわたしが考える「指先」です。
なぜわたしがそう考えるようになったのか?理由は簡単です。
その部分だけがもっている力が実はあって、そのカは身体のつながりを引き出すとても大切な役割をもっているからなのです。
詳しくはこれから始まる項をぜひお読みいただきたいのですが、ひとつだけ例をあげると、たとえば暗闇の中でわたしたちが動くとき。
さて、身体はどこから動き出すか?と考えると、やはりここでもその役割を担うのは「指先」です。
こんなときヒジやヒザやアタマが先に動くということはまずありません。
「指先」が先頭に立って暗闇の中に危険なものがないかを確認し、大丈夫であれば身体は「指先」について進んでいき、もし「指先」が尖っているものに触れたりしたときは、手は瞬時に引き戻されます。
状況を把握するのはつねに「指先」なのです。
いってみれば「指先」は「情報屋」のようなもの。その情報によって身体がどう動くかが決まっていく、とすれば、「指先」こそ「司令塔」の名にふさわしい身体なのかもしれません。
その力は暗闇になると感じやすくなりますが、本来は日中でも変わりません。
ふだんそのことに気がつきにくいのは、目でとる情報のほうが指先のそれよりもはるかに影響力が強く、触れたことによる情報がほとんど無視されてしまっているからでしょう。
でも事実は、「指先につれられて、すべての身体は動いていく」ということ。
その意味を知るということは、きっと私たちの身体というものがどのようにできているのか、身体を動かすということはどういうことなのかを、
教えてくれることになるのかもしれないーーーそんな予感がするのです。
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