便利さと引き替えに失った栄養
人が病気になるのはなぜだろう?確かに、無理をすれば不調になり、ひどくなれば病気になってしまうこともある。
しかし、結果にはかならず原因がある。
その原因さえ取り除けば、もしかすると、病気と無縁の人生だってありうるのかもしれない。
現代の死因で圧倒的上位を占めるのは、悪性新生物(ガン)や心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病だ(図3)。
「主要死因別死亡率」(図l) によれば、生活習慣病が増えはじめるのは1950年を過ぎた頃。
ちょうど、戦後に起きた食の欧米化(図2「食生活の変化」)と重なる時期だ。
また、この時期は、「緑の革命」とも重なる。
高収量の品種が開発されて生産現場に導入され、化学肥料をどんどん投入して穀物の大量生産を達成した農業革命だ。
長年、国立がん研究センター中央病院などで消化器系のガン手術や治療に携わってきた、消化器外科医で産業医でもある佐野正行先生は、いまの私たちの食を次のように分析する。
「ファーストフードやコンビニエソスストアのおかげで、手っ取り早くおなかを満たすことができるようにはなりました。
その野菜自体に含まれる栄養素が激減しているうえに、加工処理する過程でビタミンやミネラルが大量に失われているため、食だけでは栄養素がとりづらくなっています。
さらに、大量に摂取している食品添加物も栄養素の吸収を妨げます。
老廃物を排出する際や、格段に増えた心身のストレスに対処する際にも、ビタミンやミネラルを大量に使ってしまいます。
つまり、太って栄養過多のように見えても、ビタミンやミネラルが慢性的に大量に不足している肥満型栄養失調状態なのが、現代人の特徴です。
健康であればなにを選んで食べても本人の自由ですが、調子が悪かったり病気になったりしているのであれば、まずは食事の質を見直しましょう」
病気の原因の8割はサビ”還元”でサビ取りを
体に入った食べものは腸から吸収される。
吸収された栄養素は血流にのって、数十兆個といわれる体中の細胞にたどり倍き、細胞膜を通して細胞内の老廃物と入れ替わる。
老廃物はその後、血流やリンパ流にのって腸や膀脱などから体外に排出される。
腸、血液、細胞股の3つの状態を整えることが健全な体の維持にとって大切だ。
ところが私たちは、腸内環境が悪化しているため、栄養素を吸収できないだけでなく老廃物の排出もうまくできていない。
本来捨てるべきものを捨てられずに体のなかを循環させてしまっている状態にあるのだ。
「活性酸素という言業を開いたことがありませんか?細胞が病気になったり老化したりする原因はサビです。
錆びるというのは酸素とくっついて酸化することで、病気の原因の8割を占めるともいわれています。
でも、酸化自体はもとに戻すことができるんですよ」(佐野先生)
理科の授業を思い出してみよう。酸化とは、分子のなかにある電子がなくなった状態だ。酸化した物質は、失った電子をほかから奪ってもとに戻ろうとする。
これが還元。体のなかでも同じことが起きていて、酸化した食べものが多い現代社会では、食べたものが還元しようとして細胞から電子を奪う。
奪われた細胞は当然、錆びていく。
しかしここで、還元力の強い食べものを食べれば? そう、錆びた細胞が電子を取り戻して還元することができる。
還元力の強い食べものの例として佐野先生が挙げたのが、自然栽培の農産物だ。
食生活の改善でガンがなくなる!?
「生きている以上は酸素に触れるので、人も野菜も必ず酸化します。元気な人は還元する力が強くて、私たちはそれを自然治癒力と呼んだりしています。
自然栽培の野菜は肥料の力を借りずに自分の力を最大限使って生きていますよね。
虫に食われたり葉っば同士が強風でぶつかり合ったりして傷を負いますが、それを治すだけの力を持っています。
その証拠に、自然栽培の野菜は切り口の色が変わりづらい。
色が変わるというのは酸化するということです。自然に育った、遺伝子をいじられていない、還元力が強い野菜をたくさんとれば、体も錆びにくくなります。
自然栽培のような農産物を食べて腸内環境がよくなったと実感している人が多いのは、腸の環境が整い、細胞が還元し、代謝がよくなったからです。
細胞が修復されて滞りが改善すると、栄養の吸収がよくなり、よい循環が生まれます。
これまで消化器外科医としてたくさんのガン手術をしてきましたが、極論をいえば、食生活の改善でガンはなくせます」
自然栽培 vol.7 | ||||
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