咀嚼と判断力

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磯貝昌寛の正食医学【第130回】食養指導録 コメと判断力

咀嚼と判断力

江戸時代から比べると現代人のコメの消費量は約1/3ほどに減ってきていることが統計からわかるのですが、このことは単に食生活が変化したという一言では済まされない大きな問題を孕んでいるのです。

下図で示すように、咀嚼回数が減ることで判断力が鈍くなることが、マウスとラットの研究からわかっています( 注1)。

人間においても柔らかいものばかりを食べていると咀嚼回数が少なくなり、脳への刺激が少なく、脳の神経細胞の発達が鈍くなるのではないかと思うのです。

精米技術が発達したのは元禄時代( 西暦1700年前後)の江戸といわれます。

江戸幕府5代将軍・徳川綱吉の時代に江戸の中心では精米技術が発達したことで玄米から白米に変わっていったといいます。

とはいえ、現代ほどの精米技術はなく、白米といっても実際は現代でいう分搗き米( 五分搗き位ではないかといわれています)を食べていたといいます。

脚気が流行りだしたのは、江戸の中心部からでした。

江戸を訪れた地方の大名や武士に、足元がおぼつかなくなったり、寝込んでしまったりと、体調が悪くなることが多くなったのが元禄時代なのです。

そんな人たちも故郷に帰るとケロリと治ってしまうことから、この病を「江戸わずらい」といったのです。

地方( 故郷)では玄米食が中心だったのです。

江戸の中心では白米( 分搗き米)であっても、全国的には玄米か少しだけ精白した一分搗き米を食べていたようです。

コメが十分とれない地域ではコメに雑穀を混ぜて食べていたといわれます。

江戸時代は日本人全体がいわゆる茶色い飯を食べていたのです。

精米技術の発達が全国に及び、白米が食べられるようになったのは明治がずいぶんと経ってからといわれます。

それでも、貧しい地域では白米にしたら多くの糠を捨ててしまうことから、戦後の高度経済成長期くらいまで茶色っぽい飯を食べていたのが現実なのです。

江戸時代までは年間一人一石( 約160キロ)の玄米を食べていたということは、ものすごい咀嚼回数だったと想像できます。

現代ではその主食が白米になり、さらにコメの消費量は1/3に減り、コメの代わりに小麦の麺やパン( やわらかい)になりましたから、その咀嚼回数たるや江戸時代からは激減したことは想像に難しくありません。

そんな現代人の判断力はどんなものでしょうか?

民主主義とはいっても、その民たる私たちがしっかりとした判断力を持っていなければ、政治は本来の働きをしないのではないかと思うのです。

コメと判断力

民主主義は善で専制主義は悪と、私たちは学校教育からよく聞かされてきました。

学校教育だけではありません。

ほとんどのメディアや学者は口を揃えて、「民主主義は正しく、専制主義は悪い」と言います。

しかし、よく考えてみたら、民主主義にもいいところもあればよくないところもあります。

専制主義も一緒でいいところもあればよくないところもあるのです。

先に示したように、咀嚼力が低下して判断力が鈍くなったら、民主主義であろうが専制主義であろうが、政治はうまく機能しないのです。

マウスやラットを用いたたった数十回の実験であれほどまでに判断力(ここにおいては危機察知能力)に差がついたということは、人間において、何十年あるいは何百年と時が経てば、その判断力の差といったら想像するだけで身の毛がよだちます。

政治というのは本来、その国の人たちが末永く健康で平和で自由な生き方ができるようにたゆまぬ努力を続けていくことです。

これは政治を直接担う人たちだけでなく、私たちひとり一人が健康で平和で自由な社会の実現に向けて、日々の生活の中で取り組むことだと思うのです。

マクロビオティックを遺した桜沢如一の願いが「健康と平和と自由」です。「健康と平和と自由」の基礎に、その土地にあった穀物、日本においてはコメ、をよく噛むことだと思うのです。

食養・マクロビオティックにおいて日々の生活でもっとも大事なことは何かと聞かれると、多くの先達が「噛む」ことだと言っていたのを思い出します。

噛むことは人間が人間たる生き方をするのにもっとも大事なことだと思うのです。

日本人であれば、風土にあったコメをしっかり噛んで食べることが判断力を高めます。

その先に、日本人に合った政治が醸成されてくると思うのです。

( 注1)マウスおよびラットにおける固形食群と粉末食群を条件回避学習させた時の回避率の比較より「マウスとラットの条件回避学習に及ぼす飼料硬度の影響」川村早苗( 朝日大学歯学部)昭和63年

月刊マクロビオティック 2022年11月号より

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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)

1976年群馬県生まれ。

15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。

食養相談と食養講義に活躍。

マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。