不要なクスリ 無用な手術 医療費の8割は無駄である (講談社現代新書)
病気を治すのではなく症状を緩和させる
―つ目の「どんなクスリでも副作用がある」というのは、抗がん剤の副作用がきついということを見ればおわかりだと思います。
抗がん剤にかぎらず、糖尿病で使われる血糖値を下げる目的のクスリ、高血圧のときに血圧を下げるために使われる降圧剤など、みな副作用があります。
市販されている風邪薬でさえ副作用があります。
風邪薬の副作用でよく知られているのは、「眠気をもよおす」ことでしょう。
これは、クスリのなかに入っている成分、”抗ヒスタミン剤”の副作用で、ほかに、のどの渇きや、だるさ、めまいや吐き気といった副作用が出ます。
クスリとは人間の体になんらかの影響を与える物質と捉えれば、それがよい影響ならば「効果」となり、悪い影響なら「副作用」となるわけです。
ですから、ことさら副作用だけに焦点を当ててしまえば、どんなクスリも飲めなくなります。
要は、副作用を知って、効果とのバランスのなかで飲んでいく、あるいは飲むのを止めたりするということが必要なのです。
二つ目の「ほとんどのクスリが病気の症状を緩和するもので、疾患そのものを完全に治すものではない」ということは、もっと重要です。
なぜなら、クスリでは病気は治らないからです。
基本的に病気を治すのは、私たちが自然に備えている免疫力(自然治癒力)であって、クスリはその手助けをするだけです。
たとえば、ここでも風邪薬を考えてください。
風邪の原因はほぼウイルスです。
風邪を引き起こすウイルスは200種類以上あるとされていますが、このウイルスが体のなかに入って、上気道(鼻からのどにかけての間)が感染症に冒された状態を風邪と呼んでいます。
よく風邪をひくと、病院で抗生物質をもらいたがる方がいますが、こういう方はクスリに対する知見がない方です。
というのは、抗生物質が叩けるのは細菌(バクテリア)だけで、ウイルスは叩けないからです。
ウイルスは細菌よりずっと小さく、自分で細胞を持っていません。自己増殖できないので、ほかの細胞に入り込まなければ生きていけないのです。
したがって細菌を叩く抗生物質では効果が上がらないのです。
つまり、風邪薬というのは対症療法なので、そのために、多くの医者が総合感冒薬から解熱剤、咳止め薬など、何種類も患者に出しています。
これは市販薬でも同じことです。
それらのクスリには、熱を下げる、咳を止める、くしゃみや鼻水を出なくするなどと効用が書かれていますが、「風邪を治す」とはひと言も書かれていません。
このことを逆から言えば、クスリで治る病気を探したほうが早いということです。扁桃腺炎、気管支炎、肺炎などは、ふつうは抗生物質で叩けるので治ります。
しかし、これから述べる生活習慣病である高血圧、糖尿病などはどんなクスリでも治りません。
リウマチもそうです。クスリは病気を治すものではなく、症状を抑える、緩和させるものだということを知ってください。
度を過ぎた製薬会社と大学病院の癒着
三つ目の「クスリの開発・生産は製薬会社が行っており、それは厳然たるビジネスである」ということは、動かしがたい事実です。
ビジネスですから、製薬会社と医者や病院が癒着したりして、実際は効果がほとんどないクスリが処方されてしまうなどということが起こります。
その典型的な例が、2O13年から2O14年にかけてメディアを騒がせた「ノバルティス事件」です。
この事件は、ノバルティスファーマという外資の製薬会社(本社スイス)が、高血圧症治療薬「ディオバン」(一般名バルサルタン)を巡る臨床データを不正操作していたとして、東京地検特捜部にノバルティスの社員が逮捕されたというものです。
このディオバンという降圧剤は、それまで多くの高血圧症患者に処方されていました。
しかし、喧伝されていた効果はまったくありませんでした。
なぜなら、効果があるとされた研究データはほとんどが捏造で、しかもその捏造を有名大学の教授たちや研究者が行っていたからです。
そんな教授や研究者がいた大学は、京都府立医大、東京慈恵会医大、滋賀医大、千葉大、名古屋大の計5大学で、ここで臨床研究が行われ、そのうち慈恵会医大と京都府立医大の論文では
「ディオバンを服用するとほかの高血圧の薬より脳卒中や狭心症の発症が抑えられる効果があった」とされていました。
ですから、そうした恐れのある患者には、ディオバンを出す医者が多かったのです。ところが、この臨床研究はデタラメで、ディオバンはただの降圧剤にすぎなかったのです。
この事件の背景には、降圧剤が製薬メーカーにとってはドル箱で、開発したクスリが当たれば、年間数千億円の売り上げが見込めるということがあります。
そのため、製薬メーカーは、営業のために惜しみなくおカネをつぎ込みます。
このおカネに医者たちが群がるのです。
製薬メーカーには「MR」と呼ばれる営業担当者(正式には医療情報担当者)がいて、大学病院、大病院、開業医まで、ありとあらゆる医者を接待漬けにして営業しています。
ゴルフ、料亭、クラブ、キャバクラでの接待は当たり前で、自社製品に有利な研究をしてくれる医者には、製薬メーカーは研究費から日常のお小遣いまで出します。
ノバルティス事件では、論文を捏造した教授らがいた大学には万遍なく「奨学寄付金」が渡っていました。
奨学寄付金というのは、教育研究の奨励を目的に、製薬メーカーが口座や研究室を指定して資金提供できる制度。
この資金は、もらう側がほぼ自由に使え、学会への旅費や研究室の人件費などにも使えます。なかには、愛人との海外旅行に使ったというツワモノの大学教授もいたのです。
いまも、医療関係者は「ノバルティスの接待は度を超えていた」と言います。
実際、ノバルティスは、関係の深い教授のためには講演会まで用意し、その夜は高級ホテルに泊め、さらにホテル内で自由に買い物させていたといいます。
また、2002年以降で、ノバルティスが支払っていた寄付金は約11億円。その内訳は、京都府立医大3億8170万円、名古屋大2億5200万円、千葉大2億4600万円、東京慈恵会医大1億8770万円、滋賀医大6550万円です。
ノバルティスは、病院や医者ばかりか、メディアにもおカネをつぎ込んでいました。
医療専門誌に大量の広告を出し、有名教授らが広告塔となってクスリを宣伝していたのです。
たとえば、医療情報誌『日経メディカル』の企画広告では、
「日本人高血圧患者を対象とした数々のエビデンス」
「日本の医療レベルと試験のクオリティの高さ」などと、試験の成果が大々的に宣伝されていました。
このような製薬会社と医療側の癒着は、それまでにも数多く起こっています。
すでに、2O12年、公正取引協議会などが規制を強化し、飲食の提供は1人5000円までで二次会は禁止などという通達を出しています。
ゴルフ、釣り、観劇、スボーツ観戦などの「娯楽の提供」も禁止されました。ただし、現在でも名前を変えた接待は行われています。
医者を外来講師として招き、大体1時間くらいの講演をしてもらい、5万~10万円の謝礼金を払い、その後「慰労会」という名の接待を行うというようなパターンです。
もちろんですが、クスリを飲まされる患者のほうは、そんなことが行われていることなど知る由もありません。
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