睡眠薬中毒 内海 聡 (著)

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睡眠薬中毒 (PHP新書)

日本では4人に1人が不眠症と言われ、睡眠薬の消費量世界一。

副作用が少ないとされているが、実際には依存性があり、飲み始めると止めることが難しい。

「ゲートウェイ・ドラッグ」と言われ、睡眠薬をきっかけに、うつ病に発展していくことは一部では知られている事実である。

睡眠薬の真実

次のうち、睡眠薬に関する記述で正しいものはどれか?

①睡眠薬は不眠を治さない薬である。

②睡眠薬は向精神薬である。

③睡眠薬には依存性がある。

④睡眠薬の服用の中止には禁断症状がともなう。

⑤睡眠薬は、海外では麻薬と同様に規制されている。

⑥睡眠薬を飲み続けると、認知症になりやすい。

⑦睡眠薬を飲み続けると、早死にしやすい。

答えは、「すべて」である。

おそらく、睡眠薬を使う人は、不眠を治す薬だと思って使っているのではないだろうか。睡眠薬に不眠を治す力はない。睡眠薬を飲んでも眠れるようにはならない。

ただ脳を強制的に麻酔しているだけである。

そして、睡眠薬による眠りは”睡眠もどき“だということがわかっている。

こう書くと、「でも私は睡眠薬で眠れている」と反論する人がいるだろう。

では、そういう人は睡眠薬を使わなかったらどうだろうか。眠れるだろうか。

「眠れないから睡眠薬を使うんだ」と、堂々めぐりになりそうだが、私が言いたいのは、睡眠薬を飲まなければ眠れない状態は、「不眠が治った」とは言えないということである。

薬を飲まなくても症状が治まってこそ、「治った」と言えるからだ。

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睡眠薬は向精神薬の一種

まず、睡眠薬は向精神薬の一種である。向精神薬とは、中枢神経系に作用して精神に何らかの影響を与える薬の総称である。

基本中の基本だが、睡眠薬が向精神薬であることを理解していない人が結構多い。内科や整形外科など、精神科以外で睡眠薬を処方されている人が多いからだろうか。

あるいは、眠るという身体活動を助ける薬だと思うからだろうか。

いずれにしても、「向精神薬は怖い」「向精神薬は飲みたくない」と思っている人でさえ、睡眠薬だけは抵抗なく使っていることがある。

しかし、睡眠薬も抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬、気分安定薬などと同じ向精神薬なのである。

睡眠薬の大まかなメカニズムは、脳内の神経伝達物質の機能を遮断するか活発化させることで中枢神経の活動を抑制し(=脳の興奮を抑えて)、眠りに導くことだ。

だから、人間の体におよぼす効果は、ほかの向精神薬と何ら変わりない。

イメージ緩和のために「導入剤」と呼ぶ

「寝つきが悪くて困っているんです」と訴える患者さんに、「じゃあ、導入剤を出しますね」と言う医者がいる。

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睡眠薬ではなく、「睡眠導入剤」という言葉をあえて使っているわけだが、意味は変わらない。

向精神薬であるにもかかわらず‘睡眠薬に対しては抵抗がない人が多いと書いたが、なかには、「睡眠薬」という響きにどことなく怖いイメージを抱いている人もいる。

そのため、睡眠薬とは言わず、「導入剤」と呼んでごまかしているだけのことである。

一般的に、「睡眠導入剤」と呼ばれるのは、

・トリアゾラム(商品名は「ハルシオン」)
・ゾルピデム(商品名は「マイスリー」)
・ゾピクロン(商品名は「アモバン」)
・エスゾピクロン(商品名は「ルネスタ」)

など、半減期の短い睡眠薬である。

半減期とは、薬を服用した後、薬の成分の血中濃度が最高到達時の半分になるまでにかかる時間のことだ。

トリアゾラム、ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロンといった睡眠薬は、飲んでから1時間前後で血中濃度がもっとも高くなり、2~4時間で半減する(「ルネスタ」は約5時間)。

ほかの睡眠薬に比べて半減期が短い(第4章参照)のが特徴である。

簡単に言えば、効果が表れるのも効き目が切れるのも早いため、寝つきの悪さを訴える患者さんによく使われる。

また、血中濃度が短時間で下がるということは、ほかの睡眠薬に比べて短時間で成分が体から抜けていくわけで、医者にとって出しやすい薬だといえる。

だから、多くの医者が、「安全性が高い睡眠薬だ」と言って患者さんに紹介している。

実際のところ、第2章で紹介した、「夜中に冷蔵庫を漁ってケーキを食べていたのをまったく覚えていない」などという話をいちばんよく耳にするのが、ゾルピデムなのだ。

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トリアゾラムにいたっては、わずかに過量服用しただけで記憶喪失を引き起こす。

1990年代初頭には「性犯罪やダウナートリップに最適なドラッグ」と煽りたてられ、世界じゅうで社会問題になった。

ダウナーとは「精神的に抑制される」という意味だが、すぐに効いた気がして健忘が出やすく、酔っ払いがラリっているのと同じ状態をつくりだせるので危険極まりない。

もちろん、ジャンキーたちは嘘を並べたてて正当化し続けるだけだが……。

アメリカでは、母親を銃で撃ち殺したユタ州の50代の女性が、「日頃用いていたトリアゾラムの精神障害によって引き起こされた殺人事件である」との精神科医の鑑定によって、不起訴になったことがあった。


日本では4人に1人が不眠症といわれ、睡眠薬の消費量は世界一。副作用が少ないとされているが実際には依存性があり、飲みはじめるとやめるのは難しい。

「ゲートウェイ・ドラッグ」ともいわれ、投薬をきっかけに、うつ病に発展していくケースも多い。

認知症のリスクが、飲まない人に比べて高まるともいわれている。

本書では、手軽に処方されるにしてはあまりにも怖いクスリについて、睡眠薬の依存から脱するためにはどうしたらいいのかをわかりやすく解説する。

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