ちまたにあふれる肩こり解消体操やマッサージ店の施術で肩こりが再発・悪化してしまうのは、 一人一人異なる肩こりの原因を正しく対策していないから。
自分のからだの癖と肩こりの原因を知って、正しく対処すれば、 「二度と再発しない一生こらないからだ」を手に入れることができるのです。
なぜ、肩こりが生じるのか
肩こりには実は色々な原因があります。肩こりとは、筋や筋きん膜まく(筋肉を包みこんでいる膜)あるいは関節に対する使いすぎが原因で生じる症候名(症状)です。
肩や首まわりの不快感について、おおまかに「肩こり」とまとめられがちですが、実は3種類に分けられています。
①原因が不明確な原発性の「いわゆる肩こり」と、②「症候性せ肩こり」(整形外科疾患、内臓器疾患、眼科・耳鼻科・歯科疾患)、そして③「精神・心因性疾患」に大別できます。
整形外科では、「頸肩腕症候群」という診断名がつくことが多い症状です。
その原因は多岐にわたります。「症候性肩こり」(広義の頸肩腕症候群)は、頸、肩、上背部 、前胸部 、上肢などの痛み、こわばり、しびれ、冷感などを伴う疾患群につけられた総括的な名称です。
これには、首の骨が変形する「変形性頸椎症」や、腕や指にしびれや痛みが出る「頸椎椎間板ヘルニア」や、「胸郭出口症候群」なども含まれます。
「胸郭出口症候群」は、余分な肋骨( 頸肋)が第7頸椎にくっついていることで生じる「頸肋症候群」、頸椎から第1肋骨に付着する斜角筋が硬くなって生じる「斜角筋症候群」、
リュックサックなど重い物を持つことが多い人で鎖骨が第1肋骨に圧迫されることで生じる「肋鎖症候群」、
小胸筋が硬くなることで腕を斜め後上方にあげると症状が生じる「過外転症候群」に分類されます。
病院では、自分が受診した科でさまざまな疾患と結びつけられることも多くあります。
縦割り行政のように、脊椎専門科では「頸椎症」に、肩関節専門では「頸肩腕症候群」に、歯科では「咬合不全」にと、その科で診断名がつくことも多いのです。
これをなくすために、肩こり研究会が平成17年に発足しました。
神経内科医、肩関節専門医、脊椎専門医、麻酔科ペイン専門医、耳鼻科専門医、そして理学療法士として私が加わっています。
情報を共有するために毎年集まり、研究会も開催しています。努力はしていますが、まだまだ縦割り行政の解消には時間がかかりそうです。
一方、「いわゆる肩こり」(狭義の頸肩腕症候群)とは、これらの疾患群の中から、外傷
および先天性の異常のほか、
①頸・背部の脊椎、脊髄あるいは周辺軟部の腫瘍
②頸・背部および上肢の炎症性疾病
③関節リウマチおよびその類似疾患
④頸・背部の脊椎、上肢帯、および上肢の加齢退行変性による疾病
⑤胸郭出口症候群
⑥末梢神経障害
⑦内臓疾病に起因する諸関連痛
⑧類似の症状をていしうる精神医学的疾病 を除外したものです。
つまり、「いわゆる肩こり」は、原因となる器質的病変(物質的、物理的に特定できる障害や損傷)がなく神経症状も明らかでないにも関わらず、
肩から頸部・僧帽筋部・肩甲骨間部にかけての不快感・重圧感・こり感があり、持続的でなくても痛みや感覚異常を訴えます。
原因はさまざまで、不良姿勢・運動不足・不適切な運動・(特定の筋の) 過用・過剰労働・精神的緊張・自律神経失調・循環障害・加齢・寒冷などが誘発因子となります。
また、作業場の明るさ、机の高さ、仕事のスピードや量などの環境的要素も肩こりの原因となりえます。
ほかには、昔のケガが不良姿勢をさらに悪くして、筋膜を介して肩まわりや首まわりの筋肉が硬くなることもあります。
たとえば、昔の手首の骨折のときの手術が肩までつながる筋膜を介して肩こりを発生させたり、足の捻挫が筋膜のつながりを介して肩や首にこりを発生させることもあります。
つまり、肩こりだといって肩まわりだけをほぐしても、多くはすぐ再発してしまうのです。肩に原因がない場合も多くあり、その場合は広い範囲の治療が必要で、足や手など遠い場所から治療を始めることもあります。
また、肩の筋肉は僧帽筋の下に肩甲挙筋が、その下に脊柱起立筋がというように、何層にもなっています。
表面だけがこっている人は少なく、慢性症状になればなるほど何層にも重なってこってきます。
この肩こりを、私は「ミルフィーユこり」と呼んでいます。
筋膜を介して他の部位から肩こりを起こしている場合や、ミルフィーユこりの場合は、マッサージや鍼灸、生理的食塩水の注射などは対処療法でしかありません。
その場では効果があっても、また再発してしまうのです。
では、肩こりは治らないのでしょうか?
そんなことはありません。本書では、その謎解きをしていきます。
肩こりの9割は自分で治せる (イースト新書Q) | ||||
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