食は全体食にある、Whole Foodsこそ真髄『骨まで愛して―粗屋(あらや)五郎の築地物語―』

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札幌の自然食品店「まほろば」主人 宮下周平 連載コラム

あらっ・アーラ・粗(あら)ブーム!!!

先の師走20日、『骨まで愛して―粗屋(あらや)五郎の築地物語―』が発刊された。著者は、言わずと知れた発酵学者の小泉武夫大先生である。

その講演の度ごとに、宣(のたま)われるのは、「退官後は、粗屋(あらや)を開店したい」と。

すでに東京農大を退官され、名誉教授にお就きになられたはずだが、一向にその気配がない。

ところが、昨年11月だったか、会席上で、「12月に粗屋一代記を出版する」と、突然の発表。

早速、その日を待たずして購入、一気呵成に読了したのだった。

小泉先生が主役で登場

まさに、小泉先生が、そこに主役でご登場、この世の現場には、お顔を見せぬが、本の中では出ずっぱりである。

小泉武夫が粗屋五郎に成りすましている。まさに魚河岸築地の「ゴロウちゃん」なのである。

何せ、粗はゴミ箱行き、タダでもってけの丸儲け(文中では、キッチリと気風(きっぷ)よく支払い、実に潔くて義理堅い!この生き方の美学が、料理の仕込みに出ない訳がない)で、手を掛けた分、倍乗倍々乗で値が付く。

味の値だけに、誰も文句の付けようがないのだ。見事なものである。

これでもかの粗(あら)料理のオンパレード

魚の仕込みから、食す作法まで、微に入り、細を穿(うが)ち、蘊蓄を傾ける。

第一章、「捌き屋五郎」から第六章、「身を捨ててこそ浮かぶ粗あり」まで、徹頭徹尾、北から南の日本列島を駆け巡りながらの粗談議、粗料理のオンパレードには、まっこと恐れ入った次第。ここまで書けるものか、と感心すること頻(しき)りなのだ。

よくぞ、まぁ、かくまで脳髄の蔵に仕舞われておられたのかと、五郎ちゃんより、小泉先達に只々驚嘆置く能わざるものなのだ。まさに、脱帽状態なのだ!

五郎ちゃんには降参

当方、30年以上にわたり、青果はもちろん、魚河岸やっちゃば通いの日々の習いから、多少なりとも魚稼業の裏表を見て来た。

毎朝、全国津々浦々の漁港から送られて来た荷捌(さば)きを見て来たる手前、多少の目利きもあろうかと思うものの、粗屋五郎の心意気には、全くの降参なのだ。

仕事の出来不出来は、段取りで、その段取りは始末の良さにある訳だが、五郎ちゃんはとにかく動く、とにかく働く、とにかく知っている。

誰彼のためにも一肌脱ぐ情け深い心根は、人の信を得、人の縁を広げる。

トントン拍子に、築地一等地に店を張り、宣伝せずして客が寄る。

ゴロウちゃんの人脈、人徳のなせる業で、まるで小泉先生を見ているかのようだ。

全国行くところ、話すところ、先生の大ファンが集まり寄って離さない。よくぞ、まあこんなに集まるものかと、先生の人徳の深さ、学徳の広さを思う訳である。

まほろばの鮪は旨い!

まほろばのマグロは旨いとの評判を戴いたのは、25年前にも遡るだろうか。

或る仲買のマグロの捌(さば)き屋と親しくなって毎朝、本マグロのカマをもらっていた。

でかい頭からの頬(ほほ)肉を、格安で分けて貰って売り捌いていた。

これが、大した評判を呼んで、まほろばの鮪は旨い!と相い成ったのだ。

そのうち、その仲買さんが潰れてしまい、ご縁が切れてしまった。

それから、今日まで養殖なんてトンデモナイ、天然以外は扱わない!で通した甲斐があったのか?何でも皆、上物しか勧めてくれなくなってしまった。

これは、小説に非ず、レシピ本だ

天然物の鯛にしろ、鮭にしろ、真鱈にしろ、何といっても粗が極めつけだ。

白身は上品でも、一部に過ぎない。

骨や鰭(ひれ)や顎(あご)や目玉を混ぜて栄養素が混然一体になった旨味は、それだけで極楽・極楽、地上の恍惚郷なのだ。

その味の醍醐味と値の格安さが、いかにも庶民的で慕わしく、一層親しみが増す。

粗料理のレシピの多彩さは、それはもう小泉先生の今日までの集大成と言わんばかりの満艦飾だ。

これは、小説に非ず、レシピ本だ、と言っても過言ではない。

小泉先生の狙いは、もっと深い

だが、小泉先生の狙いは、もっと深い。

自然は鳥瞰し、歴史は眺望し、人生は大観せねばならない。

食は全体食にある、Whole Foodsこそ、真髄なのだ。

つまり、魚一匹たりとも、余すところがない。

尾ビレ背ビレは動かし続けている上質の筋肉、あの血合いは血の塊、骨はカルシウム、みなミネラルとたんぱく質の宝庫だ。

アイヌの人々は鮭をカムイチェプ(神の魚)と呼び、シペ(本当の食べもの)とする。

捨てる部位は何もない、勿体ない勿体ないのだ。

ルイベからトバ、筋子に白子、メフンに氷頭(ひず)、鰭(ひれ)酒(さけ)に汁もの、塩引きに酢の物、仕舞には靴にもなれば、衣にもなる。

どう転がしても体の益にならない物は一つとてない。

これは、どの魚、どの貝、どの海藻とて、言えることなのだ。

粗屋こそ、食の本筋

故に、粗屋こそ、食の本筋、商いの正道、外食の王者なのだ。

今まで、どうして思いつかなかったのか。どうして開かれなかったのか。不思議でならない。

小泉先生は、何気なく書かれているが、これはこれは、かつて歴史にない、これこそ、世紀の大発見ではないか。

どの国でも、聞いたことがない。日本初、世界初の新商売の店開きなのだ。

これぞこれぞ、と、きっと全国各地、市場のあるところ、粗屋流行(ばやり)で、一郎から始まって、八郎、十郎、百郎、萬郎なんて出てくるんでないカイと、今から心配している。

これからは、粗屋ブームが必ず到来するに違いない。我こそは、元祖、本家と争い事にもなりかねない。

第二の人生、札幌「粗屋」六郎店というのは、どうでしょうか。

実は真面目な食の列島改造論、経済論、環境論

正に、『骨まで愛して』―粗屋五郎の築地物語―』は、実は真面目な食の列島改造論でもある。

そして、食の経済論、環境論にまで踏み込んで、足元から見据えた実のある実践哲学書なのだ。

さらに農業論にまで及ぶや、我が身を照らし、随喜の涙流さずには居られない。アリガタシ!!

「MOTTAINAI」が世界語になった今、由来の地JAPANがやらずして、どこがやる。JAPANESEがやらずして、誰がやる!!

このMOTTAINAIスピリットを世界に発信する、手広く、手堅く、手っ取り早い道こそ、「粗屋開店」にある!!

来年のオリンピック開催、世界の人々に、「粗(あら)の骨髄(こつずい)」を進ぜよう!!!

まほろばでも販売

ここで、このお勧めの大啓蒙書に、ミシュランならぬマホラン星10個を付けたい!!!

無論、勿論、異論なく、まほろばで扱わない訳がない。

『骨まで愛して』、よろしくお求めくださいね!

『骨まで愛して』-粗屋五郎の築地物語-
小泉武夫著 新潮社刊 定価:1,300円+税

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宮下周平

1950年、北海道恵庭市生まれ。札幌南高校卒業後、各地に師を訪ね、求道遍歴を続ける。1983年、札幌に自然食品の店「まほろば」を創業。

自然食品店「まほろば」WEBサイト:http://www.mahoroba-jp.net/

無農薬野菜を栽培する自然農園を持ち、セラミック工房を設け、オーガニックカフェとパンエ房も併設。

世界の権威を驚愕させた浄水器「エリクサー」を開発し、その水から世界初の微生物由来の新凝乳酵素を発見。

産学官共同研究により国際特許を取得する。0-1テストを使って多方面にわたる独自の商品開発を続ける。

現在、余市郡仁木町に居を移し、営農に励む毎日。

著書に『倭詩』『續 倭詩』がある。