腸が元気になると心は安らぐ【ひきこもりと安らぎ】

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磯貝昌寛の正食医学【第92回】ひきこもりが社会の進化を促す

ひきこもりと安らぎ

小田原にある「はじめ塾」を開設された和田重正先生は、「人間の本当の力というものは安らぎの中から生まれる」と云われました。

安らぎとは何かと、立ち止まって考えてしまう現代は、安らぎの喪失した社会といっても決して大げさではないでしょう。

中高年から子どもたちまで、家族以外の人間関係が希薄で家に閉じこもっている「ひきこもり」状態の人たちが全国に100万人以上いると云われ、その中でも40~64才の「ひきこもり」状態の人は61万人と全世代の中でもっとも多いというのです。

この数字が何を意味し、「ひきこもり」はなぜ起こるのか、「安らぎ」という視点を持たなければ、けっして解消されるものではないでしょう。

不安は心身を委縮させ、腸内の絨毛を縮めさせます。腸内の絨毛が委縮すると腸内細菌が減り、活動も低下します。

体内の最大免疫器官である腸の働きが鈍れば、力を発揮したくてもできません。

免疫は異物を排出する力ですから、腸内の働きが落ちると様々な異物を排泄できず体に溜め込んでしまいます。

腸内には脳に次いで多い神経細胞も集まっていますから、腸の活動が低下すれば意欲も減退します。

不安は悪循環の大元締めといえます。

明治維新から日本は、西欧諸国の近代化を目指してひた走ってきました。

1930年代には「膨張する日本」などと云われ、軍事と経済においては特に世界で大躍進を遂げました。

1945年の敗戦からは軍事の面においては相対的に縮小しましたが、経済においては戦前以上に膨張しました。

明治、大正、昭和はある意味において、日本人のエネルギーが拡散した時代でもあったのです。

これは大きく見ると、江戸時代に培われた「安らぎ」のエネルギーが明治、大正、昭和に爆発したのです。

鎖国という陽のエネルギーが明治、大正、昭和で拡散して陰性になったのです。

時代は陰陽そのものです。陰性に拡散してしまったエネルギーを内に溜め込んでいる状態が「ひきこもり」なのです。

江戸時代の鎖国とは随分と形が違いますが、陰陽の目から見れば、100人に1人が「ひきこもる」現代は、ある種の鎖国であるのです。

「ひきこもり」状態の人を無理矢理に社会に出すことはできません。

安らぎのエネルギーが充実してはじめて人は他者との関係を築けます。

母からの絶対的な安心がなくては子どもが成長できないように、ひきこもっている人に大切なことは「安らぎ」なのです。

「安らぎ」のもっとも大きなものは母の手料理です。母の手料理に勝る安らぎはありません。マクロビオティック運動とは母の手料理を次世代につなぐ運動といっても過言ではありません。

もちろん、母の手料理は自然とつながったものでなくては、母も作り続けることはできません。

しかし、40~61才のひきこもっている人たちには、すでに母親が亡くなっていたり、料理を作ることができない母親も少なくないはずです。

そんな人は自らで自らの食を正し、腸をキレイにしていくのです。

私たち日本人は、日本人に合った食事をすることで腸内は安定します。腸が元気になると心は安らぎます。

「安らぎ」を失ってはじめて安らぎの大事を知ることができたのですから、「ひきこもる」ことほど有難いものはありません。

「ひきこもり」はダレのせいでもなく、私たちに訪れた必然なのです。

不安を取り除き心から安らいだ状態になると、人は自然と力を発揮するようになります。それが食であり、愛なのです。

ひきこもりが社会の進化を促す

昨今の凄惨な事件によって日本人の相当な人数に及ぶ「ひきこもり」が焦点になっています。

現実の世界において家族以外の人間関係を築けず、他者との関係をほぼ断絶した状態にある人を「ひきこもり」と定義しているようですが、家族間でも関係性が希薄、あるいは危険な状態にある人も少なくないようです。

日本全体でも「ひきこもり」状態にある人が100万人以上いると云われますから、もはや個人の問題ではなく、社会問題なのです。

私は食養指導をはじめて20年近くなります。その間、一万人近い人たちと交流させていただき気づいたことなのですが、人間関係に悩む人たちに共通しているのは腸に問題がある、ということです。

腸が健全であれば、他者と交流することは喜びであり、決して苦ではないのです。

仮に苦痛を伴う人間関係があったとしても、腸に底力があれば苦労を気づきに変えて人生を歩んでいけるものなのです。

むしろ、苦しみくらいなければ人生おもしろくない、という心境が健全な腸から生まれてくるのです。

人間関係に悩むといっても、悩みは人様々です。

内気で自分の感じていることを伝えられず、他者の言動を誇大に受け取ってしまい、他者に恐怖を感じる人もいれば、他者の言動そのものに怒りを抱き、他者を攻撃したい衝動を感じている人もいます。

前者はその思いが強くなれば自虐性が増し、後者はそれらが助長されれば排他性が強くなります。

陰陽の目で見れば、前者が陰性で後者が陽性です。とはいえ、現代人は両極端な陰陽の絡み合いの面が多分にありますから、前者と後者が絡み合った人も少なくないでしょう。

これらの極陰性と極陽性の大元になっているのが、日々私たちを養ってくれている「食」なのです。

人工甘味料や白砂糖などの甘味料は極陰性な心と体を作ってしまいます。

家畜や養殖から生産された動物性食品が極陽性な心と体を作ってしまうことに私たちは一刻も早く気づかなくてはなりません。

人工甘味料や白砂糖、家畜や養殖の動物性食品はどれも不自然な食です。

不自然から作られる私たちの心と体は、やはり同じように、心と体に不自然さを感じ、生きているのか死んでいるのかわからないような心境と生き方が生まれてくるのです。

自然な食で養われた私たちであったなら、生きることそのものがなんて素晴らしいのだろうという心境になって、どんなことでも「ありがたい」という心持ちで日々の生活を送れるのです。

大きな視点で社会をぐるりと見渡すと、「ひきこもり」というのは乱れた食が普通になった社会への変革変容を促す大自然からの警鐘といえます。

そう考えると、ひきこもっている人たちは堂々とひきこもっていたらいいのです。むしろ、堂々とひきこもっていなくてはなりません。ただひたすらに、自然な食生活をしてひきこもるのです。

しかし悲しいかな、自然な食を手に入れるのがあまりに難しく、不自然な食が一般になった現代では、堂々とひきこもることができなくなってしまいました。

ですから、ひきこもっている人は自然な農業と自然な生き方を求めて生きていく必要があります。

「ひきこもり」問題は自然な農業と自然な食を中心とした社会へ進化しなくては解決されるものではありません。

私たちの腸は自然な食からしか、本来の働きをしないのです。ただ自然に生きること、その重要性に気づかせてくれているのが今の「ひきこもり」問題なのです。

月刊マクロビオティック 2019年8月号より

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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)

1976年群馬県生まれ。

15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。

食養相談と食養講義に活躍。

マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。