磯貝昌寛の正食医学【第103回】感染症の原因と断食
感染症の歴史と陰陽
中国・武漢からはじまった新型コロナウイルスによる感染症は瞬く間に世界に広がったようです。
私の身の回りではコロナウイルスに罹ったと診断された人がいないので、どうしても実体感を伴わない感染症のイメージがあります。
しかし、感染症の世界史を勉強してみると、世界的な大流行は数年に渡って持続することは珍しいことではないようですから、現代の新型コロナウイルスにおいても今の状況が始まりであれば、まだ油断できる状況にないようです。
「感染症の世界史」( 角川文庫・石弘之著)によると、感染症の世界的な流行は、これまで30~40年ぐらいの周期で発生してきたといいます。
今回の新型コロナウイルスの世界的流行の以前は、1968年の「香港かぜ」のようですから、すでに50年以上経過していたわけです。
ですから、いつ起こってもおかしくなかったのです。さらに、先進国を中心に現代人の身体は免疫力が相当低下していますから、深刻な世界的大流行(パンデミック)になる可能性は高かったのです。
とはいえ、私たちはウイルスと共存してきたわけですから、新型コロナウイルスという未知のウイルスであっても、必ず共存できるのです。
私たちは、過去に繰り返されてきた感染症の大流行から生き残った、「免疫力の高かった先祖」の子孫です。
一方、感染症の原因となるウイルスや細菌も、40億年前から途切れることなく続いてきた「生命力の高い先祖」の子孫ということになります。
私たち人間とウイルスや細菌は、共に幾多の試練を乗り越えてきた、宿命のライバルという関係にもなるのです。
ウイルスや細菌にとって私たち人間の体内は温度が一定で、栄養分も豊富な恵まれた環境です。
ウイルスや細菌にとっても人間が健康で長生きすることは、自分たちも長く生存することができるわけですから、平時においては共存関係を長く続けることが、お互いにとってよりよい選択になります。
では何故、ウイルスや細菌の勢力が人間の生命力を凌駕してしまうようなことが起こるのでしょうか?
私たちは、ウイルスや細菌が体内で増殖すると発熱、咳、痰、関節炎などの症状を表出させます。
それはウイルスや細菌が体の中の老廃物・毒素を中和・浄化しようとする反応でもあります。
ウイルスや細菌にとっても、私たちの身体の老廃物や毒素は栄養素を吸収するのに邪魔な存在なのです。
私たちの体の中の老廃物・毒素が少なければ、ウイルスや細菌は善玉的な働きをしますが、その量が増えてくると悪玉的な働きに変化するのです。
石弘之は「ウイルスや細菌が人間の細胞を攻撃する感染症が大流行するようになったのは、肉食の普及が大きな原因になっている」といいます。
鶏や豚や牛などの食肉の大量生産は家畜の病気が人間に飛び移る機会を格段に増やしました。
そして、都市への人口集中は、集団感染を引き起こす過密化が常態化しています。
肉食によって異常なウイルスや細菌が繁殖しやすい血液が造られ、都市による過密化で感染症が蔓延するようになったのです。
陰陽無双原理でみると、肉食は私たちの体と頭を陽性化させます。過剰な密集を好み、行き過ぎた効率主義に陥ってしまうのも、過ぎた肉食に大きな原因があるのです。
感染症と鉄分と断食
石弘之は著書の中でこう述べています。
「鉄分が不足すると貧血になることはよく知られているが、感染症にかかると血清中の鉄が減少することがある。
人にとって鉄が必須栄養素であるのと同様に、細菌の増殖にも鉄が欠かせない。
人が貧血を覚悟で血清中の鉄分を減らすのは、細菌の糧道(食料を送る道)を断つ防御策と考えられる。
米国ミネソタ大学の研究者が行った30年前の古い研究だが、鉄分の欠乏状態にあるソマリアの遊牧民138人に対して、67人にはプラセボ(偽薬)を、71人には鉄剤を与えた実験がある。
その結果、プラセボ群では7人しか感染症の発生がなかったのに、鉄剤投与群では実に36人がマラリアや結核などにかかった」
血液中の鉄分は私たちの必須栄養素でなくてはならない大事なものではあるのですが、酸化もしやすく、過ぎると危うい面を持っているものでもあるのです。
妊娠中は特に鉄分不足に注意しなくてはなりませんが、鉄分が多すぎても出産時に出血が多い、ということもあります。
もちろん、少なすぎては胎児が育ちにくく危険も大きいのですが、鉄分もほどほどが大事なのです。
断食をすると一時的に鉄分が減る傾向にあります。
10日以内の断食であれば、赤血球はほとんど減少しないのですが、鉄分だけは減少傾向にあるのです。
20年近く前に、私の兄弟子( 大森英桜先生の門下生の一人)にあたる鈴木英鷹先生(精神科医)が私たちの行っていた半断食の合宿で、断食前と後に血液を調査して分かったのです。
この時の調査は、血液だけでなく、様々な身体的ストレス、精神的ストレスが断食前と後でどのように変化したかなども測られました。
いつかこの調査結果も公表したいと思っています。
断食によって一時的に鉄分が減少するのは、先に触れた研究と同様、細菌の糧道を断つ防御策ではないかと私は考えています。
現代の病気の多くは生活習慣病ですが、近現代以前では、命に関わる一番大きな病気が感染症であったようです。
人類の歴史の中で、すべての宗教や文明で受け継がれているのが断食です。
それは、とりもなおさず命の継承にはなくてはならないものが断食であったのです。
感染症が蔓延してきたら、急場的にも断食は必要でしょう。しかし、それよりももっと大事なのは「習慣的な断食」ではないかと思います。
年に数回でも断食の習慣をつけておくと、いざ感染症が蔓延した時にも取り組みやすいものです。
イスラム教のラマダン( 断食月)も定期的に行っているのは、そういう意味もあるのではないでしょうか。
断食をすると一時的に鉄分は減少しますが、その後の回復食を経て普通の食事に戻っていくと、すぐに鉄分は回復してきます。
むしろ、腸の状態がよくなり、消化吸収力が改善して造血力が高まります。
貧血気味だった人は、鉄分が増えて貧血が改善していくのです。
一時的であっても鉄分を減らすことは、病原菌の繁殖を抑えるのに大きな効果があるようです。
細菌の世代交代は非常に早く、大腸菌は条件さえよければ20分に1回分裂するようですから、数日間であっても鉄分不足であれば、大腸菌にとってはものすごいダメージになるのです。
断食を経験する多くの人が、食を断つことによって、様々な症状(これを私たちは排毒反応と言っています)を経験します。
この症状こそが実は私たちが進化してくる中で獲得したものなのです。
月刊マクロビオティック 2020年7月号より
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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)
1976年群馬県生まれ。
15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。
食養相談と食養講義に活躍。
「マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。