【覚悟】KAKUGO

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札幌の自然食品店「まほろば」主人 宮下周平 連載コラム

今冬の連日に降り続いた雪害。

除雪の難儀に加えて、管理小屋の倒壊。越冬ハウスの始動。そして新ハウス建設と、今年の春は、例年になく慌ただしい。

それにも増して、世界はコロナが変奏して異様な動きである。変異株や緊急事態宣言、それに皇室問題。

世界情勢も激動して、日本の舵取りも危うく、このままではとんでもない方向に誘導されかねない昨今である。

何百年に一度の国難と言われるが、正に、その通りである。

余りにも一切合切が、逆方向に進んでいる。

そんな中、農作業だけが、人を正気に戻してくれる唯一の行為であると確信する。苗造り、種下ろしも佳境、ここ一週間で、畑も急に緑付いて来た。

援農部隊も、4月から開始。来て戴く度に、作業の遅れを取り戻せることに、感謝しても、し尽せない。

1、穂積・農園応援団長

この世は、引き寄せの法則で成り立っているらしい。

その経緯は、どうであれ、穂積豊仁君が農園にやって来た、という事実。これに、浅からぬ縁を、改めて感じた。

彼は弟橘媛(おとたちばなひめ)の子孫で、倭建命(やまとたけるのみこと)の「まほろば」に惹かれてやって来たのだ。
 
ニセコでスノボー一途の若者が、どういう訳か、小別沢の農園を訊ねて、毎日ニセコから援農に通う日々。ついには、ハウスの中にテントを張って泊まりながら、農業に打ち込んだ。

そうして、農園社員になること3年。その働きぶりに白羽の矢が立って、渡辺匠君が抜けた厚別店店長の穴を、何の経験もなしに塞いでもらった。

無謀とはいえ、その当時彼しかいなかった。その後、黙々と任務を果たすこと10年。

よくぞ、独りで厚別店を切り盛りしてくれた。みんなから愛され慕われた存在になってくれた。

しかし、この時代の大転換期に、大橋社長が彼を、仁木に出向させてくれた。社長も島田専務も、穂積君も、私たちの為さんとする思いを深く理解してくれることに、尋常ではない縁故を感ずる。

社長の常套句だが「誰でもできることは人に任せて、会長・顧問にしかできないことをやって下さい」と、例えば著作や講演や物造りなどなど。「その代わり、ちゃんと仕事してくださいよ」と釘を刺されたのである(笑)。

そんな彼の働きぶりは、目を瞠(みは)るものがある。さすが独りで厚別店を黙々と維持してきただけの事はあると思った。

彼のスリムな体型には、無駄がない。ということは、無駄な動きがないということだ。確かに切れが良いというか、エッジが効いていて、動きがシャープである。

おそらくスノボで鍛えた体幹とアスリートのバランス感覚に優れているのだろう。これは、頭頂葉の閃(ひらめ)きが、即運動領野に伝わる前頭葉等の分別思考を介しない善行の脳回路で、弟橘媛の入水(じゅすい)の行為がそれである。迷いが無い。

日本人独特の無私の行いが日常で鍛えられるのだ。多分に農業経験と店長経験有るゆえ、手際の良さや集中力は抜群で、一を聞いて十を知るほど、何でも言う事はこなしてくれる得難い存在なのだ。チト褒(ほ)め過ぎかな(笑)。

確かに、自分を言えば、農繁期になるとほとんどが農作業モードになって、他のことに手が付けられない状態なのだ。

せいぜい長年慣習のたよりの原稿だけは、2,3日の離れ業で書いているが、他はままならない。

ELIXIRⅢのこと、鍋や新商品のこと、記事のこと、まほろばのこれからのことごと、すべきこと、やりたいこと山積している。

そこに彼が参戦し、どれほどのことが出来、成果を生むか、甚だ試金石なのだ、これからが。仕事が楽になるからと言って、却って追い込まれそうである。

そんな会社から送り込まれた刺客、隠密に監視せられて、どれほどのことが出来るか、只々頑張るしかない。余生を静かに送るはずが、社長の術策に乗せられて、とんでもない喧騒な前途になりそうである。(笑)

兎に角、農業大好きな穂積君やベテラン高田さん、そして援農の皆さんと共に、この農園をさらに盛り上げて、みんなが集う楽しい遊び場、憩いの園、祈りのスペース、万物を育む庭にしたいものだ。

彼の益々の健闘を祈りたい。

2、菊芋のこと

昨秋、菊芋が背丈のノビノビとした凛とした黄色の花を長く咲かせた記憶も新しい。

ところが、掘る段階になって、実がブヨブヨで、「やはり、植え付けが遅かったか!」と悔やまれ、そのままにして越冬することに。

そして今春、極めて期待薄で掘り始めたら、その成っていること成っている事、そこいらじゅうにビッシリ繁茂するのには感動してしまった。見事な成りというしかない。

野生の菊芋が農園の周りに、これも隙間なく自生しているのだが、掘ってみると一茎に小さい塊茎が一個しか成っておらず、ガッカリする。

それに比し、この栽培物とはこんなに違うものかと思い、しかも苦労する他の作物と比べ、簡単に出来るなら、今年はたくさん植えようと思った次第。

試しに植えた100m。肥料も要らず、放擲で出来る手間のかからない孝行な子である。

そして、更に驚いたのが、その美味しさ。菊芋は正直、余り美味と思ったことが無い。

それに塩茹でで、煮詰まるまで置くと、飴色に光って、その甘い事、旨い事、言うに言われない蕩(とろ)けるような美味しさに絶叫したのです。

「これは、行ける!!」と確信を持った。サツマイモのように焼き芋にすると、これまた絶品の別人格で、大好評!!

さすが、江戸末期に家畜の飼料として北米原産の「豚いも」と言われることだけのことはある。豚は旨いのだ(?)

キク科ヒマワリ属というから菊の黄色い、ヒマワリのように夏場明るい太陽のような華である。

アーティチョークと言えば、グルメ食材で中々市中に出回らない高嶺の花である。

ところが、その名前が冠せられたエルサレムアーティチョーク(Jerusalem artichoke)という、いかにもイエスを彷彿とさせる神秘的な名が米国では付けられている。

ちなみに佛国ではトピナンブール(topinambur)と、イタリア移民が「ひまわり」と呼ぶことから由来。

入手した種芋が、フランス菊芋という、紫がかった芋だった。スゴイ繁殖力である。

ところが環境省から在来種を競合駆逐する恐れのある要注意外来生物だと知らされたのは、歳明けた最近の事だった。

白い在来種の芋の味もいいが、繁殖力もスゴイが、これから駆逐されるとなると只事ではない。今更、どうしよう!?

しかし、その主成分のイヌリンが、在来種に比し3倍もあり、収量も多い。加えて紫色のポリフェノールの抗酸化力だ。

しかも芋特有のデンプン質、糖質が無いのには驚いた。水溶性の植物繊維と蛋白質、ミネラルで、血糖値・血圧上昇やメタボ対策の「天然のインスリン」の決め言葉には、一コロである。

いわゆる善玉菌のエサで、誰もが飛びつきそうだ。言うことなし! 味は、好みの分かれるところだが、白芋の最初に口にした感動は忘れられない。

何故、今「菊芋ブーム」かといえば、この含有する天然の「イヌリン」のせいである。

殊に今流行りの糖尿病には、絶対の卓効があるため、燎原の火の如く国内生産に火が付いた。

ある大手外食チェーンの代表がこの持病で悩まれていたが、菊芋で跳躍的に回復したのに志して、縁ある全国農家に発令。

菊芋栽培を奨励して、何万トンを買い入れることになったとか。それほどの魅惑品なのだ。

今健康食品として珍重されているが、キットじゃが芋のように、常食される日も近いだろう。各地でも、特産物化に拍車をかけている。

収穫は、11、12月であるが、断然3、4月の春掘りにうまさの軍配が挙がる。仕事がさほどないこの時の収穫は助かるのだ。

それともう一つ。加工品に優れていること、多いことだ。

① 生食 サラダ、きんぴら、
② チップ カリッとオリーブ、インカインチ、しそオイル油で揚げて。
③ 健康食品 パウダーにして年中物。スープやみそ汁にも。
④ お茶 乾燥させて常飲すれば、中性脂肪もバッチシ。
⑤ 漬物 サクサクした歯ごたえに、奈良漬けは最高。酒粕に醤油粕で漬けてみては。
⑥ 甘露煮 一二三糖の甘露煮、これが一番美味しい。腸内微生物大喜び。

まほろばでも、商品化を試みてみようと相成った次第。只今、生芋販売中?

3、「子供と素人の潜在能力」と「集団力の奇跡」

今日の援農メンバーを聞くと、二組の親子連れで小学生3人の女の子と、女性が4人ということ。みな農作業初めての方らしい。

先ず、芋掘りで、農業の楽しさを知ってもらいたいと「菊芋」掘りを頼んだ。100mの内、せいぜい10m進めるかな?と予測。

ところが、あにはからんや、帰りの時間までに残すところわずかばかりにして、ほとんど掘り尽くしたのには、いささかビックリ仰天。

天真爛漫な子供たちは嬉しそうに楽しそうにキャッキャと手伝っている。およそ250㎏も掘って下さった。

この時、子供の力、素人の力、その潜在能力の不可思議を思った。

次の援農の日、今度は十名以上の手慣れたメンバーが集まった。何年来のベテランたちに、先日の小学生の可愛い姉妹も加わって。

前日、ようやくマルチを張った所に、隣のイチゴのランナーを移植すべく作業をお願いした。

相当面倒な作業で、これは一日仕事だなー、と思いきや、何と午前中に完了。

これにも驚きであったが、次のじゃが芋の種植には、更に能力を発揮した。天日に干して催芽した種芋数種。

それを植えるのだが、これも中々のもの。畑の計測から段取り、手分け、手順、一通り伝えれば、水を得た魚のように以心伝心、忽ちのうちに要領よく、皆ホイホイと楽しそうに連係プレー。

その様子は、楽しくもあり、また何かに取り憑かれたようでもある。憑依という怪しげな言葉があるが、そんな言葉が使いたくなるほどの集団による結束力・集中力を見せてもらった。

用意した種芋が、図らずもピッタリすべて収まったのにもいたく感心した。作業も帰る時限までに終えた。

この神懸かり的な仕事の流れの心地よさ、見事さ、美しさは、別格な感動であった。

良きことは、何事もピタピタと嵌(はま)るリズムというかハーモニーがあって、調和されて動く。

この時、余生幾ばくも無いわが命を見つめて、これもまた何百年来の比類なき国難を迎え、暗澹たる気持ちになる。が、この想像をはるかに絶する人の動き、潜在能力や集団能力というものが働けば、この難局を超えられるのではないか、と一縷の希望の光をも感じたのだった。

絶望の前途に火を灯すようなその一日に、要は決意一つでどうにでもなることを知った。

独りの力や想像力は小さいが、それが一塊になるととんでもない力と化す。日本にはそんな歴史力、人材力が潜んでいる、隠れている。

それが何かの切っ掛けで爆発すれば、世を変えるような働きとなる。如何なる困難が前途に立ち塞がるとも、みんなで団結すれば、突破するだけの力が発揮できる。

要は、みんなの祈り、思い、行為、意思の力だと思わずにはいられない。

「覚悟」である。決死の覚悟である。

この泥沼の世を変えるには、清らかで透き通る鋭い心の剣先、伝家の宝刀「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」が要るのだ。そんな希望の一日を与えて下さった天に、感謝したい。

4、新管理小屋

この一月中旬の朝。大雪で管理ハウスが倒壊。

初めて、雪害の恐ろしさに遭遇した。茫然として立ち尽くす以外になかった。

厳凍の霜で土が上がり、ハウスの戸が開かず。ようやく開けて中のトラクターを外に出したものの、今度は車が動かず。放置したのが幸いしたのか、壊れずに済んだ。だがダンプをダメにした。

再建を春4月まで待たねばならぬも、今度は古典的な木造建築を選択した。

盤渓と言えば、開拓者の我満さんは、札幌森林組合長でもあり、何事に山野にも詳しい。

先回、合掌造りで納屋を作って戴いたが、今回も棟続きで建て増しするより他なかった。

今年の大雪、最新の骨太ハウスは倒壊するも、築78年の古民家は2mの雪をも支え続けた。その訳は、構造躯体に在った。

今では、何処にでも見られない工法でトラス構造という。

トラスとは、三角形の事。

四角形は力がかかると菱形に変形して元に戻らないが、三角形は変形しない。ピラミッドは、最も強い三角形の集合体。

まほろばの納屋は、キングボストトラス(真束トラス)と言われる合掌造り。岐阜白川郷の合掌造りが有名ですね。

昔の小中学校の体育館が、隅合掌と日本独自の対角に架ける立体三次元トラス構造。

倒壊した管理ハウスには横軸・縦軸の弦材・束材がなく引っ張りが効かなかった為、上からの積雪の圧力に耐えられなくなり、強度を誇る交差させただけの八角パイプも脆くも歪んで落下した訳です。

何故、メーカー・業者が基本構造力学を計算設計できなかったのか。

世界中の木造建築で、1300年以上も前の寺社が現存する国など他にない。

日本建築は、水平耐力(屋根と床)を重んじ、西洋は壁強度を重んじる真反対構造です。倒壊するのは、縦横の揺ればかりでなく、ねじれで回転するためです。

断面を必要としない軸力を応用した寺社は、壁で塞がれていませんが民家など200年以上持ちます。

しかも、広い空間を共有でき、柱も要らない。

しかし、昔のような梁柱に使う、太材巨木がなくなってしまった。現代は、規格木材の小径断面ばかりだが、その繋ぎ合わせで最強度が可能な木造軸組みの伝統工法なのです。

ですから、意外と安価で建つのです。ただそれを知る大工さんが少なくなりました。

日本建築の基本は、太い大きな梁にこのトラスが載って加重する「力のバランス」で立つ耐久性の強い骨太の建築法なのです。

安く、薄い細い板材で、補強材なしに建てられる「木造軸組みトラス」工法。

日本の厳しい四季の変化に耐え、風土に合う健全な建物がここに再現されたのです。

大きな損失で高い授業料でしたが、古き良き日本の伝統技術を見直すきっかけとなりました。

大工さんも我満さんの隣に住む佐々木さん。彼は若い頃、札幌時計台をたった2人で再建改修工事した腕の持ち主。

独りは今里さん、天理教の神主さんでもある。請負の昔ながらの大工仕事に子供の頃の家普請(やぶしん)の風景を懐かしむ今日この頃である。

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宮下周平

1950年、北海道恵庭市生まれ。札幌南高校卒業後、各地に師を訪ね、求道遍歴を続ける。1983年、札幌に自然食品の店「まほろば」を創業。

自然食品店「まほろば」WEBサイト:http://www.mahoroba-jp.net/

無農薬野菜を栽培する自然農園を持ち、セラミック工房を設け、オーガニックカフェとパンエ房も併設。

世界の権威を驚愕させた浄水器「エリクサー」を開発し、その水から世界初の微生物由来の新凝乳酵素を発見。

産学官共同研究により国際特許を取得する。0-1テストを使って多方面にわたる独自の商品開発を続ける。

現在、余市郡仁木町に居を移し、営農に励む毎日。

著書に『倭詩』『續 倭詩』がある。