磯貝昌寛の正食医学【第68回】過食症
際限のない食欲
動物( 人間を含む)の食欲は本来、食べ過ぎるということはありません。
自然な生き方をしている限り、動物は食べ過ぎることはないのです。
日の出とともに小鳥のさえずりで目を覚まし、日の入り後、そう遅くない時間に眠りにつきます。
自らの動きで食物を得て、自ら調理してはじめて食事になります。
電気やガス、自動車、電車、パソコン、スマホなど、文明の利器とは無縁な生活をしていたならば、過食になることはありえないでしょう。
とはいえ、今の世では、完全な自然生活を実現するのは難しいことです。
完全な自然生活を目指したら、この誌面も読むことはできません( 笑)。
現代が縄文時代に帰ることはできません。しかし、縄文の精神を尊重した生き方はできます。
文明の利器と適度な距離を置いた生活が、現代生活の自然性を重視した生き方でしょう。
過食症もまた、他の病気と同じように、人間の自然性の喪失を警鐘しているのです。
白砂糖や人工甘味料、精製塩、脂肪、この3つが抱き合わさった食品は「食欲強化食品」といって、食べ出したら止まらない性質があります。
テレビのコマーシャルで「やめられない、とまらない、○○の○○○」という、ある食品(スナック菓子)の宣伝がありますが、あの食品も人工的な糖分、塩分、脂肪分が抱き合った食品です。
自然性を喪失した食品は、どれだけ食べても満足しない、そういった性質を持っています。
これは、自然から乖離した生活では、人間の本来の欲求を満たすことができないということを物語っています。
食欲と性
脳の中の食欲中枢には、摂食中枢と満腹中枢があります。
摂食中枢が刺激されると食欲が促進され、満腹中枢が刺激されると食欲が落ち着きます。
女性の場合、満腹中枢がある場所に性欲中枢もあり、性的に満たされていると食欲も落ち着いているということが多々あるといわれます。
一方、男性は摂食中枢と性欲中枢が同じ場所にあるため、適度な飢餓感がないと正常な性欲が湧いてきません。
過食症、拒食症などの摂食障害は、女性が圧倒的に多いといわれます。
私も摂食障害の食養相談は女性しか受けたことはありません。
性の脳と食の脳が密接に関係しているのですが、摂食障害の女性たちが皆、性的に問題を持っているかというと、それは全てではありません。
むしろ、異性との問題よりも、親子関係の問題に端を発していることの方が多いと感じています。
人間の根源的な欲求は、食欲、性欲、睡眠欲、排泄欲の4つです。これらの欲求が正常に働かなければ、生物は生きていくことができません。
性欲は異性への性的欲求だけでなく、人間関係を充実させたいという、別名「群れる欲」に繋がっています。
友人関係や親子関係で満足し過ぎていると、異性への興味が低いことが多々あるのは、性欲中枢が「群れる欲」の中枢であるからです。
逆に、親子関係で過度なストレスがあると、異常性欲を発症したり、性欲中枢を満腹中枢からのみ刺激しようとして過食症になったりするのです。
人間の根源的な脳を発達させるのは、胎児期、幼少期、少年期の食と生活です。
思春期頃までの食と生活が生涯にわたっての食欲や性欲などの生物としての根源的な欲求に深く関わっています。
食と生活
自然な食と生活では、決して過度な貪りの欲求は出てきません。
過食症の人は多くの場合、一人でいる夜に過食をしてしまうことが多いといいます。夜になって暗くなると副交感神経が働いてきます。
暗くならないと副交感神経は働いてこないのです。食べることは副交感神経を働かせる、もっとも簡単なことです。
夜になっても明るい生活をしていては、過食症は治りません。
夜になったら、夜らしく、電気を過度に使わずに早く寝ることです。
肉食もまた、交感神経を過度に刺激し、本来夜になったら静まる交感神経を夜中であっても動かし続けます。
過食症に内在しているのが長年の動物食の影響です。
過食が起こるのは夜、部屋で一人でテレビを見ている時、というのが非常に多いです。
一人暮らし、というのも不自然な生活の代表です。自然界では一人暮らしは生命の危機に接しています。
洋の東西を問わず人間は集団で生活してきました。一人暮らしは生命の歴史上、画期的な出来事で、まだその生活様態に人間の脳は追いついていません。
本来の食欲
マクロビオティックは、世界各地の伝統的な生活法が基本にあります。
日本であれば日本の伝統的な生活を大事にすることです。
椅子の生活よりも正坐や胡坐の生活の方が血流が良くなって、高血圧や静脈瘤、脳梗塞や認知症など、高齢になると発症しやすい疾病の大半を防ぐことができます。
畳の上で静かに正坐をしていたら、過食の欲求はケッシテ湧いてきません。
現代の生活は、伝統的な生活が人間の心と体を育むものであったということを教えてくれています。
現代の生活を体験しなければ、伝統生活のよさに気づけなかったという点を考えると、とても有り難いことです。
食もまた同じです。間違った食を体験して初めて、本来の食の有り難さを感じることができます。
病を得て、健康の有り難さを知ります。過食症もまた、本来の食欲を知るのに欠かせないものであったのです。
人間本来の生き方は、過食や拒食にならず、あらゆる病気を発症させません。
過食を含め、病は人間の本来の生活に戻ることを警鐘しています。
月刊マクロビオティック 2017年08月号より
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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)
1976年群馬県生まれ。
15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。
食養相談と食養講義に活躍。
「マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。