桜沢如一のコトバに学ぶ 最終回
生涯、学究の徒たれ
嘉納は自分の最高弟の一人、望月稔を植芝盛平の合気道場に派遣した。
植芝は日本武道界最高の師範の一人というよりも、ずばり、彼こそ最後の大巨匠である。ここでよく考えなくてはいけない。
七十歳になる嘉納のような大巨匠が、自分より優れたものを学ぼうとするこの態度だ。これが最も大事な点だ。
この柔軟な考え方こそ柔道原理の特長である。そして、これこそ古い「サムライ日本」の柔術のあらゆる流儀を統一した伝統精神である。
植芝は既に七十歳をとうに越した自由人である。
「道の原理」
概して、功成り名を遂げた人は自分のスタイルを壊すことを怖がり、守りに入りがちだ。
老大家となれば尚更で時に独善排他的な老害を生む。
しかし、超一流の人物というものは無固定前進の学徒を生涯貫くようだ。
天台宗の開祖・最澄が7歳年下の空海に対して辞を低くして、真言密教の教えを謙虚に求めたように、柔道の始祖・嘉納治五郎も一生驕ることなく、合気道の創始者・植芝盛平にも学ぶ姿勢をみせた。
アメリカ留学中、私は世界42ヵ国語に翻訳され、5000万冊販売されたという超ベストセラー「スポック博士の育児書」の著者として知られるアメリカの小児科医ベンジャミン・スポック博士にインタビューするという千載一遇の機会を得た。
彼は88歳の時、重い気管支炎にかかったことがきっかけでマクロビオティックと出会った。
東洋医学の陰陽や経絡といった概念は、西洋医学で学んできた生理学や解剖学とはあまりにもかけ離れた見方で戸惑いもあったが、マクロの食事をすることで完治した。
そして、久司道夫氏より「死んだ後に恥になるから著書を書き直しなさい」と忠告される。
こともあろうに、小国日本の一食養家がアメリカ医学界の大権威に物申したのであった。
果たして、聡慧なるスポック博士はその後「育児書」の内容を、乳製品、肉、その他の飽和脂肪酸を多く含む食事を遠ざけ、全粒粉の穀物と野菜を摂るように書き換える。
残念ながら邦訳版は今だ古いまま。博士も草葉の陰で最新版発行を願っているに違いない。
月刊マクロビオティック 2017年12月号より
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はたの たけし
1962年熊本県生まれ。
一般社団法人TAO塾代表理事・熊本大学特別講師。
修士論文のテーマは「食の構造的暴力と身土不二の平和論」。鍼灸学生時代、日本CI協会、正食協会にてマクロビオティックを学び、93年KushiInstitute勤務。
著書に「医食農同源の論理―ひとつらなりのいのち」「自遊人の羅針盤」など。