転地療法と断食

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磯貝昌寛の正食医学【第120回】食養指導録 運命を開く断食

転地療法と断食

人間は関係性の中で自分の役割を自分で規定しているところがあるように感じます。

あるグループに属していると、いつしかそのグループの一員として特定の動きが定着して、知らず知らずのうちに、自分を縛っていることが少なくないのではないでしょうか。

Aの学校に通っていた時はどうもパッとしなかった生徒が、Bの学校へ転校した途端に人が変わったように生き生きとすることがあります。

もちろん、その逆もあるのですが、人との関係性を変えてみたり、環境を変えることで、新しい何かが生まれることは興味深いことです。

病気療養のひとつに転地療法というものがあります。

気候風土の異なるところへ移ることで病気が軽減されてきた例が多数あったために、転地療法という言葉が生まれたのでしょう。

土地の持っている空気やエネルギー、水が変わることで私たちの体は大いに変化するものです。

植物でも同じようなことがよくあります。

苗床から植え替える植物は枚挙にいとまがありません。

稲などもそうで、田植えは苗を苗床から田んぼに移すのですが、この変化によって生長が促されるのです。

これは植物と土や水、空気などの関係性が変わることが植物の生長にとってよい働きをしているという経験の蓄積から定着したのでしょう。

人間の歴史でも、人間は旅という習慣を長く持ち続けているのは面白い事実です。

人間と環境の関係性を変化させることが、生命力を活性化させるという経験の蓄積から旅が定着したと思うのです。

現代において食養を始めるということは、人間と食物の関係性を変化させる、ある意味においての転地療法という側面も多分にあるのです。

今までに私たちの胃腸に入ってきた食物が変化するわけですから、胃腸の粘膜や胃腸に棲みつく微生物( 腸内細菌など)にとっては大きな変化なのです。

さらに断食はほとんどの食物が入ってこないわけですから、私たちの細胞そのものの関係性まで変化せざるをえない状況になるということも想像に難くありません。

個性というものは、関係性の中で形作られていると思うのです。

個性だけでなく、体質や気質、病気に至るまで、私たちの命そのものが関係性の中で成り立っているのです。

この自分というものを変化させようとするならば、この関係性を変化させることが大切です。

自分と食物、自分と自然環境、自分と人間関係、これらを勇気を持って変えていくのです。

一番手っ取り早いのが食物を変えることです。

断食は劇的変化が期待できる大きな一歩になります。

自然環境を変える転地療法も、比較的安易に、それも楽しみながら関係性を変化させることができます。

ただ、先にも触れましたが、逆もあります。逆効果になることもあるのです。

もしそうなってしまったら、また違う方法を試みたらいいのです。

失敗なくして成功無し。私も食養指導を20年以上してきた中で、たくさんの失敗をしたり、見たりしてきました。

自分で言うのも僭越ですが、失敗しないアドバイスをすることがすっかり上手になりました。

しかし、本当に理解するということは、やはり失敗してみないとなかなかわかるものではないのです。

ですから、恐れずに転地療法を試みたらいいのです。

転地療法をしていくうちに、天地の繋がりを体で感じられるようになります。転地療法が天地療法になっていくのです。

断食と祈り

「自然治癒力を高めるマクロビオティック実践編 運命を開く断食」より

「キリスト教でも断食の効果で断食後に希望が叶う、というようなことをいわれます。これについてはどのように思われますか」と、ある講演会で参加者から尋ねられました。

断食や半断食は、病気を治すということだけでなく、精神状態を改善したり、希望を叶える大きな力をもたらすと確信しています。

しかし、その希望や願望が自然の流れに沿っているかどうかということが問題なのです。

健康とは、体と心が自然と調和している状態をいいます。

逆に病気は、体と心の不調和を改善に向かわそうとして現れる反応です。

断食や半断食で健康を回復するということは、断食や半断食が自然と体が調和する速度をはやめ、力を高めてくれるからなのです。

本来自然と一体である人間は、自然に沿った希望や願望を抱くものです。

断食後に希望が叶うというのは、断食によって心身ともに健康で頑強になって、希望や願望を実現する体力、能力、気力が目覚める、ということもあるでしょう。

しかしそれ以上に、希望や願望が自然に則してくるということが大きいのです。

無理とは、理が無いと書くように、無理な希望や願望を抱かなくなるのです。

理とは宇宙の法則・秩序であり、簡単にいえば自然そのものです。

例えば、憎しみを抱く相手がいて、その憎い相手を呪う願望を抱いていたとします。

そういう人が断食や半断食を実行してその願望が叶うかといえば、答えはノー。

断食や半断食を実行すれば、憎しみを抱いていた自分自身を反省し、相手に対して「自分の方にも悪い所があったなあ」という気持ちを喚起させるのです。

そういう意味において断食と祈りは全く同じ行為ではないでしょうか。

断食そのものが祈りであると思うのです。

自然と一体となることが希望や願望が叶う大きな理由であり、悩みを解消する力にもなります。

断食が自然と一体となることへの大きな一歩になると強く思うのです。

( 中略)

心身が調和すれば、想い描くことはどんなことでも実現化します。実現化しないことはひとつもありません。そんな想いで断食や半断食に取り組む必要はありませんが、日々のマクロビオティックと時々の半断食を習慣化すれば、自然と想いは実現します。

月刊マクロビオティック 2021年12月号より

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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)

1976年群馬県生まれ。

15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。

食養相談と食養講義に活躍。

マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。