磯貝昌寛の正食医学【第128回】食養指導録 生命力を高める生活法
つどいあう
私の道場( 和道)では毎春、子どもを中心とした合宿を開催しています。
子どもと大人がマクロビオティック( 食養)を通して生きることの本質を学び、体験する合宿です。
昨年まではコロナの騒ぎで2年間休んでいたのですが、今年の春は3年ぶりに開催しました。今年はゲスト講師に吉度 ちはるさんと小澤はるみさんという姉妹を招いてのこども合宿になりました。
吉度さんは野草と食養に精通している方で、千葉の鴨川を拠点に野草と食養の魅力を全国各地で伝えています。
小澤さんは吉度さんのお姉さんで言霊の研究に造詣が深く、日本にある伝統的な言霊を現代に再興しようと活動しています。
こども合宿では、子どもたちが多様な大人たちと触れ合うことも大きな目的になっています。
生命力を高めることを「なりわい・生きがい」にしている人たちに触れるということはかけがえのない体験です。
人はひとりでは生きられません。人間は家族や集団を作って生きる動物です。
それは世界各国、各民族に共通することです。
集団生活の中から心身が育まれ、鍛えられてきました。人間の脳は集団生活の中で満足感と充足感を得られるようになっているようです。
人は人間同士、一緒に生活をすることで心が満たされ、自分の力を発揮することができます。
ホモサピエンスとネアンデルタール人を比較研究した調査で興味深い研究があります。
ホモサピエンスとネアンデルタール人は、体形や脳の構造などともに同じような人種でありながら、ネアンデルタール人は絶滅し、ホモサピエンスが生き残ったといわれます。
その理由が「集団の形成」にあったというのです。
ネアンデルタール人は比較的小さな集団しか形成しなかったのですが、ホモサピエンスは大きな集団を形成したといいます。
狩りに使う石で作った槍もネアンデルタール人のものは数種類しかなかったのですが、ホモサピエンスのそれは10種類以上もあり、獲物によっても使い分けをしていたというのです。
ある程度の集団になると、切磋琢磨が生まれて、全体として活性化するといいます。
一人の特別な発見よりも、集団になることで、よりその環境に適したことやものが残っていくというのです。
これを「集団脳」といいます。
ところが、この集団脳もある程度のところまでは「うまくいく」のですが、その規模があまりに大きくなってきたり、時間の経過とともに環境に合わなくなってくると、その集団は途絶えるというのです。
集団は小さすぎても活性化せず、大きすぎても機能しないのです。
料理の味付けと同じように、集団にもいい塩梅があるのです。中庸の妙です。この塩梅をとるのが陰陽ではないでしょうか。マクロビオティックはこの陰陽を学ぶことです。
この陰陽を学ぶひとつに料理があるのです。
料理以外にも陰陽を学ぶことはたくさんあります。世の中の学問も陰陽を学ぶ絶好の教材です。
人間関係もまた陰陽の学びに欠かせない大切なことです。
そして、この陰陽の学びに誰でもすぐに取り組めることが自分自身の肉体であり、脳の力でもあるのです。
本能をみがく
自分の能力を最大限発揮するには、本能の充足がないと本質的には無理ではないかと感じます。
桜沢如一が言った「本能をみがく」ということは、食を正すことと、生活を正すことです。
食と生活は切っても切り離せないものです。
食は正しいけれど生活は乱れているということは本来なく、生活は正しいけど食は乱れているということも本来ないのです。
生活が乱れてきたら食も乱れてくるし、食が乱れてきたら生活も乱れてくるのです。
そして、どんなに正しい食事をしていても、正しい生活が出来ていなければ、その食から十分にキレイな細胞を造ることができないのです。
道場では朝起きたら最初に掃除をします。朝の掃除を何よりも大事にしています。
朝飯前の掃除は、食べ物を上手に血液化するもっとも大事な生活のひとつです。
身のまわりがキレイになると、身のうちがキレイになると実感します。
陰陽は陽陰とは言いません。陰が先に来て陽が後に来ます。「出入り口」も「入り出口」とは言いません。
体の中の老廃物も一度出さないと新しい血液が造られないのです。
食事の前に身を清めることは、神前で手や口を清めることと同じです。マクロビオティックな生活法は、世界のそれぞれの地域で伝統的に育んできた食と生活に陰陽の光を当てて現代に再興したものです。
こども合宿で生活をともにした子どもと大人は、昨日よりも今日、今日よりも明日、命が輝いていることを実感するのです。
この「本能をみがく」ということは集団にならずとも一人でもできます。
むしろ、一人の方が「本能をみがく」ことに集中できるかもしれません。
しかし、集団になるとこの「本能をみがく」ということも切磋琢磨が生まれて洗練されてきます。
ところが、集団が大きくなりすぎると、「本能をみがく」ことに陰りが出てくるのではないかと思うのです。
集団を維持することが目的になって、一人ひとりの「本能みがき」が疎かになってきてしまい、疎かな「本能みがき」が続いていくと、文明は終わりを迎えるのではないかと思います。
肝心なのは「本能をみがき合えるつどい」ではないかと思うのです。
「本能をみがき合えるつどい」はその土地の伝統的な食と生活を基本にしたものになると思います。
心地よさと居心地の悪さが共存するかもしれません。現代は伝統的な食と生活からかけ離れた人たちが大多数を占めて、マクロビオティックを実践すると多くの人が排毒を経験するように、人間関係においても苦悩を経験することが少なくありません。
しかし、排毒を乗り越えないと心身ともに健康になれないように、「複雑な人間関係」を乗り越えないと心身が鍛錬できないと、多くの人をみていて感じます。
難あり有難し。生命力を高める生活法でもっとも大切なことは難しさに挑むことではないでしょうか。
月刊マクロビオティック 2022年8月号より
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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)
1976年群馬県生まれ。
15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。
食養相談と食養講義に活躍。
「マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。