磯貝昌寛の正食医学【第116回】食養指導録 貧血と断食
貧血と断食
和道で行う半断食は、登山のように上りと下りがあります。
上りがごく少量の玄米粥をよく噛み、下りは体に合わせた飲み物や食べ物を食べていくのです。
この下りを回復食といっていますが、回復食の内容は人様々です。
貧血の人は断食は辛いと感じてしまいますが、一時的に断食をしないと腸の消化吸収力が高まらず、貧血を根本的に改善するのは難しいのです。
ある夏のことでした。鉄欠乏性貧血の女性が半断食合宿に参加した時のことです。
丸一日、極少食の半断食を実践したら、顔から血の気が引いて、立っているのも大変なほどになりました。
これは排毒反応とは違って、腸からの栄養吸収が抑えられたことで、元々の貧血がより強く出てきてしまったためです。
このような状態になると半断食の上りの行はお終いにして、回復食を始めます。
体に合った食事を徐々に増やしていくのです。この時に和道では、味覚のチェックをして、より美味しく感じるものを回復食の中に取り入れていきます。
多くの場合、半断食をすると3~4日目に排毒反応があらわれることが多いのですが、貧血の強い人はそれとは違う症状が出ることが少なくないからです。
鉄欠乏性貧血の人の回復食の柱になるのが「味噌」であることが多いです。
断食によって貧血が進んだこの女性も、回復食で摂る味噌汁が今まで食べてきたものの中で一番おいしかったようです。
味噌汁から始まり、徐々に味噌おじや、根菜の味噌煮込み、海藻の味噌煮込み等を日を追うごとに増やしていくと、半断食を開始する前の顔色よりも赤みが出てきました。
下瞼の内側の血色も半断食前よりも赤みが強くなり、元々あった立ち眩みも消えていました。
鉄欠乏性貧血だけではなく、低血圧や痩せている人など、一見すると断食が合わなそうな人であっても、回復食を上手に取り組むことで症状を改善させるのです。
一時的に極少食にして、玄米粥を徹底して噛むことが腸に良い刺激になっているのでしょう。
生姜シップによってお腹や背中から腸を含めた内臓を徹底して温めているのも大きな働きです。
さらに、瞑想を伴った運動、ウォーキングも大きいと感じています。
食養では味噌は身礎(みそ)と考えています。味噌は大豆を麹によって発酵させた食品です。
大豆は畑の肉とも呼ばれ、たんぱく質が豊富です。
しかし、大豆のたんぱく質はそのままでは消化し難く、昔から味噌、醤油、納豆、豆腐等、ひと手間ふた手間時間をかけて作られてきました。
この加工の工程には微生物( 細菌)が欠かせない働きをしてきたのです。
もう一人、味噌に救われた人を紹介しましょう。子宮頸がんの女性で大量の不正出血を起こし、急激な貧血になってしまった時のことです。
食養では止血に、ヨモギ、ごま塩、醤油入り三年番茶などを使います。
これも、自分に合った止血法を見つけることです。この人にはヨモギがてきめんに効いたのです。
大さじ一杯のヨモギの粉末を葛湯に溶いて飲んだだけで大量の不正出血が止まったのです。
時間を空けてもう二杯のヨモギ粉末を摂ったところ、一日で出血は治まりました。
その後、前出の鉄欠乏性貧血の人と同じように味噌料理を少しずつ増やしていったら、不正出血を起こす前よりも元気になりました。
この大量の不正出血も大きな症状なのですが、ある種の排毒になって、その後の回復食を上手に進めることで症状を改善させていったのです。
とはいえ、味噌を美味しく感じずに造血になるからと味覚欲求を無視して食べ続けるのはよくありません。
美味しく感じるかどうかが、自分に合っているかどうかが大切なのを忘れないでください。
腸を元気にする
病気の大元に腸疲労があります。
腰痛や不眠、眼精疲労や口内炎、糖尿病やガンなどの生活習慣病に至る大きな病まで、その根本に腸の問題があります。
健康の指標に「快食、快眠、快便」と云いますが、よい大便が出ていれば、大きな病になることはまずないのです。
よい大便とはどのようなものなのでしょうか?
ゴールデンバナナと称する人もいますが、黄色に近い鮮やかな黄土色で大きなバナナくらいの大きさがあり、形は崩れず、水に浮くウンチが理想です。
もちろん、嫌な臭いはありません。そんな大便にトイレで出会ったら、もうそれだけで気分爽快、何でもうまくいきそうな、そんな感覚になります。
こんなウンチをしていたら人間は死なない。人は亡くなる前にはいいウンチが出なくなっています。
腸が元気でイキイキとしていたら、人だけでなく動物は死なないのです。
植物だって根がしっかりしていたら枯れたり腐ったりしません。
多くの人の食養指導に携わってきて得た確信が腸の元気を保つことができたら、人は元気であるということです。
健康を求めるのであれば、まずは何より腸の健康を維持することです。腸の不調を診断するために、マクロビオティックを含め東洋医学では陰陽という物差しを使います。
腸が陰性に偏って不調なのか、陽性に偏って不調なのかを判断します。
腸に限らず、体の不調は陰陽どちらかへの偏りから生じています。
陰陽の偏りなく、中庸な状態が健康なのです。腸が陰性に偏ると大便は固まらず緩くなります。
下痢になるのはさらに陰性の特徴です。しかし、下痢が続いても体力は落ちず、むしろ下痢便が出た後のほうが多少なりともスッキリした感じがあるようであれば陽性の下痢の可能性があります。
一方、腸が陽性に偏るとしばしば起こるのが便秘です。
それも、時に出てくる便が硬いものであれば陽性が強い便秘といえます。しかし、便秘ではあっても時に出てくる便が緩く、下痢状な便であれば、陰性を含んだ便秘と考えます。
腸の状態が陰陽どちらかわからなければ、葛湯や葛練りとリンゴを食べ比べてみてください。
葛湯や葛練りの方がおいしく感じるようであれば陰性であり、リンゴの方がおいしく感じるようであれば陽性です。
陰陽どちらかわからないときは、味覚という感性で判断するのが間違いのない方法です。
どちらもおいしく感じるようであれば、陰陽の偏りはそれほどなく、腸の状態もそれほどひどいものではないのでしょう。
陰陽どちらの症状にしても、腸はよく温めることが大切ですが、極陽性で腸に炎症があるときは大根おろし、ゴボウおろし、リンゴおろし等をおいしいと感じる最大限の量を食べ続けることが大事なこともあります。
そして、現代人の腸をよくするはじめの一歩は、よく噛んで唾液をたくさん出すこと、腸を休めてあげること、そして、運動や温熱で腸を外から活性化してあげることです。
この三つが実践できたら、ダレでも腸は元気になります。
月刊マクロビオティック 2021年8月号より
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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)
1976年群馬県生まれ。
15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。
食養相談と食養講義に活躍。
「マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。