失敗は失敗と言う名の成功【失敗は、ありがたい教え、訓(さと)し】

シェアする

札幌の自然食品店「まほろば」主人 宮下周平 連載コラム

1、トラクターに教わる

高田さんが、小別沢時代からのレトロな45馬力のトラクターで畑耕(おこ)しをしている。

だが、最近どうも跡が荒れて、きれいに整地されない。何故だろうか、と気にも留めていなかったが、流石(さすが)余りにも酷いので、ロータリーの羽根爪を見て、ビックリ。

本来なら、L字型に曲がっている爪がI字型にまで減っていた!

それに気付かないのは、いかに管理がお粗末かを知らされて、やって来た農機具屋さんの営業マンに、「こんなの見たことがない」とまで言われ、甚だ恥ずかしい次第なのだ。

兎に角、ここは石が多くて閉口している。除いても除いても次々に大きな石が出てくる。

ロータリーが悲鳴を上げて、こんなにも摩耗するのは、機械もかわいそうだ。

言い訳がましいが、毎日忙殺されるものの、機械管理まで手が届かない、頭が回らない自分が居る。

農家にとって、当たり前のことが、まだまだやれていない、一人前はまだまだ遠い先である。

2、取替作業

その素人の私が、羽根爪を取り換える羽目になった。と言うのも、農機具屋さんの都合で、その日の前後来られないというのだ。

さらに、部品の納期が遅れてしまった。

それで、入荷したらすぐ取り付けられるよう、全て自分で外しておこうと思ったのだが、これが誤りだった。

羽根の付け替えは一枚一枚外しては付けるというのが、セオリーだったことは、後で知らされたのだった。

それは、農作業の各種各用途で羽根の構造が複雑に異なり、農機具屋さんの所長も取り替えた経験がない。言葉では説明できない代物だったのだ。

仁木余市では、こんな大型トラクターを持っている農家が少なく、その大型ロータリーの爪の取り外しは、ド素人の初仕事としては結構大変な作業なのだ。

まずは、大きなレンチの器具購入から始まり、梃子(てこ)のパイプを入れねば、動かないボルト・ナットには往生した。

これが何と50枚もあって、何日もかかかってしまった。

3、試行錯誤の作業

そして、用心深くあれこれ考え、説明書きを確認しながら、流線形に羽根が波を打つよう自分で取り付け、初めてこれで良し、と言う所まで完成した。

農作業の合間合間で、4、5日もかかってしまった。その間、やり直しを幾たびしただろうか。

ところが、営業マンが来て、さらに間違いを指摘されてガッカリ。修正するのにも、やたら時間がかかってしまったのだ。そうやって一週間が経った。

なるほど、プロの農家も一枚一枚外しては付ける意味合いが、身に染みて分かった訳だ。

4、失敗からの理解

だが、最初からそれを知っていれば、難なく仕事は済んだはずだ。言われたとおりにすれば、事なきを得ただろう。

しかし、この形に、この向き、どうしてこうなるかのメカニズムを知らないままに、終わってしまう。

この一連の作業は、無駄足だったろうか。過ぎ去れば、一瞬のようにも思えるが。

時間をかけ、労を費やし、自力でやったことで、何かが残るような気がした。

それが愛着というもので、機械への愛情と理解が格段に深まっていった。

独断で手掛けたことは、一見失敗に見える。だが、見方を変え、立場を変え、角度を変えれば、成功とも言えないだろうか。

世間の失敗とは何だろう。成功の常識、失敗の非常識ではなかろう。

しかし、失敗は失敗のように見えて、実は成功の光を宿している。

5、失敗の人生こそ

何でもすんなり出来る。うまく出来た。

それは、成功のように見える。しかし、どうしてそうなったのか。

どうしてうまくいったのか、その原理原則が分からないままに続ける先で、必ず失敗する。

ところが、失敗を続けると、どうしてこうなるかの自主性が生まれる。

いわば、他動性から、自立性が生じる。この自立すること、他のせいにしない、自己に責任を持つこと、何事も主体的になるという事が肝要なのだ。

これが「随処に主に為る」という禅語の意味ではなかろうか。

その自分の眼で見つめることが、事のあらまし、物事の成り行きを見据えることにはなりはしまいか。

失敗は、ありがたい教え、訓(さと)しなのだ。失敗しなければ、物事の道理が見えてこない。挫折しなければ、人生は見えて来ない。

失敗した分、人への思いが深くなるのではないか。事に用心深く、物に観察眼が養える。

世の失敗成功は、その結果だけを見た、途中変化の仮の姿なのだ。

この世には、固(もと)より成功も失敗もない。

いみじくも、あの発明王トーマス・エジソン曰く、「天才は1%のインスピレーションと99%のパースピレーションである」。つまり、99の失敗がなければ、1の成功を生み出せなかった。

6、失敗は失敗と言う名の成功…

その営業マンは、元ホテルマン。

3年ほど前に転職して農機具販売を専門職とした。営業相手は、何十年も経験している農家の猛者(もさ)達である。

どれほど、難渋な仕事か、毎日が察せられた。彼の氣苦労、心情が思いやられる。

どうやって勉強して日々対応しているのだろう。一緒に土間を背に作業しながら、彼に「失敗は失敗と言う名の成功。成功は成功と言う名の失敗。挫(くじ)けるんでないよ!」と、励ますと、「心に染みるお言葉です」と、さらに心打ち解けることが出来た。

失敗の人生って無いのだろう。自然に失敗あり、とは聞かないように。

そして、失敗のコロナは、いつか成功のコロナに変わりゆくだろう。

かくして、替え刃作業に多くの時間を費して、農作業に遅れが出てしまった。

予定の作業が後手後手になって行く。

そこで、援農ボランティアさんに、どれほど助けられたことか。本当にありがたいことです。

さあ、今日も、楽しんで失敗しながら、がんばるぞー!!

【こちらもオススメ】

まほろばオリジナルサプリメント「マハファーラ」

歴史は変る 底知れぬ大和心よ、再びと・・・【正倉院の寶物「金銀平文琴」から】

遂に「腸管造血論」が立証された【春秋の忍、晩冬の實】

宮下周平

1950年、北海道恵庭市生まれ。札幌南高校卒業後、各地に師を訪ね、求道遍歴を続ける。1983年、札幌に自然食品の店「まほろば」を創業。

自然食品店「まほろば」WEBサイト:http://www.mahoroba-jp.net/

無農薬野菜を栽培する自然農園を持ち、セラミック工房を設け、オーガニックカフェとパンエ房も併設。

世界の権威を驚愕させた浄水器「エリクサー」を開発し、その水から世界初の微生物由来の新凝乳酵素を発見。

産学官共同研究により国際特許を取得する。0-1テストを使って多方面にわたる独自の商品開発を続ける。

現在、余市郡仁木町に居を移し、営農に励む毎日。

著書に『倭詩』『續 倭詩』がある。