食物の陰陽【古代の食物がもつ生命力に目を向ける】

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磯貝昌寛の正食医学【第81回】食物の陰陽

土地の陰陽と食物の陰陽

野菜の陰陽も他の野菜の対象があっての陰陽ということなのですが、自然環境を対象に見てみても素材の陰陽がわかり、またその土地の陰陽がわかります。

例えば、小豆。本来、小豆は関東近辺で作られるものよりも北へ行けば行くほど大きくなっていきます。

北海道の大納言小豆はその特徴を活かしたものです。

一方、黒豆は南へいけば行くほど大きくなります。

丹波の黒豆は他の黒豆に比べてずいぶんと大きいですよね。

北は陰性、南は陽性。陰性な地でより育まれる植物・作物は陽性なものほど相性がよく、陽性な地で育まれる植物・作物は陰性なものほど相性がよいのです。

そう考えると小豆は陽性で、黒豆は陰性ということになります。

長ねぎと玉ねぎにも同じことがいえます。長ねぎは南へ行くほど背丈を伸ばし、玉ねぎは北へ行くほど大きさを増す。

長ねぎの陰性に対して玉ねぎが陽性ということになります。形状からの陰陽が自然環境からみたときの陰陽に裏づけされるよい例です。

また、玉ねぎの保水力には大きなチカラがあります。

食物の陰陽の中でも玉ねぎが陽性に位置づけられるのはその保水力が大きな要素なのです。

玉ねぎが体に及ぼす影響も、体の保水を高め、瑞々しさを保つのに役立ちます。

便秘気味の人や赤ちゃんなどで、保水がより必要な人は玉ねぎはとてもよい食材です。

赤ちゃんの離乳食に玉ねぎがよく利用されるのは、保水力があり、腸内共生細菌にもよい影響があるためです。

人為的な現代の慣行農法( 土作りを無視した化学肥料・農薬使用の農業)では、玉ねぎなどはより大きくした方が収量があがるという短絡的観点から、鉱物や石油から作られたカリ肥料、石油や動物の糞尿などを使用した窒素肥料を多量に畑に投入して本来の野菜の姿を歪めさせてしまっています。

現代の作物は姿かたちからしても混乱状態に陥っているのです。

降水量と食物の陰陽

降水量の多い地域で育つ食物と降水量の少ない地域で育つ食物の陰陽もあります。

雨が多く降る地域は少ない地域に比べて陰性です。雨の少ない地域は逆に陽性といえます。

ゴマは雨の多い地域で育てると油が少なく、雨の少ない地域で育てると油の多いゴマが収穫できます。

ですから、乾燥地帯で採れるゴマからゴマ油を搾った方がたくさん採れるのです。

乾燥地帯では人間にとっても油は必需品です。肌に潤いを与えるためにもなくてはならないものです。

逆に、湿潤な地方では油の必要性は乾燥地帯よりずっと低く、日本のゴマ油が高価なのは油の採れる量が少ないためです。

梅雨時や湿気が強い夏に油を摂り過ぎると、いくら質の良い植物性油であっても体の負担になることが少なくありません。

水を最も必要とする食べ物にお米があります。

水田はずっと同じ水を貯めておくのではなく、毎日水を入れ替えて穏やかに流れる水の中で稲は育っているのです。

同じ穀物でも、米に比べると麦は水をほとんど必要としません。

ヨーロッパの乾燥した地域ではパンの原料となり、日本でも雨の少ない冬が生育期間になっています。

麦と米の陰陽は降水量の点からも観られるのです。

味と食物の陰陽

ウリ科の元祖に近いキュウリがゴーヤです。「苦瓜」とはいうものの、苦い正体は実はエグミです。

陽性な「ニガい」に対して「エグい」は陰性です。

おもしろいことに、陰陽は両極端になると見分けがつきにくくなります。

例えば、塩と砂糖。塩の陽性に対して砂糖は陰性です。

白砂糖と塩はパッと見ただけではわからないこともあります。

さらに、高濃度の塩漬けの漬物や高濃度の砂糖漬けなど、食物を保存するのに塩も砂糖も使われます。

また、可視光線7色の陰陽も、陽性から赤・橙・黄・緑・青・藍・紫となりますが、赤を濃くしても黒になるし、紫を濃くしても黒となります。

目に見える色の陰陽でも極陽性と極陰性は一見すると黒ですから見分けが難しいのです。

苦瓜もちょっと食べただけではニガいのかエグいのかわからず、陰陽の判別がつきにくい食物です。

そういった食物の陰陽の判別をつけるためには、まずは調理をしてみることです。どういった調理法でおいしくなるのか。

キュウリなどはそのまま食べてもおいしいですが、苦瓜はやはり炒めるなどしてしっかり火を通して( 陽性化して)食べないとおいしくありません。

ということは、苦瓜は一般的なキュウリに比べて陰性な食物、という判断ができるのです。

収量と食物の陰陽

植物の生態から陰陽を判別する場合、植物そのものの大きさや色、形丸型、細型など)を主に観察しますが、その他の方法として収量の多少も陰陽の判別の大きな観点となります。

収量が多いものに比べ、少ないものの方が陽性となります。

一本の苗木が土から吸う陽性な天然養分を多くの実へ配分するよりも、少ない実へ配分する方が一個の実に配分される栄養素が多いという単純なことからです。

現代慣行農法は窒素・リン酸・カリウムという陰性な化学肥料を大量消費して無理やり実を付けさせますが、結果、根のチカラが弱まって根を強く張って養分を吸収しようとするチカラを奪っています。

というよりも、自然の根は害のある化学肥料を吸いたくないがために根を細く短く、根の張りを自ら弱めているのでしょう。

「たくさん採れたからといって喜ぶなかれ」。その裏にあるものを見定めなくてはなりません。

品種改良をして収量を高めた品種も同様です。古代から続く食物の多くが収量を上げるために品種改良されています。

農業の歴史は収穫量を増やす歴史と云ってもいいでしょう。

収穫量を上げることは人間社会の必然とはいえ、生命力の観点からは生命力を弱め、陰陽の観点からは陰性さが増していることになります。

陰極まって陽、陽極まって陰。

陰陽の変化は歴史をみても、人間の生理をみても当てはまります。

生命力が弱まった現代にあって、古代の食物がもつ生命力に目を向ける人々が増えているのも必然なことなのです。

月刊マクロビオティック 2018年9月号より

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磯貝 昌寛(いそがい まさひろ)

1976年群馬県生まれ。

15歳で桜沢如一「永遠の少年」「宇宙の秩序」を読み、陰陽の物差しで生きることを決意。大学在学中から大森英桜の助手を務め、石田英湾に師事。

食養相談と食養講義に活躍。

マクロビオティック和道」主宰、「穀菜食の店こくさいや」代表。