菌美女の酒井美保子連載コラム
こんにちは、菌美女 酒井美保子です。
先日、千葉でお醤油絞りの会に参加してきました。今年で5回目。
味噌は一般家庭でも簡単に作ることができますが、お醤油は絞る作業があるため家庭で作るという場合でも、昔は何軒か一緒に仕込んで絞っていたと伺いました。
この時期に毎回伺うSONHAR(http://www.food-designist.com/)では、春に仕込んだ醤油もろみを1年弱発酵させて、豆や麦の旨みを十分に引き出した翌年の晩冬に絞ります。
絞る専門の方の指導のもとにみんなで絞ります。
絞りはじめと終わりでは色や味わいが違い、また、ゆっくりと醸造されたもろみは味自体も出汁醤油のような美味しさです。
通常は品質安定のために絞ってから加熱されていますが、SONHARでは手作りならでは非加熱;生醤油を取ることもでき、生の香りと味わいを楽しむことができます。
また、毎年2樽同じ材料で仕込むのですが、それぞれの樽でも出来上がりの味が違うので、正に醸造の醍醐味を体験することができます。
改めて、醸造の奥深さ、複雑さ、微生物の恵を感じる時間です。
【お醤油仕込み会の案内】
https://www.facebook.com/events/170815140104528/
さて、今回はお醤油作りにも欠かせない麹菌の話をしたいと思います。
皆さんは、麹と麹菌の違いを説明できますか?
発酵に関心があり、ある程度の知識があるかたであれば当然ご存知かもしれませんが、菌美女活動を行う中でも意外と麹と麹菌を同意語として使用していたり、いざ説明するとなると言葉が出て来なかったりということがあるのに気が付きました。
ですので、今回は復習も兼ねて、麹菌について改めて見ていきたいと思います。
先ず初めに麹菌とは「カビ」の一種です。そして、麹菌が穀物に菌糸をはって繁殖したものが「麹」です。
麹菌は生き物
麹は成果物(胞子の群れの状態)となります。
どの穀物で出来ているかで麹の呼び名が変わります。
お米に麹菌を生やしたら「米麹」、豆なら「豆麹」、麦であれば「麦麹」ということになります。そして調味料作りにはこの「麹」が欠かせません。
醤油、味噌、味醂、お酢、漬物、日本酒、焼酎、泡盛などは正に和食を支える調味料やお酒ですが、これらも麹菌が作る「麹」によって作られています。
さらに2006年には麹菌は日本醸造学会により日本の「国菌」と定められました。
麹菌は「カビ」のため温暖多湿を好みます。
また、麹菌にも以下のような種類があります。
黄麹菌(Aspergillus Oryzae, Aspergillus Sojae) 味噌、醤油、味醂、日本酒など
黒麹菌(Aspergillus Awamori)泡盛
白麹菌(Aspergillus Kawachi)焼酎
紅麹菌(Monascus purpureus)豆腐よう、古酒など
こうしてみると最も身近な麹菌は黄麹菌ですね。
余談ですが、鰹節を作る際に振りかける菌も麹菌の一種で「カツオブシ菌」と言います。水分をとり、旨みを増す活躍をしています。
話を戻しますが、麹はさまざまな酵素を作りだします。
麹菌の種類によって麹に含まれる酵素の内容や割合も変わるのですが、だいたい30種類以上があると言われています。
代表的なものは以下の通りです。
「アミラーゼ」 炭水化物 → 糖分(グルコース)に分解
「プロテアーゼ」 たんぱく質 → アミノ酸に分解
「リパーゼ」 脂質 → 脂肪酸に分解
まさに麹は酵素の宝庫です。
酵素が豊富ということで消化を助けたり、またビタミン類を生成する働きもあるので、ここ5、6年は健康食材としても話題になっていました。
特に麹で作る甘酒*などは「飲む点滴」と言われるほど栄養価も高く、消化にも優しいので、老若男女問わずお薦めされていました。
とても身近になった麹(米麹)ですが、実は麹を作るのは温度と湿度のコントロールが難しく、美味しさのもととなる優秀な麹を作ることは一般家庭ではかなり難しいと言っても過言ではありません。
作り方としては、蒸したお米に麹菌を混ぜて菌糸を生やすだけなので、品質にこだわらなければもちろん、麹を作ることはできます。
しかし、日本酒やお醤油などの複雑な味わい、品のある味を出すには、麹菌がうまく菌糸を伸ばしてお米の中に生える “具合”が重要となってきます。
この破精具合により、酵素の種類も変わり、糖化力やたんぱく質分解力も影響しますので味に大きな変化を及ぼします。
通常、麹を作るには24-48時間かかるのですが、その時間中は温度と湿度の加減を丁寧に見る必要があります。
今でこそ大手は温度や湿度をコントロールできる麹を作る機械(製麹機)を持っていますが、小さい蔵、こだわりのある蔵人は睡眠を削って、子育てするように麹を作ります。
ここに職人技が現れるのです。
出来た麹は生ものなので、直ぐに使用するか冷蔵、冷凍保存して保管します。
バランスよく破精た麹もそのままにしてしまうと菌糸がどんどんお米を覆い真っ白になり、さらには黄~緑色(黄麹菌の場合)の麹菌の胞子が出てしまいます。
そうすると麹としては劣化したことになりますので、市販の麹を購入した際も注意が必要です。
因みに、今の麹は大体「種麹」と呼ばれる麹菌を種麹屋(もやし屋)さんより購入して麹を作ります。
昔は「稲麹」と言って稲についている黒い粒と殺菌効果のある椿の木灰を混ぜて麹菌を培養していました。
偶然、麹菌の恩恵に預かるようになった私たちの歴史、今、改めて食生活の中でも感じてみてください。
身近なスーパーでも米麹が売られるようになりましたので是非とも探してみてください。
その麹を使って、塩麹、醤油麹、甘酒なども簡単に作ることができます。
野菜や魚、肉などを漬けこむと、麹の持つ酵素によって食材が分解され、食べやすく、旨みも増します。
麹には炭水化物を分解する力が高い(糖化力)酵素を含むものと、たんぱく質分解力が強いものがあります。用途によってどの麹を使用するか選びましょう。
例えば、お味噌作りにはお豆のたんぱく分解力の強い麹を選び、甘酒づくりなどはお米を分解する糖化力の強い麹を選びます。
それをブレンドして塩麹を作り調味料としても両方の良さを取り入れられます。
いかがでしたか、「麹菌」と「麹」の違いを再確認していただけたでしょうか。
*甘酒には、麹と蒸した(または炊いた)お米を混ぜて作る江戸時代からの甘酒と酒粕にお砂糖と足し、お湯でのばした甘酒とがあります。ここの場合は前者の昔ならではの甘酒を指しています。
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