札幌の自然食品店「まほろば」主人 宮下周平 連載コラム
一、トラクター運転「どうして曲がるの?」
昨年から、息子も居らず、機械の何もかも私一人が操(あやつ)らなくてはいけなくなった。
子の旅立ちの段になって、俄(にわ)かに総浚(そうざら)いしたものの、物事の習得は、実戦でしか身につかないことを、いやというほど思い知らされた訳だ。
その一つに、農家なら誰もが乗るトラクターがある。
何処の畑でも耕すに、きれいにまっすぐ一直線に筋が通る、それが当たり前になっていて、誰もがそう思っているに違いない。
ところが、そう簡単に問屋は卸してくれない。真っ直ぐどころか、曲がりに曲がって、恥ずかしいこと隠れたいほどである。
(さぁいいゾ)と思ってもスタートで曲がり、(コレでOK!)と喜んでも最後で曲がり、チョットでもハンドルを動かしてしまうと、途中でグニャグニャ曲がることこの上ない。
二、その原因は?
ところが、プロのメーカーさんにハンドルを握らせても、好きなように曲がりくねる。農家さんにやってもらっても、意外と曲がる。車好きでも必ず曲がる。
何だろう、これは。半年、やってみて分かったことは、
① ここの土地は、異常に石が多い。70年前に余市川が氾濫して大小の石が無数に埋まっている。それがロータリーの歯にぶつかり、中心線から見て左右に常に飛び跳(は)ねて、ブレるのだ。歯の損失・変形で、バランスも崩し易い。
② そして、土地が波打っている。ジィーと中心に合わせているのに、どうしてもハンドルが惰性で持って行かれて、戻せない場所がある。
③ 45馬力のトラクターだと、勘のみで真っ直ぐ走れる。高田さんは、お手の物で、実に見事だ。
だが、半分の24馬力の新しいトラクターは車重が軽いので①②の原因で、お手上げなのだ。
④ 45馬力の昔のものは、ハンドルに遊びがあって、手元の多少のブレも、線上には揺らぎを残さない。
コンピューター制御の新型は、手元の微妙な揺れが、明らかに軌跡となる。寸分の狂いも、見逃してはくれないのだ。
今注目されているGPS(全地球測位システム)付きなら、以上の悩みは生まれないだろう。
さてどうするかだが、農園の種まきの曲がりくねりは、いかにも素人臭い農園で、見てもらうのも恥ずかしい。
しかし、現状は隠せない。ありのままの素人農園である。それで、方法を様々に聞いてみて、自分なりに工夫してみた。
三、さまざまな方法論
最初、真ん中に線を引いてそれに沿ってまっすぐに走る。これが中々のもので、簡単ではない。
そのタイヤの跡に沿ってタイヤを踏めば、良しとするも、これが意外とうまく添えない。場所にもよるが、〈二〉の①②が関係しているのだろう、ズレまくる。
目的の中心線に棒を立て、それに合わせて車をまっすぐ走らせる。
これは、真っ当な正論で走らない訳がない。ところが、そうは簡単にならないところ、地団駄を踏む。どうしてブレるのだろう、というほどブレる。
Youtubeの動画で見ると、みなうまく起こせているのには感心するが、実際にそうはならない。
果たして、プロ中のプロにやってもらっても、うちの畑でもああなるのか、と思うこと頻(しき)りなのだ。
四、自分なりの方法
ある夜、どうしても暗がりで種撒きをしなければならなかった。翌朝から雨降りだった為だ。
この暗い中、気付いたことは、何事にもすべて意味がある、ということだ。
そこで、目的の中心線に棒を立て、懐中電灯で照らして、意識を集中することにした。
それと、最終地点より、何mか先に目的棒を立てる。まず車幅160㎝の半分80㎝で、まっすぐな棒を立てる。
始発の後ろも半分を確認。しかも、揺らぐグラスファイバー棒でなくシッカリした木の杭と土との接点に焦点を合わせる。これを①とする。
②は、トラクターのボンネットの突起ポッチとする。これは車体の中心点だ。
揺らいでも中心は揺らがない。しかし、これでもダメで、自分自身が左右に揺れると目線が常にズレる。
そこで窓ガラスに中心線を引き、さらにベルトで体を固定する必要がある。これが③である。
③ツ目がブレると、①,②が一直線でも大幅にブレる。
何十年も耕作した畑では、こうはならないだろうが、石河原の果樹畑の跡を野菜に切り替えた土地は、条件が甚だ違うのだろう。
そしてスタートは十分スタートラインから引き下がって中心線の真ん中に車体を合わせることが肝心で、それをやらねば手元が狂って、最初から曲がってしまうのだ。
そして、決して脇見をしない、後ろを向かないのが、原則だ。向いたと同時にハンドルも曲がるからだ。
ジッと三点が最初から最後までブレないように息をのんで運転する。小刻みにハンドルを動かさないと、修正できない。
そこで、線引きなしに自己感覚で進むと、必ず歪(ゆが)む。
TPO(ロータリーの回転)を最大540までにして、速度は1㎞/hでユックリ着実に進む。最後まで、気を抜かない。これで初めて、真っ直ぐに行けた。万歳!
しかし、それはほんの最近、播種も終盤で分かったことで、確実に線を結べる。
だが、まだまだ揺らいで本物でない。これに、慣れが加わる必要があるのだろう。
五、射法八節
先々月、作庭家の甲田さん御夫妻が、援農と0‐1テスト習得に来訪し、連泊された。
その際、奥様が高校時代から弓道を始められ、全国大会を制覇されたほどの腕前で、弓に嵌(はま)ったという。
彼女の集中力、直感力は、この弓にも秘密があったわけだ。それで貴也さんのハートのど真ん中を射貫いたのだ。
おそらく、集中の異次元時空の刹那に、自己の本体を垣間見るのだろう。
今回、「弓の秘訣は何ですか」とお尋ねした。すると明快に「それは、射法八節です」と答えられた。
その一つ、的と左の弓張の手元と右の引手が一直線上になることに、我が意を得たりとした。
その他、肚や息や意識の生理・精神性に境の極意、道があるのであろうが、まずはその三点一致の科学的整合性から始まるのではなかろうか。
それは、トラクター操作にも通じることで、人生万般、原理は同じであると確信した。
六、三位一体
これは、眼に見えない信仰の世界でも同じではなかろうか。
最初にキリストへの尊崇や信仰から始まり、そこに悩める自身が居て、イエスの向こうに父なるエホバが存在する。
仏教の釈迦も信仰者修行者としての我が居て、やはり釈尊の先に真如や何々如来が在(ま)します。
イスラームも信者ムスリム、預言者ムハマド、神アッラーも然りで、いずれも三点セットだ。
どうも、この三角関係トライアングルは、物事の密接な関係を永続させる上で、どの一方一角も欠かせない力学的支点がある。物理的にも心理的にも。
神、佛といってもこちらの向き方により的外れや回り道・横道をしているかもしれない、飛んだ邪教に陥らないとも限らない。
そこを修正するのが教祖の教えにあって、究極の的に心を向けさせるのだろう。
7、「三点必致の発見」こそ、人生のコツ
因(ちな)みに、日本の俳句、5,7,5は、1:√2:1の白銀比。
この三点比率で、自在絶妙な句境を生む。果ては銀河の外から、内は微生物の奥まで。そして、人の心の隠れた襞(ひだ)まで覗(のぞ)き込む。
勉学にしろ、仕事にしろ、趣味にしろ、ポイント発見が、物事の的(まと)を射(い)るコツに違いない。
余計な回り道をせず、中心を定めた一直線道は、思念が強まり、行動も早く確実に、最短距離を最短時間で到達する道なのだ。
自分の身の回りで、確かめる。
どうしたいのか。
どうすればよいのか。
いずれも、人生に付きまとう課題である。
そして、「三点必致の発見」こそ、解決の鍵であった。
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宮下周平
1950年、北海道恵庭市生まれ。札幌南高校卒業後、各地に師を訪ね、求道遍歴を続ける。1983年、札幌に自然食品の店「まほろば」を創業。
自然食品店「まほろば」WEBサイト:http://www.mahoroba-jp.net/
無農薬野菜を栽培する自然農園を持ち、セラミック工房を設け、オーガニックカフェとパンエ房も併設。
世界の権威を驚愕させた浄水器「エリクサー」を開発し、その水から世界初の微生物由来の新凝乳酵素を発見。
産学官共同研究により国際特許を取得する。0-1テストを使って多方面にわたる独自の商品開発を続ける。
現在、余市郡仁木町に居を移し、営農に励む毎日。