あめ湯、煮物、病人食から民間療法まで伝統の甘露の味「米あめ」

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船瀬俊介連載コラム

「やっぱり、若いひと、面白がるネ」

開ロ一番、「特選もち米あめ」本舗の藤田栄一さんの声も弾む。彼は佐賀県鹿島市の(有)小笠原商店の社長さん。創業一八〇年の老舗だ。藤田さんは七代目。

「つい昨日、テレビ取材があったとです。FBS『めんたいワイド』」……なるほど、昔懐かしい米あめに、マスコミも注目していることがわかる。

「取材クルーは二〇代、三〇代だったけど『ああ!素晴らしい。やっぱりメイド・イン・ジャパンだ』と感心してましたよ」

米あめとは、読んで字のごとく、米から作った飴のこと。

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引用:小笠原商店

「今時の若いひとは、米からあめができるなんて、ようわからんでしょう。

だけどチャンと説明すると、『ナルホド……』と感動する。説明不足ですね。

若いひとも、皆知りたい。けれど学校で教えた通り。何でも周りにあるけん、本当のことは知らん」

伝統食品を作り続けている誇りと自信。

「子どもさんたち、米から飴が、でくうっとは、わからんでしょうな。原点に戻れっちゅうこと。日本は発酵文化です。米から飴、それから洒、そして米酢。うまいこと、なっとるとヨ」

九州のひとは、よくしゃべる。わたしが福岡の田川出身と聞くと「ああ、そげんね!」と嬉しさが受話器の向こうで弾ける。

こっそり盗み祇めた”水あめ”何処

わたしは、子どもの頃を思い出す。それを水あめと呼んでいた。

かすかにしか覚えていないが曾婆さんが水あめを大事に大事に祇めていて、曾孫の幼いわたしたち兄弟には惜しんでなかなかくれなかったと、伯母がよく想い出語りしていた。

まさに往時茫々……。子どものとき、台所の棚の奥にあった水あめの瓶は、幼いわたしたちにとってドキドキするほど憧れの存在であった。

親の目を盗んで割り箸を突っ込んで一祇め、二祇めしたことを思い出す。

しかし、あの水あめは、いつのまに目の前から姿を消してしまったのだろう。それは、おそらくテレビのせいだ。「一週間のごぶさた」の「ロッテ、歌のアルバム」が始まり。

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幼いわれら兄弟は、チョコレートの魔力に取り憑かれた。それは、虫歯という恐るべき悪夢をともなっていたのだけれど……。

かくのごとくマスコミCMの罪は深い。今回の取材で、あの昔懐かしい水あめが、どっこいがんばって生き延びていたことに感動した。おまけに、テレビ取材まで!

これは、たかがレトロ趣味と断じるわけには、いくまい。

敗戦後、六〇年近くたって、われわれ日本人は、アメリカの占領文化にどっぷり漬かって生きてきたが、いまようやく来し方の伝統文化の存在に、あらためて気付き始めたのではないか。

いま各分野で「和の復権」が、さざなみのように広がっている。

折しも、二日前に、トム・クルーズ主演『ラスト・サムライ』を観て、得も言われぬ感動を覚えたばかり。

トム・クルーズは、玄米正食(マクロビオティック)のベジタリアンであり、彼専属の調理人は、日本青年であることも、知る人ぞ知る逸話である。

また彼の大好物が、切り干し大根ときいて、この若き俳優がとても近しいものに感じられた。

「日本は西洋の技術、文化を取り人れたが、日本固有の伝統文化の奥深い価値も、忘れず、誇て欲しい」というこのハリウッド俳優の真情が伝わって来るいい映画だった。

しかしアメリカ人のほうが、日本の伝統文化を深く解し愛し、一方で、日本の若いひとたちが「ジェーンジェン、わかんネェヨ…」と、ラップの真似事をする。これも、なんとも怪体な変な話だ。

原料は、もち米と麦芽……これだけ

さて、ほんとうに若いひとは、米から飴ができるなど、マジックと思ってしまうだろう。小笠原商店の製法を見てみよう。

まず「原料は、もち米と大麦麦芽。これだけで作った甘味料です」(同店)

その特徴も「白砂糖やはちみつとは、ひと味ちがう柔らかな甘みは、料理やお菓子に、ふくよかな味わいとつやを与えます」とある。

祇めて楽しむ”水あめ“だけでなく、和風料理からお菓子まで、活躍する天然甘味料なのだ。

こんな伝統の味わいの世界があったのか。白砂糖一辺倒になった料理界のプロたちも頭を下げて恥じ入るべきだ。

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しかし、まさに占領政策はおそろしい。海外からの砂糖メジャーの日本食文化への侵略そのものではないか。

■製法はーーー

①麦芽つくり:麦芽に含まれる酵素が、あめの甘みをつくりだす。麦芽も自家製。寒中に発芽させて天日干し。存しておく。

一年分の麦芽を1~3月のあいだに作って保

②蒸L米:水に浸しておいたもち米を、翌朝、せいろで蒸す。

③釜仕込み:蒸し上がったもち米を、鉄釜の60~70℃の湯にいれてほぐし粥状にする。

④麦芽入れ:粥の中に、麦芽を混ぜる。

65~70℃で麦芽の酵素が、6~7時間で、でんぷんを糖に変えていく。

*温度が下がりすぎると酵素の働きが鈍って酢になってしまうので、要注意。

⑤糖化進行:麦芽酵素による糖化が進むと、粥はどろどろからサラサラになる。

⑥完全糖化:早朝から開始した作業も深夜―二時。澄んだ粥に米粒が浮かぶ。「米粒を摘むとスカスカ。酵素がでんぷんを食べ尽くし完全に糖化した状態」。液は甘い匂いでさらっと水のよう。

⑦糖液絞り:さらさらの糖液を、圧搾機でしぼり漉すと飴の原液が完成する。

⑧糖液煮詰:二日目の早朝作業。糖液を煮詰用の鉄釜に人れ蒸気熱で煮詰める。泡に含まれるアクはていねいに除く。三分の一まで煮詰まったら、米あめの完成!

舌にとろける甘さ、ふくよかなうまみ

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「飴作りで、もっとも大切なのは、釜の中でもち米が完全に糖化したかどうか」だという。

温度管理がうまくいかないと「にごりが残る」これは、どんなに煮詰めても、不透明で雑味のあるあめに、なってしまうという。

つまり失敗作。

最後の仕上げは、米あめをタラーリとたらして堅さのチェック。

藤田さんの「もち米あめ」は、すこし柔らか目に仕上げている。

「そのほうが素材とよく馴染み、料理しやすい」。つまり「調味料として、もっと料理につかってほしい」という願いがそこにはある。

「やわらかに舌にとろける甘さ。ふくよかなうまみを持ち、後味はあっさりとした」奥深い滋味を味わって欲しい。

藤田さんの店には、なんと六0年前に先々代が作った飴も保存されている。澄んだ黄金色。

「あめは何十年とたつほどに、ワインのようにまろやかになる」という。

風味、滋味、あじわいの深さの他に、米あめをすすめる理由は、その栄養価の高さである。

麦芽、もち米を原料に発酵させた米あめは、ビタミン即やミネラル分を豊富に含み、白砂糖などは足元にも及ばない。

精白砂糖は、最新の栄養学は”エンプティ・カロリー“すなわち空っぽのカロリー“と呼んでいる。

他の栄養素を含まないため消化管から急激に吸収され血糖値を急上昇させ、低血糖症さらには糖尿病の原因ともなる。

またビタミンB群など栄養価がないので、いわゆる”空焚き“状態となって、体内のビタミンB群やカルシウムなどを消費して、体質をアシドーシス(酸血症)に傾けかねない。

甘党にヒステリーが多いというのは、カルシウム欠乏症状で神経過敏になるからといわれている。

台所や卓上の白砂糖つぼを追放して、かわりに米あめ瓶を謹くことが、これからのかしこい主婦の知恵といえるだろう。

むろん、紅茶なども、甘みは米あめで楽しめばよろしい。「お料理に米あめをどう使うの?」と戸惑う人もいるだろう。

なに、甘み付け、照り付けに、これまでの砂糖と同じ感覚でつかえばいい。

あめ湯、煮物、病人食から民間療法まで

なお、原料の麦芽は消化促進酵素(ジアスターゼ)を含むので、白砂糖や黒糖にくらべても消化吸収に優れる。

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また糖尿病患者で食事制限されているひとは、もち米を加工糖化しているので指定カロリー範囲なら、おすすめだ。

さて、その利用方法は以下のように八面六臂。これなら、白砂糖なんか、まったくいらない。

◎あめ湯:疲労回復体力増進には最適の飲み物といえよう。

◎煮物:佃煮、甘露煮などの甘み付け、仕上げの照り出しに…。

◎ジャム:砂糖のかわりに米あめを用いる。風味、栄養とも各段にちがう。

◎お菓子:白砂糖の代わりにつかう。栄養価は、はるかにこちらが高い。

◎千歳飴:なんと七五三でお馴染みのこの飴の材料が米あめであった。

◎病人食:ビタミンB、ミネラルなど滋養豊かで消化がいい。病人の滋養補給に最適。

◎乳児食品:栄養価が高いので、昔は母乳がわりにも使われた。

◎咳止め:粘り気があり、ゆっくり溶けるので喉の痛み、咳止め、喉薬として有効。

◎大根あめ:大根の角切りに「もち米あめ」をからめたもの。大根からしみでたエキスは、咳、のどの痛みによく効くという。

◎レンコンあめ:皮ごとすりおろしたレンコンといっしょに米あめを煮詰めたもの。咳止め、喉薬の民間療法で知られている。

市販商品にニセモノ多し、ご用心

これほどまでの、米あめの活躍、効用ーー。まさに、ほとんどの現代日本人には、新鮮な力ルチャーショックであろう。

「なら、今日から米あめ」と自然食品店やスーパーに行って、買い物カゴに入れることは、おすすめできない。市販米あめには、問題が多い。

三五ページの表は、老舗、小笠原商店の『特選もち米あめ』と、他社製品との比較。

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同社は、無農薬栽培で最上級もち米を使うというこだわり徹底ぶり。

ところが、他社の自然食品として売られている米あめは、うるち米どころか、さつま芋、でんぷんまで使用している。

栽培も無農薬でない。その差は大きい。

さらに、スーパーなどに並ぶ米あめの原料は…でんぷん、さつま芋、ジャガイモ、コーンスターチ(トーモロコシでんぷん)。

さらに、麦芽は使わずに「酸や酵素で糖化する」といったインスタント製法。

まるでニセ米あめそのもの。なんで、こんな姑息なことをするのか、悲しくなる。

これに対して、小笠原商店の伝統を守る藤田さんは立派だし貴い。

月刊マクロビオティック 2004年02月号より

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船瀬俊介 (ふなせ しゅんすけ)地球環境問題評論家

著作 『買ってはいけない!』シリーズ200万部ベストセラー 九州大学理学部を経て、早稲田大学社会学科を卒業後、日本消費者連盟に参加。

『消費者レポート』 などの編集等を担当する。また日米学生会議の日本代表として訪米、米消費者連盟(CU)と交流。

独立後は、医、食、住、環境、消費者問題を中心に執筆、講演活動を展開。

船瀬俊介公式ホームページ= http://funase.net/

船瀬俊介公式facebook=  https://www.facebook.com/funaseshun

船瀬俊介が塾長をつとめる勉強会「船瀬塾」=  https://www.facebook.com/funase.juku

著書に「やってみました!1日1食」「抗がん剤で殺される」「三日食べなきゃ7割治る」「 ワクチンの罠」他、140冊以上。

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