札幌の自然食品店「まほろば」主人 宮下周平 連載コラム
植物さんは知っている
エリクサーが完成した2000年前後の頃だったと思う。
偶々、広島市の老舗自然食品問屋ビバさんの森戸忠社長を訪問した際、広島の山奥に、植物の声を聴く先生がいらっしゃるから、一緒に参りましょう、と言うことになった。
早速、調べて戴こうと、完成したばかりのエリクサーを携えて同行した。
その先生、三上晃理学博士。全くサイキックな精神世界系に関心のない元高校の校長先生だった。
だが、荒唐無稽な想定外の答えが降りるも、率直に信じて疑わず。
「植物さんのおっしゃることだから」と従う。
BLS/バイオ・リーフ・センサーという電子機器を使って、研究室前の赤松に刺し、その線を室内に引き込み、計測器に繋ぐ。先生の質問に、「YES、NO」の答えを出す。
また、波動指数も出る仕組み。それなら、人体を介在するか、植物を介在するかの違いで、0―1テストや0―リングテストとメカニズムは同じであろう。
開口一番、奇想天外な答え、「あなたは、琴座から来た」というもの。これには些か驚くも、確かめようがない。
内心、古琴も学んだ縁から、これは関係無きにしも非ずか、と考えてみたりもした。
エリクサーは好成績だったと記憶するが、実証のしようがないから、この件は公に明かしたことが無かった。
それで思い出すのが、「バクスター効果」だ。
十代の頃、植物には感情がある、と話題になった。「嘘発見器」の第一人者で「植物は思考する」と主張するクリーヴ・バクスター氏。
植物間のコミュニケーションを初めて発見した人で、米国の「国際超心理学雑誌」などで論文発表、各国の科学界などから反響を呼んでいた。
兎に角、一貫していることは、「植物は無心にして超能力を有している。人間より植物の方が信用出来る」というものだった。
確かに、農業をやっていると、植物ほど正直で敏感な生命体はない。
そういえば、高名な植物学者・牧野富太郎博士をして、「植物さんは偉大なる能力をもち、神に最も近い存在である」と言わしめている。
さらに、三上先生のBLSで、太陽に水が存在しているというトンデモ判定があったが、後に1995年米国光学天文台でその存在が確認されたというから、あながち蔑視出来ない。
エリクサー製造過程で、0―1テストが出す奇想天外な答えも最後、その結果を科学的にも経験的にも追認して来たことから、人間の常識知ほど、当てにならないものもないのだろう。
シマード女史の驚くべき研究発表
千葉で、先駆的に森林再生に取り組まれている高田造園さん。
一昨年仁木農園で援農研修された、その造園主・高田宏臣代表の内弟子で作庭修業された甲田(竹内)和恵さん(現、大阪府泉南郡在住)から、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学(UBC)森林科学教授のスザンヌ・シマード(Suzanne Simard)女史の情報が送られて来た。
それは、見えざる植物の実態を科学的見地から実証した驚くべき内容で、正に、上記の植物の偉大なる能力を世に披瀝するものだった。
生物学者であるシマードさんは、お祖父さんの森林で生まれ育った森の申し子、根っからの森からの少女であった。
大学で森林学を学び、如何なる化石燃料の害より、森林破壊こそ温室ガス最大の原因であることを突き止めた。
そして、森のネットワークを復興することこそ、地球再生の唯一の解決策であることを訴えている。
その証明に、我々の知られざる地下圏ではダイナミックな世界が繰り広げられているのではないかという想定で、ある実験を行った。
それは、放射性同位体炭素C14、C13のガスを、トレーサー(追跡子)として用いることだった。
通常の炭酸ガスは99%。この安定同位体は1%。白樺の若木に覆いをしてC14ガスを、離れたモミの若木にC13を注入し、この異なったガスが、ガイガーカウンターで互いの木から検出された。
そして80回の再現テストを試みた。その結果、外界からではなく、地下系においてエネルギーの交換が行われていたのだ。
さらに、先端計測器で、防衛シグナル、アレル(対立遺伝子)物質とホルモンという言葉で交換し合って、相互依存していることを解明。
殊に、森林における主要なハブの大木を、「母木/MOTHER TREE」と称して、葉に炭素を固定し、幹を通じて地下の交流ネットワークで全体の木々に炭素を送る。
特にストレスを抱えた低木や、自分が生んだ実生の幼木たちには、多くを供給するというのだ。
また、子が根を張り易いように、自らの根張りは、そこを避けるというから、正に母心である。
まるで、人のように、動物のように。母木の撫育庇護によって、苗木は4倍もの生存率を高めるという。
母木が傷付くと防御信号を送って、若木とコミュニティ全体のこれから受けるストレス耐性の自己回復力をも強化しようとする。
かくも、母木が枯れて死ぬ前に、次世代の若木に多くの智慧のメッセージを送ることが判明したのだ。
そして、樹木と菌糸体の共存共栄の共同作業には、目を瞠る。木は光合成により、空中の二酸化炭素を取り込み、酸素を吐く。
そして、地下では根が炭素を、周囲の菌類に 供給しながら根を軟化して伸ばす。
キノコなどの菌子体は、葉がないため光合成が出来ないのだ。
それで、木々から炭素をもらう代わりに、体内に貯蔵した水やN・Pなどの栄養素を与え、根に着床し繁殖しながら信号を送り、木々を誘導する。
母木の足元には、500km四方に及ぶ菌子体が行き渡っており、そのコミュニケーション能力は驚異的であり、神秘的でさえある。
お互い様の世界が、見えない地下系で繰り広げられている。この共生する集合体を「菌根/mycorrhiza」と呼ぶ。
木が接点/ノードになり、菌が繋ぐ線/リンクになり、無数に張り巡らされた複雑なシステムとネットワーク社会は、地上のインターネットやFacebookやハイウェイのように縦横無尽に情報が行き交って、より良き環境適応のために、常に会話しているのだ、まるでスマホのように。
このように、最も古くして、最も新しい情報網ネットワークが、森林の中で存在していた。
そして、樹々は孤立でなく、競争でなく、それは支え合う一大家族だったのだ。
あの映画『アバター』の中に木が根部を通じて交流するシーンはフィクションでなく、ノン・フィクションだったのだ。
地球太古からの再現
胎児は十月十日を母体の中で、一日160万年の単位で、5億年かけた進化の旅を続ける。
原始魚類から古代魚類、両生類から爬虫類へ、そして哺乳類へと、個体発生は系統発生を繰り返すのだ。
混沌の太古の地球、35億年前。海中で藍藻類シアノバクテリアが発生し、光合成で酸素を出してより、多くの生物体が誕生し進化を遂げた。
海から陸上に上がり、地上でイノチの大パノラマが繰り広げられて今日あるように、地球史が地中において再現されているのだ。
かつての生物は過去の遺物ではなく、今なお同時態で共存して生き延びているのだ。最古の菌も最新の樹木も、お互い家族として助け合っている。
熊野の原生林で粘菌研究をした稀代の博物学者、天才・南方熊楠。彼も樹木と菌の濃密な関係を知り尽くしていた。
人並外れた博覧強記の脳髄と蒐集探索の精力。
あの明治大正期において欧米で名と業を馳せた彼を、今なお凌駕する傑物は出ていない。
神社合祀令に反対して鎮守の社と杜を守ろうとした一途な姿勢は、今日の自然保護運動の先駆けであった。
それは、菌と樹木の切っても切り離されない絆を、誰よりも遥かに理解していたからだ。
そして、アメリカの前衛作曲家ジョン・ケージ。
無類の茸採集好きで、それは異常とも言えるほどだった。
だが、彼はチャンス・オペレーションという偶然性の概念を音楽に導入した。
正に、東洋思想の無為の哲学、易の原理、禅の精神をもって、アカデミックな音楽史を180度塗り替えた。
その根底には、菌根類の必然の動きではない、必然と偶然の絡み合い、そのイメージが音符に託されていた。
自然も社会も身体も、或いは星々の宇宙も、持ちつ持たれつの協力互助関係で平衡バランスが保たれている。
自分に帰ってみよう。脳が指令し、心臓が制御していると思い込んでいた人体が、実はお互いの臓器や細胞同士で、複雑な情報「メッセージ物質」を交換して、身体を健全に維持しようとしていた。
恒常性/ホメオスタシスの機能は、決して脳における一方通行の命令系統ではなかったのだ。
いわば、各臓器各細胞同士で相談し、判断し、作業している一個の人体。
宇宙や人類世界に勝るとも劣らない驚異の巨大情報ネットワークは、ミクロもマクロも相似象でアクセスされ、そして大宇宙の記憶保存装置からデータを引き出しているのだ。
日本再生は出来る!!
だが、幸いに日本は、国土面積約3780万haに占める森林面積が、約2500万haと7割に及んでいるグリーンランドなのだ。
フィンランドに次いで、世界第二位。森林のもつ機能としての評価額が70兆円。
それから生み出される効用は、数値では表せないほど想像を絶する。
つまり、日本は【菌根浄土】なのだ。植物にとって、これほど恵まれた国土は、他にあろうか。
荒土は、人心を荒廃させる。緑土は、人心を浄化する。
7割をもってすれば、3割の衰退は、何時でも元に戻せる。それは、人心とて同じだ。緑ある限り、日本の復興は何時でも叶う。
まさに「希望の国」、日本である。
今年から 籾殻堆肥
農業は、言ってみれば、この地下系ネットワークの再現にかかっているのだろう。
作物の根が十分に張り巡らされ、微生物群菌類が網羅して、栄養の交換をしながら、健全に作物を育てられるか否かが鍵だ。それは、国土再生にもつながる。
植物が健全に生育するには、地下系ネットワークの隙間が要る。
ノード(接点)を繋ぐリンク(線)の配線管が、それだ。それはその菌子体が根と共同作業する命綱でもある。
つまり、微生物が活発に活動できる環境、その住居と食物を整えてゆく必要がある。
その一つが、完熟と半熟の混ざった籾殻の空間だ。他にも稲藁や麦稈など色々あるはずだ。
さらに、動植物の堆厩肥。これで一層、光合成細菌と根っこに活発な連携プレーをもたらす。
今季、この堆肥を苗木作りから用いた。自家採種の南瓜の幼苗を大きなポットに、この堆肥を今年初めて用いて植え替えを行った。
そして翌朝観ると、何と双葉本葉が一朝にして二倍の大きさに成長しているのには、感嘆の声を挙げた。
まるで苗木たちが、体を振ってキラキラ輝きながら嬉しそうにしている。鈍感な私でさえ、その苗の歓びの表情には、心奪われた。分かるのだ。
植物の気持ちが手に取るように見えるのだ。ここにも、菌根関係は、切っても切れない。嬉しい。
MOTHER TREEの大霊と菌子なる衆生は、数珠繋ぎ
地表が鏡のように、地上の様子が、地中に映る。地球環境の劣化は、地中環境の衰退でもある。
化学農業や工業生産、消費社会の汚染有毒物質が、皆土中に侵入して、死の廃墟と化そうとしている。
菌が死に、根が死ぬ。それに追い打ちをかけるように、森林伐採は、最後の留めである。
それは、MOTHER TREEの死である。
そして、MOTHER LAND 「母なる大地」の死でもある。
一旦、MOTHER TREEが伐採されると、再生されることが難しいという。
何十年、何百年の時を待っても周りの環境が付いて行けない。皆伐しても、母木さえ残せば、驚くほど回復は早い。
そして、多種類の種と遺伝子を残すことが大切だ。
我々の一人一人のイノチも、誰かのイノチと数珠繋ぎで、共に生きているのだ。
決して一人ではなかった。そして、MOTHER TREEがあって、この地上が支えられているように、
MOTHER SPIRITが存在して我々が生きていることを知らされる。
大木、一樹のような大霊、一霊が我々を生み育てていることは、疑いもない事実なのだ。
そこから、曼荼羅のように四辺十方に、イノチの網の目が拡がって、この地球を、この宇宙を生み出し、動かしているのだ。
宮澤賢治は、これを因陀羅網のネットワークと呼んだ。
彼の信奉する法華蔵世界、華厳蔵世界は、まるでイノチのお花畑が、次々と花を咲かせて止む時がないという。
一つ一つの花には、全ての花が映り、全ての花には、一つの花が映っている。そして、それは大輪の花、MOTHER FLOWER が、宇宙の中心に咲いて、映っているのだ。
岡先生宅からの伝言
朝、ハウスで野生アサツキ「ノビル」の収穫処理をしていた時、携帯が鳴った。
奈良の数学者・故岡潔先生のご長男の煕哉氏からだった。奥様の梅野さまから、今晩NHK・Eテレで、お義父様が紹介される、というもので、詳細は分からなかった。
緊急の事ゆえ、どうしてもお伝えしたかった、と。誠に、勿体ない事であった。
ついで、煕哉氏に代わって、その声をお聞きした時、電撃のような情感が全身を襲った。
まるで、それは生前の岡先生の生き写しの気高いお声が天上から響いたのだった。
瞬間、その場で声が詰まり、涙ぐんでしまった。こんな胸の高鳴り、久しく忘れていた、五十年ぶりの感慨だった。
「あぁ、あの頃、こんな気持ちでいたなー」と、青春の日々が、俄かに蘇って来たのだ。
「これが、懐かしさか」。煕哉氏に申し上げると、「やはり血を分けた息子ですから、似るものがあるのでしょう」と。久々の感銘に、心が晴れ渡った。
そして、自分の中に、何か決意するものがあった。
早速、知友の森田貴英弁護士、あの映画『降りてゆく生き方』を作った彼に、TV放映のことを伝えようとした。
すると、彼は全く驚いた様子で、「『何というタイミング!』今、新著、岩波文庫の山崎弁栄著『人生の帰趣』の解説―愛と霊性の佛教哲学―、知人で敬虔なカトリックの評論家・若松英輔さんのそれを読み終えたばかりの所。
その最後、岡潔先生の『一葉舟』から「如来はいつもましますけど衆生は知らない。それを知らせにきたのが弁栄である。」と書かれてあった。
そこには、不滅の如来の存在なくして、私たちは存在することすらできないことを、彼はその生涯をもって伝えたのだ」と、彼は電話越しに読んで下さった。
人生、ことに佛教哲学に造詣の深い森田さんは、この引き合わせに、ある天啓を感じ、何時に無く興奮と感慨深い様子であった。
その夜、Eテレ「100分de名著」に、キリスト者・神谷美恵子さんの名著『生きがいについて』の中で取り上げられていた岡先生の少年期。
箱庭造りや昆虫採集に熱中したことが、研究に没頭させる契機になったという。
箱庭を計画し作り眺める全体観、国蝶オオムラサキを発見した時の鋭い歓び。
これが後々、数学研究の構想と発見の歓びをもたらせ、それがおのずと「生きがい」となり、生きる動機付けとなった、と。
そして、その番組の解説者が、何と若松英輔氏だった!という偶然と驚き。
正に、シンクロである、コンタクトである。繋がっている。見えざる霊的ネットワークが、このように細やかにも速やかに、日常でも繋がっているのだ。
それは、一瞬たりとも、違うことなく、惑うことなく。
その人の縁という張り巡らされた網の目を手繰り寄せたら、そこに「如来」なるイノチの「MOTHER FLOWER」が、「MOTHER TREE」が 在しました。
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宮下周平
1950年、北海道恵庭市生まれ。札幌南高校卒業後、各地に師を訪ね、求道遍歴を続ける。1983年、札幌に自然食品の店「まほろば」を創業。
自然食品店「まほろば」WEBサイト:http://www.mahoroba-jp.net/
無農薬野菜を栽培する自然農園を持ち、セラミック工房を設け、オーガニックカフェとパンエ房も併設。
世界の権威を驚愕させた浄水器「エリクサー」を開発し、その水から世界初の微生物由来の新凝乳酵素を発見。
産学官共同研究により国際特許を取得する。0-1テストを使って多方面にわたる独自の商品開発を続ける。
現在、余市郡仁木町に居を移し、営農に励む毎日。