プラスチックから有害な環境ホルモンが溶出 

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船瀬俊介連載コラム

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ときに歴史的な科学の発見は、ミステリー仕立てで出現する。

環境ホルモン作用の発見も、まさに奇々怪々な謎解きから始まった。時は1987年、クリスマスも迫るころ。

場所はボストン大学の古びた煉瓦造りの建物。その一画にある実験室。顕微鏡を熱心に覗くアナ・ソトー博士。

彼女は細胞増殖の謎を解き明かすために二十年以上も研究に没頭してきた。それは細胞の異常増殖であるガン発生のメカニズムを究める遠大な旅でもあった。

もう一人の同僚、内科医カルロス・ソンネンシエイン医師とともに顕微鏡のレンズを子鵬に覗く日々…。

二人が使用したのはヒト乳ガン細胞である。乳ガン細胞はエストロゲンの刺激によって増殖することが知られていた。

87年12月、かれらは仕切りのたくさんついたプラスチック・プレートを用意して、乳ガン細胞を、十二個の小さなカップに入れ替えた。

それからしばらくして、顕微鏡をのぞき込んだソンネンシェイン医師は仰天した。プレート全体は「ラッシュ時の地下鉄駅」のように、乳ガン細胞であふれ返っていた。

ガン細胞は狂ったように増殖しつづけていたのだ。

二人は呆気にとられて顔を見合わせた。まさに異常事態。

「いったい何が起こったのか……」

何かが外部から混入したのかもしれない。そこで、二人は別のプレートで実験を繰り返した。やはり、乳ガン細胞は猛烈な増殖をみせた。

「何もしていないのに…?」

かれらは頭を掻きむしらんばかりに悩んだ。

「だれかが実験を妨害しているのか」

コーニング社「プラスチック試験管」が犯人だ!

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それから二年後、ようやく真犯人がわかった。 かれらが、実験室に新たに持ち込んだものはコーニング社製「プラスチック試験管」のみだった。

犯人探しに疲れ果てた二人は、つぎの実験に備えて、何の気なしにファルコン社製プラスチック試験管」に替えてみた。

それから数日後、顕微鏡を覗きこんだ二人は、息をのんだ。異常増殖は、おさまっていた。

「犯人は、オレンジ色のフタがついたコーニング社製プラスチック試験管」だったのである。

おそらくこの試験管から何らかの物質がしみ出て、実験用血清を汚染したのだ。「それはエストロゲンとよく似た作用を持つ物質にちがいない」

まさに灯台下暗しーーー。

さらに、かれらは愕然とする。「プラスチックは、不活性物質だと思われてきた。ところが、それは生物学的にみても活性物質だった」

不安が黒雲のように沸いてきた。

「実験用プラスチック試験管ですら、こんな細胞異常増殖が起こるなら、プラスチック全般でも、同じようなことが起こっておかしくないはずだわ」

実験室で起こったミステリーの犯人像は、二人の研究者の想像を越えるほど巨大な影であった。

乳ガン細胞を地下鉄ラッシュ並に増殖させる。

それは、もはや毒物でしかない。つまり、不活性な物質と思われてきたプラスチックは、実は恐るべき生物毒という隠れた一面をもっていたのだ。

添加物P・ノニルフェールをつきとめる

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二人の研究者は、問題のコーニング社から「従来の合成樹脂に手を加えて、耐久性のある新しい試験管を開発した」ことを知らされる。

この新製品の成分についてソトー博士は、質問した。

返ってきた答えは「ノー!」であった。拒絶の理由は「企業秘密」。二人は憤激した。

「同じ試験管が、病気の診断テストに使われたらどうなるか?」

「食品パッケージや赤ちゃんの哺乳瓶に使われたら…」かれらは絶句する。

「赤ちゃんがエストロゲン様物質を飲んでしまう!」

二人は執念の研究を続けた。そして、二年の月日が経過した。そして、ついに犯人像がくっきりと判明した。

その分析結果は、P.ノニルフェノールであった。これはアルキルフェノールと呼ばれる化学物質の仲間である。

ノニルフェノールはポリスチレン、塩化ビニール(PVC) などのプラスチックに酸化防止剤として添加されていたのだ。

すると分解されにくく安定した品質となる。

ミステリーの発端となった試験管は、ポリスチレン製だった。

そこに、コーニング社はP.ノニルフェノールを密かに添加して、耐久性のある新製品として販売していたのだ。

他社の試験管に変えたら細胞増殖がピタリ止まったのは、この化学物質が添加されていなかったからだ。

月刊マクロビオティック 2000年10月号より

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船瀬俊介 (ふなせ しゅんすけ)地球環境問題評論家

著作 『買ってはいけない!』シリーズ200万部ベストセラー 九州大学理学部を経て、早稲田大学社会学科を卒業後、日本消費者連盟に参加。

『消費者レポート』 などの編集等を担当する。また日米学生会議の日本代表として訪米、米消費者連盟(CU)と交流。

独立後は、医、食、住、環境、消費者問題を中心に執筆、講演活動を展開。

著書に「やってみました!1日1食」「抗がん剤で殺される」「三日食べなきゃ7割治る」「 ワクチンの罠」他、140冊以上。

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