葛粉は太古より日本人は常食してきた【日本人の暮らしに葛の恵み】

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船瀬俊介連載コラム

葛根湯から布まで葛の葉は踏みしだかれて新たなりこの道を行きし人あるらむ

今回のテーマを項いて、ふと心をよぎった短歌。たしか小学校のときに習った想い出がある。

読み人はだれであったか……。正しい記憶か、心もとないが、その情景は鮮烈に目に浮かび、40年以上の歳月を経て、胸に浮かんだ。

葛とはーー。

「豆科の大型蔓性の多年草。山野に多く、蔓の長さは10メートル以上にも達する」と『広辞苑』にある。

その葉は大きく、葉は白っぽい。秋に紫紅色の花を咲かせる。そして「根は肥大し、生薬の葛根として解熱剤に用い、また葛粉を採る」(同)とある。

ナルホド……と、ここまで読んでうなづく人も多かろう。

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よく聞く葛根湯は、葛が原料の漢方薬であった。

落語で、長屋の八つぁんが風邪で鼻をグズグズ言わせていると、大家さんが「なんだい。風邪かい。しょうがねえなぁ。葛根湯でも飲んどきな」なんて台詞があって、いったいどんな薬か……と、若いころ思ったものだ。

ちなみに、葛は、漢方薬や、食用だけではない。

葛の長い繊維は、織ることで「葛布」となる。「いったいどんな布だろう?」と想像力をかきたてられる。ちなみに「葛帷子」とは、その布で仕立てた「帷子」。

これは「帳」といわゆる間仕切りに架けた、ひとえものの夏着に用いた。なんとも涼しそうではないか。

「葛袴]は、葛布で仕立てたフォーマル・ウェア。「綾葛」は贅を尽くした綾織りの「葛布」のこと。いまは細々と民芸品として生き延びている。

日本人の暮らしに葛の恵み

さらに、葛の茎は「行李」など、日常に供する容器の原料となった。葛ひとつが千変万化することに驚く。

さらにまた、「葛垣」とは、葛の蔓で編んだ垣根のこと。秋には一面の緑の葉、さらに紅紫の花が、どんなにか美しかろう。

葛は「秋の七草」のひとつでもあり、万葉集にも歌われている。

つまり、葛の葉。花は秋の季語でもある。「葛掘る」は晩秋に葛粉を採るため、葛の根を掘る作業を差す。

これも、古米より秋の季語。

葛の花は、その絞り汁や煎じ汁は「二日酔いに卓効アリ」と伝えられる。肝機能を改善するのだろう。

葛の花は食用にもなる。花のつぼみを茄でて、すまし汁に。また三杯酢でいただいても美味。葛の葉は、葉緑素が豊富。血液浄化作用がある。

お茶がわりに健康飲料として最適だ。

またも、ナルホド……とうなづく。まさに、葛は、日本の伝統文化の中に脈々と息づいてきた植物なのだ。

衣食住から医療まで葛は日本人の暮らしに溶け込んでいたことに感銘を受けた。

しかしまあ……。いつの間に、日本人は、その民族の心ともいえる植物を、忘れ去ってしまったのだろう?

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葛粉は、葛の根を叩いて、水に浸し、汁を絞って晒してつくる。純白の粉。澱粉質が豊富で、さらに薬効成分を合む。

奈良県吉野産の「吉野葛」は、とりわけ有名だが……。

さて、さて、今回の「葛粉」の取材。まさに暗中模索。日本CI協会の花井賜光さんに助けを求める。

「市販の葛粉と言っても、ほとんどニセモノだからなぁ」には焦る。

「(CI協会創設者の)桜沢如一の代から、つながりのある本物の生怪者を紹介しますよ」と、ご紹介いただいたのが(株)森野吉野葛本舗。当主の森野藤肋氏(七三歳)は、なんと十九代目という。

お電話に出られた奥様、テルさん(六四歳)は、じつにはんなりと上品な物腰の方。淡々と「創業は江戸初期、いらい四00年になります」には驚いた。

葛粉は、太古より日本人は常食してきたのだ。「葛粉は保存がききますし、飢饉のときの保存食などにもなりましたね」(テルさん)

「なかなか採るのが大変です。なかなかお米のようにはいかない。野生の葛の根を掘って採りますが澱粉は一割くらいしかありませんから」

「見た目は山の芋より太いですが、ほとんど繊維です。それを採って砕いて、水にさらして……手間がかかります」(テルさん)

ちょうど昨日、日本テレビの「鉄腕DASH」という番組で、葛根を掘るところから葛粉まで取材したものが放映されたという。

マスコミが、伝統食材を真摯に取り上げ始めた。これは素晴らしいことだ。

野生の葛を探したりするのは大変に思えるが。「繁殖力が強いので、山を開発しないかぎり、掘っても掘っても絶えることはないんです。けれども大きくなるのに七~八年はかかります」

「植林のしていない雑木林のような日当たりのよいところなど......。歩留まり、つまり澱粉の含有率の高いものを探して掘るんです。掘り貨は日当になります」

これは高価なものになって当然だ。

奈良時代、役行者が伝えた?

そもそも日本人は、いつから葛粉を常食するようになったのだろう。

「さあ……。役行者が発見したという言い伝えがありますが……」とテルさんも小首をかしげる風。

役行者は、奈良時代の修験道の開祖。大和国葛城山に住んで修行をし、吉野の金峰山を踏破し開いたという。

なるほど、住んだ場所が葛城山。葛が生い繁った山であったことがわかる。修験道とは、現在でいえばアウトドア・ライフ。

自生する葛根から葛粉を得て、食用としたことは十分に想像できる。

役行者は六九九年、伊豆に流されるなどの不運も経ている。伝説が誠なら、少なくとも1300年以上前から葛粉は食用に供せられていたことになる。

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おそらく真のルーツは縄文期にまでさかのぼるのではないか。

それにしても「原材料:野生の葛根一00%」は立派。農薬・除草剤も「野生葛根のためまったく無関係」なのだ。

現在、日本で野生葛を販売している業者は……?

「もう、四、五軒くらいですね……」に唖然。それにしては、スーパーなど「葛粉」が売られているが、花井さんのいうようにニセモノなのか。

「ほとんど『吉野葛』と書いていても、原材料はサツマイモ等ですね」。それは、ヒドイ。

「わたしどものは『吉野本葛」です。裏の表示を見ていただければ、原材料という欄にはっきり明記するよう、このごろは厳しくなっています。

『吉野葛』という商品には原材料:甘藷でんぶん』とあるはずです」(テルさん)

続きはこちらから→ 葛切り、葛餡、葛根湯と多彩なメニューの伝統食【吉野本葛】

月刊マクロビオティック 2004年5月号より

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船瀬俊介 (ふなせ しゅんすけ)地球環境問題評論家

著作 『買ってはいけない!』シリーズ200万部ベストセラー 九州大学理学部を経て、早稲田大学社会学科を卒業後、日本消費者連盟に参加。

『消費者レポート』 などの編集等を担当する。また日米学生会議の日本代表として訪米、米消費者連盟(CU)と交流。

独立後は、医、食、住、環境、消費者問題を中心に執筆、講演活動を展開。

著書に「やってみました!1日1食」「抗がん剤で殺される」「三日食べなきゃ7割治る」「 ワクチンの罠」他、140冊以上。

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